皆さんはよく眠れていますか?
寝ている時に夢をみますか?
夢を見ている場合、その内容は怖かったり、戦っていたり、嫌な夢だったりしませんか?
寝ている時に身体を動かしたりしていませんか?
イビキをかきますか?
寝言をいいますか?
自分の声で起きたりすることがありますか?
寝ぼけて起きて行動することはありませんか?
実はこれらは認知症外来の初診時に問診票で確認する項目です。
「なぜ睡眠のことを聞かれるの?」と思われる方が多いかもしれませんが、認知症の発症と睡眠にはとても密接な関係があるからです。
実際に確認すると、認知症外来の初診患者さんの多くが何かしらの理由で十分な睡眠を取れていません。
昼間ウトウト眠ってしまって夜はあまり眠れていなかったり、眠っていたとしても嫌な夢をみたり寝言を言っていたり、夜中に何回も目が覚めてしまったりして、しっかりと深く眠れていない方が本当に多いのです。
では睡眠を十分にとれていないことと認知症の発症にはどのような関連性があるのでしょうか。
認知症疾患で一番多いアルツハイマー病は、脳にアミロイドβといういわゆるタンパク質のゴミが溜まっていき、それによって脳神経が変性・脱落して徐々に脳の萎縮が起こり発症すると言われています。
したがって、いかにアミロイドβを脳に蓄積させないかがアルツハイマー病の予防および進行を防ぐカギになるのですが、実は脳のアミロイドβは寝ている間に掃除されて脳から排出されるのです。
睡眠不足や、眠りの質が悪いと脳のアミロイドβがうまく排出されずに蓄積されやすくなるため、そのような生活が長年続くと当然アルツハイマー病を発症しやすくなるわけです。
また睡眠が不十分だと当然翌日の覚醒度が悪くなるので、以前お話ししたように認知症の症状である「意識の変容」が起こりやすくなります。
そして「意識の変容」で覚醒度が落ちると、記憶の欠落や判断力の低下などが起こり、錯視、幻覚、妄想、易怒性、ひどい場合は意識消失などの症状を引き出したり、増強させてしまったりするのです。
したがって認知症の発症と増悪を防ぐためには、十分な睡眠習慣を持つことが不可欠になります。
そこで十分な睡眠がとれていない方や「意識の変容」がある方に対する認知症治療の第一歩として、「睡眠の量と質の確保」を目指すことにになるのですが、もともと睡眠の病気があって眠れないこともあります。
その場合は睡眠の病気の治療も並行して始めなければなりません。
睡眠の病気にはどんなものがあるのかというと、
・不眠症
・レム睡眠行動障害
・ムズムズ脚症候群
などがあります。
それぞれについて簡単に説明していきますと、
まず「不眠症」で現れる不眠症状には、入眠障害、中途覚醒、熟睡障害、早朝覚醒といったものがあります。
眠るまでに時間がかかってなかなか寝つけない入眠障害。
夜中に何回か目が覚めてしまい、その後なかなか眠れなくなる中途覚醒。
眠ったはずなのにぐっすり眠ったという満足感がない熟睡障害。
朝早く目が覚めてしまう早朝覚醒。
これらの不眠症状が単独もしくは組み合わさって不眠状態になりますが、年齢とともに深い眠りの時間がだんだん短くなっていく傾向もあり、高齢者では中途覚醒と早朝覚醒が起きやすくなるようです。
そのため症状に合わせた治療や生活習慣の指導が大切になります。
具体的には
・不眠症状のタイプに合わせて適切な睡眠薬を(できるだけ少量)使用する
・朝日を浴びる、朝食をしっかり摂る、寝る前にスマホやパソコンの光を浴びない、運動習慣を持つなど、体内時計を整えるような生活習慣を心掛ける
などが挙げられます。
また高齢になると夜間トイレが近くて何度も起きてしまうといった方も少なくなく、特に男性では前立腺肥大が合併しやすいため、まずは泌尿器科の受診を促すこともたびたびあります。
「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome;SAS)」は眠っている間に呼吸が止まる病気です。
この病気がある方はイビキをかく方が多く「ガー、ガー」とイビキをかいていると急に「・・・」と息が止まって、その後またイビキをかき始めるので一緒に寝ている人に気づかれることが多いようです。
医学的には、10秒以上の気道の空気の流れが止まった状態を無呼吸とし、無呼吸が7時間の睡眠中に30回以上、もしくは1時間あたり5回以上あれば、睡眠時無呼吸と診断されます。
日本では「睡眠時無呼吸症候群」の患者さんは40歳代から50歳代の男性を中心に推定で約100~300万人いるとされており、イビキをかく人の約7割に「睡眠時無呼吸症候群」の徴候があるといわれていますので、決して稀な病気ではありません。
心配のいらない生理的なイビキとしては、
・寝入りばなにかくイビキ
・とても疲れて寝ている時のイビキ
・飲酒後のイビキ
などがあります。
これに対して「睡眠時無呼吸症候群」を疑わせるイビキとしては、
・一晩中かくイビキ
・呼吸が止まって、その後苦しそうにかく大きなイビキ
などがあります。
主な治療法としては、寝ている間の無呼吸を防ぐために鼻に装着したマスクから気道に空気を送り続けて気道を開いておく「CPAP(シーパップ)療法:経鼻的持続陽圧呼吸療法」や、下あごを上あごよりも前方に出すように固定させることで上気道を広く保つ「マウスピース」を使った治療法などの対症療法、気道を塞ぐ部位を取り除く「外科的手術」の根治療法があります。
もちろん太りすぎないように適正体重を保つこと、お酒を控えること、鼻呼吸の習慣をつけること、仰向けでなく横向きで寝るなど、気道を圧迫させないような生活習慣の改善も大切になります。
イビキをかく人はイビキをかかない人に比べて生活習慣病のリスクが高く、高血圧は2.4倍、脂質異常症が3.2倍、糖尿病が1.2倍というデータもあります。
またうつ病のリスクも2.4倍となっており、認知症の初期症状である「うつ状態」との関連性も疑われます。
「うつ」については認知症疾患やパーキンソン病関連疾患とも非常に関連性が高い「発達障害」でも発症しやすいので、この数字はとても示唆的だと思われます。
「睡眠時無呼吸症候群」では夜寝ているはずなのに朝すっきり起きられず、日中だるくて強い眠気が襲ってくるなど日常生活に支障をきたす場合もありますが、さらに心配なのは睡眠の質も量も不十分な睡眠習慣が続くことで、認知症の発症リスクを高めてしまうことだといえるでしょう。
「睡眠時無呼吸症候群」に限らず認知症の発症・進行についても生活習慣の影響は非常に大きく、うちの先生はよく「認知症も生活習慣病だ」と言っています。
まずは自分の生活習慣を見つめ直し、問題があればできることから改善していく、そういった姿勢が認知症はもちろん生活習慣病の予防と改善につながり、健康寿命を延ばす第一歩になるのではないでしょうか。
長くなりましたので、次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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