認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症の治療とケアがうまくいくためには

昨日から今日にかけて日本列島に台風が接近し、各地に大雨を降らせていますが、皆さんの住む地域は大丈夫でしたでしょうか。

実は天候が悪いと認知症の方が「爆発」したり、症状が波打つことが少なくありません。

そのため雨の日などは、困ったり心配する家族から病院に「どうしたらいいのでしょうか?」とよく電話がかかってくるのですが、なぜ天候が悪いと認知症の精神症状がひどくなりやすいのか、その原因は分かっていません。

ただ皆さんも天候が悪いと何となく気分が憂鬱になったりするのではないでしょうか。

認知症の症状があって、日常的に「不安な気持ち」と「穏やかな気持ち」の間で気持ちが揺れ動きながら、ぎりぎりの精神状態で何とか自分を保っているような状態だとすれば、ちょっとしたきっかけでバランスを崩してしまい、不安感や焦燥感などが出てきやすいのではないかと容易に想像できます。

また認知症のある方は、もともと「敏感」な性格や体質の方が多い印象があるので、そういったことも要因になっているのかもしれません。

 

ちなみに持病に神経痛がある方が、天気が崩れる前から痛みがひどくなるため、翌日の天気が分かり「俺の天気予報はよく当たる」などといったこともよく聞くと思います。

天気が悪くなる時というのは、気圧が低い時であり、気圧が低くなると、ほんの少しですが身体が若干膨張することになります。

そのため周りの組織に神経が圧迫されて起こる神経痛がある場合、低気圧で神経周囲の組織が膨張するために、さらに神経の圧迫が強まって、痛みが増強するのではないかと言われています。

また神経痛以外にも、身体の組織が若干膨張することで、もしかすると脳脊髄液や血液、リンパの流れなどにも影響が出て身体活動や精神活動にも、何かしらの影響が出ているのかもしれません。

 

認知症の症状に悪い影響を与えるのは、実は天候だけではありません。

晴れていても風が強くて気圧の差が大きい時などはもちろん、満月や新月、干潮や満潮にも影響を受けるような方もいらっしゃいます。

そのため患者さんのご家族には、認知症の症状がこのような自然の環境変化に影響を受けやすいことをあらかじめ伝えておきます。

そうすると家族は事前に「明日は台風が来るみたいだから、不穏になるかもしれない。また少し爆発するかもしれない」などと心の準備をすることができます。

それだけでも家族にとっては助かるのですが、さらには不穏になった時や、その予兆があるような時に飲んでもらう薬がある場合、天候が崩れる前にその薬をあらかじめ飲んでおいてもらうといった対応も可能になります。

 

我々病院スタッフにとっても有難いのは、実はこのような視点を家族が持てるようになると、介護している認知症の方がどのような時に「爆発」したり「不穏」になりやすいのか、その傾向を家族自身で客観的に見極めてケアをしてくれるようになることです。

いわば家族も我々と同じ「土俵」に乗って(医療スタッフの一員になって)くれることで、治療の目標を共有しやすくなるのです。

そうすると家族もドンと構えられるようになり、電話がかかってくる頻度もぐんと少なくなります。

そうなったらこっちのものです。

うちの先生はよく「認知症の方と介護している方は鏡の関係だ」と言っていますが、周りにいる家族の方が落ち着くと、認知症の方も落ち着いて、症状が良くなることが多いからです。

もちろん逆もまたしかりです。

 

当たり前ですが、本当に認知症の症状で困っている家族は、先生に「何とかしてほしい!」と思って来られるので、初めは悪いことしか言ってくれません。

もちろん家族の方の「何とかしてほしい!」という切実な気持ちや希望も大変よく分かります。

ただ治療が開始された後、先生や医療スタッフが本当に知りたいのは、前回からの処方薬やケアによって「何が悪くなって、何が良くなったのか、もしくは変わらないのか」という客観的な情報なのです。

そうでないと、処方薬やケアの適切な調整ができなくなってしまうからです。

例えば、悪いことばかりの情報を鵜呑みにしてしまうと、精神症状を抑える薬などを増やしすぎてしまいかねません。

精神症状を抑えるような薬は、実は身体の動きを悪くするという副作用が出やすいので、できるだけ少量で使いたいのですが、その調整を間違えてしまうと、うまく歩けなくなって転倒・骨折してしまったり、飲み込みが悪くなって誤嚥性肺炎を起こしてしまったりすることもあるのです。

そして最悪の場合、入院して、寝たきりになって、胃瘻を作って・・・などと命に関わる状態にもなりかねないのです。

 

家族といかに信頼関係を築けるかが、我々医療スタッフの力量だといえますが、適切な診断に基づく有効な治療が大前提であることは間違いありません。

そして患者さんはもちろん家族の方との信頼関係があってこそ、治療もケアもうまくいくようになるといえます。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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