前回までは、睡眠と認知症の関連性が深いこと、認知症の治療では睡眠障害の治療も優先して行っていくこと、そして代表的な睡眠の病気を4つ挙げ「不眠症」と「睡眠時無呼吸症候群」、「レム睡眠行動障害」までお話しいたしました。
特に前回お話ししたレム睡眠行動障害は、様々な認知症を呈する神経変性疾患の前駆症状として数年~15年位前から現れること、レム睡眠行動障害があると14年後には90%以上の割合でパーキンソン病やレビー小体型認知症、進行性核上性麻痺などの神経変性疾患を発症するという報告があること、そしてレム睡眠行動障害はもちろん睡眠障害をしっかり治療して良質な睡眠習慣を持つことによって、神経変性疾患を「発病」していたとしても「発症」を予防したり、病状の進行を遅らせたりする可能性があることをお話ししました。
今回は最後の「ムズムズ脚症候群」についてご紹介いたします。
「ムズムズ脚症候群(restless legs syndrome;RLS)」というのはあまり聞きなれない病名ではないでしょうか。
日本神経学会用語集では「下肢静止不能症候群」と命名されていますが、最近はムズムズ脚症候群と言われることの方が多いようです。
脚がむずむずする、脚を動かしたくて我慢できなくなる、ほてるなど、足の表面ではなく深いところに何とも言えない不快な感じが出る知覚運動性、神経性の症状が特徴になります。
また日本人の有病率は2~5%あり、加齢とともに有病率は上がりますが、当院でも10代の方から高齢の方まで幅広い年齢層の方が受診されます。
症状の表現の仕方も多彩ですが、一部を挙げてみますと、
・ムズムズとしかいえない
・言葉ではうまく表現できない
・虫がはう
・火照る
・かゆい
・イライラする
・だるい
・しびれる
・くすぐったい
・血管がつまる
・筋肉が固まる
・むくむ (臨床神経2010;50:385-392より)
などがあり、他にはむずがゆい、脚の中に手を入れて掻きたい、うずく、引きつる、脚を切ってしまいたい、電気が流れる、足踏みしたいといったものもあります。
そしてこれらの異常感覚があるため、本人はじっとしていられなくて脚を動かしたくなり、脚を動かすことで症状が緩和するという特徴もあります。
症状出現の特徴として、じっとしている時、横になった時、眠る時など安静時に症状が現れやすく、何かに気を取られている時や他のことをしている時には症状が緩和する特徴があります。
また症状は夕方から夜間にかけて出現したり増強することが多く、進行すると昼間も症状が出現することがあり、脚だけでなく背中や腕にも症状が出ることもあります。
カフェインやアルコール、タバコ、抗ヒスタミン薬で症状が増悪することもあります。
原因としては鉄欠乏性貧血、慢性腎不全、糖尿病、パーキンソン病、妊娠、向精神薬などが挙げられており、治療ではこれらの原疾患の治療と併せて、第一選択薬としてビ・シフロール®、ニュープロパッチ®、レグナイト®などが使われるようです。
さて、ここまで3回に渡って睡眠と認知症の関係および4つの睡眠障害についてお話ししてきましたが、当院の認知症外来を受診される方の多くが何かしらの睡眠障害を合併していることに驚きます。
そしてその方たちの睡眠障害が改善して質の良い睡眠習慣を持てるようになると、徐々に認知症の症状も緩和してくるので、認知症の治療にとって「睡眠」がどれだけ大事なのかを日々実感させられています。
また認知症でなくても、何かしらの睡眠障害があったり、質・量ともに十分な睡眠を確保できない生活が長く続いてしまうと、認知症を伴う神経変性疾患を発症するリスクがどんどん高まってしまいますので、将来認知症にならないためにも、睡眠障害があったり質の悪い睡眠習慣があるならば、すぐに治療を始めるとともに生活習慣を改める必要があるといえます。
つまり認知症を予防して健康寿命を延ばすには、良質な睡眠習慣を持つことが一つの大きなカギになるのです。
では良質な睡眠習慣を持つためには生活の中でどんなことに気をつけたら良いのでしょうか。
それについては次回お話ししたいと思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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