前回は「認知症の方に対する好ましいケア」を行うには、まず「認知症を悪くさせる方法」を知ることが手っ取り早く、その逆を行えば良いということをお話しいたしました。
今回は「本人ができないことや間違いを指摘して怒る」という「悪いケア」をしないためには、まずは介護をしている家族の方が変わらなければいけない、というお話の続きをします。
人というのはどうしても他人の悪いところばかりが目についてしまうものですが、認知症の方に対してもやはり同じなのかもしれません。
いつまでも昔の健康だった時と比べて、本人が出来なくなったことや悪くなったことばかりに目がいってしまい、それをついつい指摘してしまう。
しかし実際は、いつも悪いというわけではなく、日によっては認知症の症状が出なかったり軽かったりして、一見「ふつう」に見える時もあるのではないかと思います。
体調や天候、環境などの様々な要因によって、身体の動きも精神の働きも大きく「変動」します。
「今日は調子がいいな」と感じた時は、是非そのことを本人に伝えて一緒に喜んでください。
そうすると本人の気持ちも明るくなり、身も心も軽やかになると思います。
悪くなった点ばかりでなく良くなった点も見つけること。
そして良い点を相手に伝えること。
これらは認知症のケアにとって非常に大事なことだと言えます。
しかし他人の良い点を見つけるというのは、意外に難しいことなのかもしれません。
例えば身内の方を思い浮かべてみて、その方の長所と短所を挙げてみて下さい。
同居している親やパートナー、子供さんなどを思い浮かべると、良いところよりも欠点や不満に思うことの方が容易に出てきたりはしませんか。
相手の欠点や間違いを見つけるのが簡単なのは、自分の経験や価値観に基づいて、あくまでも自分自身の判断基準からはみ出たものを、ただ指摘すれば良いだけだからだと思います。
一方、相手の良いところを見つけたり、さらにそれを「ほめる」というのは難易度が高くなります。
相手にとっては、的外れなことや分からないことを他人から指摘されてほめられたとしても、あまり嬉しくはないでしょう。
相手がほめられて、それをちゃんと納得し喜んでもらうためには、まずは何が変わったのか、何が良くなったのかを見極めるために、普段から相手のことをしっかり見ていないといけません。
さらに「相手の良いところを見つけてたくさんほめる」ためには、「こんな面も良いといえないだろうか」と自分の価値観の多様性を拡げたり、時には自分の経験や価値観から外に出て「良い面」を推察しないといけない、ということもきっと出てくると思います。
相手がどう思うのか、いわば「自分の土俵」から出て「相手の土俵」に立って考える必要も出てくるでしょう。
これは認知症のケアに限らず、子育てや教育はもちろん、人とのお付き合い全般にもいえることだと思いますが、「相手の良いところをたくさん見つけてほめる」ように努力することが、ある意味自分自身の成長にもつながるかもしれません。
自分が成長して落ち着いた対応がとれるようになれば、相手もきっと落ち着いてきます。
うちの先生が「努力をするのは患者さん本人ではなく介護する家族の方だ」と言うのは、まさにそのためなのだと思います。
自分自身の物事に対する見方や視点、捉え方を変えてとにかく「ほめる」。
必ずしも嘘をつく必要はありません。
常に相手のことを「ほめよう」という気持ちでいると、今まで気づかなかった相手の良い点が見えてきたり、同じ事柄であっても「こういう捉え方があったのか」というような新たな視点が芽生えてくることもあると思います。
とにかく病気の症状だと割り切って接することが大事です。
すべては本人が穏やかに過ごせる時間を増やして、病状を進行させないようにするための手立てなのですから。
人生の中で2人の関係は新しい段階、時代に入ったと「いま」を受け止め、より良い未来に向けて、大切な人と一緒に新たな一歩を踏み出してほしいと思います。
長くなりましたので、次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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