認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症と発達障害

発達障害ともの忘れ(25)

前回は、発達障害の気質を強く持つ人ほど認知症になりやすいため「予防」が大事になるということと、認知症疾患は「発病」してから「ある一定以上」に脳細胞が減少して初めて「発症」するというお話をしました。 今回はその続きになります。 「脳を耕す」こ…

発達障害ともの忘れ(24)

前回は、発達障害の気質は「弱さ」であると同時に「強さ」にもなり得るものであり、発達障害の気質を強く持つ人ほど、自分の興味があることに特化して没頭したり、エネルギッシュに取り組んでいける傾向があり、それで脳を深くまで耕すことができたりするの…

発達障害ともの忘れ(23)

前回は、脳は使うほどに脳細胞が増えてシワも深くなるので、頭をよく使うほど「脳を耕すことができる」と言えるのではないかということや、湯川秀樹博士の脳の形態は一般的な人に比べるとひと回り小さいけれども、その代わり驚くほどシワが深かったというこ…

発達障害ともの忘れ(22)

前回は、「窓際のトットちゃん」でトットちゃんが通っていたトモエ学園の教育についてご紹介し、そこで実践されていた教育は「発達障害」の気質が強い人にも適用できる「懐の深い」ものであり、私たちに大きなヒントを与えてくれるというお話をしました。 今…

発達障害ともの忘れ(21)

前回は、成長期にある子供の脳神経細胞はまだ未成熟なために「ストレス」による影響を受けやすく、子供に大きな「ストレス」を与えるような怒り方や暴言・暴力が脳に及ぼす悪影響は想像以上に大きいというお話をしました。 今回はその続きになります。 「窓…

発達障害ともの忘れ(20)

前回は、もともと「脳神経細胞の脆弱性」を有している「発達障害の気質」の強い人ほど脳神経細胞が変性しやすく、それで認知症を伴う神経変性疾患も発症しやすくなっているため、脳神経細胞の健康を保つためには、日常的にいかに「ストレス」を感じさせない…

発達障害ともの忘れ(19)

前回は、「認知症」や「発達障害」は、ある意味「社会の病気」でもあることや、「発達障害の気質」が強い人が問題なく過ごせるかどうかは周りの人たち次第であるというお話をしました。 さらには、周りにいる人たちの心持ち次第で、「発達障害の気質」を強く…

発達障害ともの忘れ(18)

前回は、「発達障害の気質」は誰もが持ち合わせているもので「個性」でもあるということ、さらには「発達障害」や「認知症」の診断は本人の状態だけに依拠してなされるわけではなく、社会活動や日常生活に何らかの支障があってはじめて「診断」されるため、…

発達障害ともの忘れ(17)

前回まで3回に渡り、発達障害の気質が強い人で「もの忘れ」を訴えて受診されてきた3症例についてご紹介いたしました。 今回はその続きになります。 「発達障害の気質」は誰もが持ち合わせているもので「個性」でもある これまで「発達障害ともの忘れ」につ…

発達障害ともの忘れ(16)

前回から、発達障害の気質が強い人で「もの忘れ」を訴えて受診されてきた実際の症例についてご紹介しています。 今回は3人目の症例についてです。 (症例3)「もの忘れ」を主訴に来院された40代女性 夫と別居中で実家で両親と3人で暮らしている方ですが…

発達障害ともの忘れ(15)

前回から、発達障害の気質が強い人で「もの忘れ」を訴えて受診されてきた実際の症例についてご紹介しています。 今回は2人目の症例についてです。 (症例2)「もの忘れ」を主訴に来院された40代男性 妻と子供と3人で暮らしている方ですが、この1年でも…

発達障害ともの忘れ(14)

前回は、患者さん本人の訴えに家族が「共鳴」してしまうと、本人の症状をさらに「増幅」させかねないこと、本人や家族に「待てない」気質があると、目の前に表れる症状に振り回されて薬を勝手に調節してしまうことがあるため、そうなるとさらに治療が難渋し…

発達障害ともの忘れ(13)

前回は、パーキンソン病の人は「暗示にかかりやすい」傾向があるため、治療ではそれを利用して得られる薬の効果を大きくするような声掛けをすることがあること、心配性の患者さんは診察時に悪いことしか言ってこないことがあり、そのような場合には治療に難…

発達障害ともの忘れ(12)

前回は、ドーパミンが少なくなっているかどうかは、パーキンソン病や発達障害の人に限らず、ドーパミンの機能が落ちることで生じる「パーキンソン症状」が認められれば、その可能性が考えられること、そしてその病態としてはレビー小体型認知症や大脳皮質基…

発達障害ともの忘れ(11)

前回は、パーキンソン病や発達障害の人は「気分」や「気持ち」に左右されやすく、それゆえ「ストレス」にも弱くなっているため、何らかの「ストレス」がきっかけになってさらにドーパミンの分泌量が減少してしまいやすく、それが「注意障害」の前景化や「覚…

発達障害ともの忘れ(10)

前回は、ドーパミンは体内に増えてくると「幸福感」や「やる気」が湧いてくるため、それが別名「幸せホルモン」「やる気ホルモン」ともいわれる由来になっているけれども、もともとドーパミンが不足がちなパーキンソン病や発達障害の人には、このようなドー…

発達障害ともの忘れ(9)

前回は、まず発達障害の気質のある人が「もの忘れ」を訴えるようになるパターンを整理し、それは「注意障害」と「覚醒度の低下」が大きく関与していることが多いということをお話ししました。 また、注意欠陥多動性障害(ADHD)で「注意障害」や「覚醒度…

発達障害ともの忘れ(8)

前回は、発達障害の人は覚醒度が低下することで、もともと持ち合わせている「注意障害」が前景化し、そのために「もの忘れ」を訴えることもあり得るというお話をしました。 さらにその原因として、発達障害の人は「覚醒度」を保つうえで中心的な役割を果して…

発達障害ともの忘れ(7)

前回は、20~50歳代で「もの忘れ」を主訴に当院を受診される発達障害の気質が強い人の場合、「ストレス」が原因でさらに「注意障害」が増悪し、その結果「もの忘れ」を訴えるのに至ったのではないかと考えられるケースがほとんどだというお話をしました…

発達障害ともの忘れ(6)

前回は、「注意障害」があって「注意の容量」や「ワーキングメモリ(作業記憶)」が低下すると、その人が行っているあらゆる活動において、その作業効率や精度、スピードなどが下がりやすくなるということをお話ししました。 また、そもそも発達障害の気質が…

発達障害ともの忘れ(5)

前回は、発達障害の気質が強い人の「もの忘れ」は認知症疾患が原因でないことが多く、その原因として私たちは「注意機能」と「覚醒度」の関与を考えているというお話をしました。 そして、発達障害傾向の人が合併していることが多い「注意障害」の理解を深め…

発達障害ともの忘れ(4)

前回は、アルツハイマー型認知症の発生機序に関する「ミエリン仮説」について少し詳しくお話ししました。 そのうえで、発達障害の人が有する「神経軸索の髄鞘化機能の低下」という特性と、アルツハイマー型認知症の発生機序には「脱髄」と「再ミエリン化不全…

発達障害ともの忘れ(3)

前回は、神経軸索の髄鞘化機能の低下が発達障害や認知症疾患を呈する一因になっている可能性が高いということをお話しし、それに関連して、神経軸索の髄鞘が崩壊して軸索がむき出しになる「脱髄(だつずい)」が、アルツハイマー型認知症の発生機序に大きく…

発達障害ともの忘れ(2)

前回は、発達障害の気質がある人は意外に多く、最近の文部科学省による報告では自閉症スペクトラム(ASD)保有率が1.1%、注意欠陥多動性障害(ADHD)保有率が3.1%、米国のCDCによる報告ではASD保有率は1.85%、ADHD保有率は6…

発達障害ともの忘れ(1)

発達障害の気質がある人は意外に多い!? 当院で認知症と診断される患者さんの多くが、強弱の差こそあれ、もともと発達障害の気質を有しているということを、以前からお話ししてきました。(「認知症と発達障害」カテゴリー記事一覧) ここでいう発達障害と…

「目」に表れる認知症の徴候(4)

前回は、「目」の動きが制限されたり、指などをしっかり追視できなくなるのも認知症を伴う神経変性疾患の症状であるというお話をしました。 今回はその続きになります。 心の動きや頭の働きは「目」の動きと連動している 心がきれいな子供の「目」はとても澄…

認知症治療と薬剤性パーキンソニズム

前回は、薬の副作用で生じる薬剤性パーキンソニズムは頻繁に遭遇するものであり、投薬治療においてはいかに薬剤性パーキンソニズムを生じさせないようにするかが常に大きな課題になっているというお話をしました。 今回は「認知症治療と薬剤性パーキンソニズ…

パーキンソン症状を生じさせる疾患や原因

前回まで「パーキンソン症状」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例を3ケースご紹介しました。 今回は「パーキンソン症状」を生じさせる疾患や原因について整理してみたいと思います。 「パーキンソン症状」は「パーキンソニズム」とも呼ばれます…

「パーキンソン症状」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例(その3)

前回に引き続き今回も「パーキンソン症状」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例についてお話しします。 3番目の症例は70代の男性で「めまい」を主訴に来院されました。 職業は理容師であり、現在も理髪店を経営されています。 「めまい」は10…

「パーキンソン症状」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例(その2)

前回に引き続き今回も「パーキンソン症状」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例についてお話しします。 2番目の症例は「ふらつき」と「もの忘れ」があることを心配して家族に連れて来られた70代の女性です。 屋外独歩は自立しているけれども、…