認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症の症状が急激に出現・悪化する時は①

今年は本格的な梅雨となり、各地で大雨の被害が心配されています。

以前もお話ししましたが、認知症の方は天候や気圧などに影響を受けやすいため、今年のように天候不順が続くと、認知症の方の症状も不順になりやすいので、きっと苦労されている方も多いのではないでしょうか。

認知症の症状に影響を与えるものとしては「天候・気圧」の他に、「干潮・満潮(新月・満月)」、「睡眠の状態」などもあり、それによって症状が「波打つ」ということを以前お話ししました。

今回は、上記のような要因で認知症の症状が「波打つ」のではなく、認知症の症状が急激に出現したり悪化したりして、それが「ずっと続く」ような場合はどんな要因が考えられるのかについてお話しいたします。

 

認知症を伴う疾患の多くは神経変性疾患であり、時間の経過とともに徐々に脳神経の障害が拡がっていくのですが、それに伴い障害部位に応じた症状も徐々に出現してきます。

そのため神経変性疾患による認知症症状の出現や進行は、一般的に「半年」から「年単位」で徐々に起こるものであり、「日単位」や「ある時」を境に急に起こるというものではありません。

したがって短期間に認知症の症状が出現・進行した場合は別の要因を考えないといけません。

 

ではどんな要因が考えられるのでしょうか。

認知症の治療を受けているような場合は「薬」が原因ではないかをまず疑います。

新しく薬が始まった時や薬が替わった時、量が変更になった時に症状の「変化」が起こりやすいため、本人や家族もそのことに留意しておき、何かおかしいと思った時にはすぐ主治医に相談した方が良いでしょう。

特に高齢者の場合は、薬の代謝が遅く、少しずつ薬の成分が身体に蓄積していき、それが一定量を超えた時に急激に症状が出現することもあります。

また、薬ごとに常用量は決まっていますが、もともとの体質や疾患(レビー小体型認知症が有名)によっては「薬の過敏性」があり、少しの量で身体が反応してしまう場合も少なくないので注意が必要です。

 

認知症薬でなくても、少量の向精神薬が引き金になることも少なくありません。

また、風邪を引いた時に処方される総合感冒薬(抗コリン薬をはじめ神経に作用する成分が含まれているものが多い)が原因になることもあります。

少量の向精神薬やたった1包の総合感冒薬の副作用で、精神的には「爆発」して不隠・不眠状態になったり、逆に覚醒度が落ちて眠りっぱなしになってしまったりすることもあります。

また身体的には、動きが悪くなって転びやすくなる、起きて歩けなくなる、などの症状はもちろん、いわゆる「首下がり現象(頭が下に垂れてしまって自力で頭を上げられなくなる)」や「尿閉(尿が膀胱に溜まっても自力で出せなくなる)」が急に出現してしまったケースも実際に何例か経験しました。

 

薬が原因でこのような症状が出現・増悪した場合やっかいなのは、原因となった薬をすぐに中止・減量したとしても、いったん引き出してしまった症状はすぐには消えないことが多いということです。

もちろん原因となった薬の成分が体内からすべて排出されることで、すぐに元に戻る場合もありますが、高齢者の場合は薬の成分が排出されて落ち着くまでに1週間以上かかる場合もあります。

また残念ながら元に戻るまでにとても長い期間(年単位)かかるもの、「首下がり現象」のようになかなか元には戻らないといったものもあります。

 

認知症薬や向精神薬、抗パーキンソン病薬などの脳神経に働きかける薬で注意が必要なのは、いったんそれらの薬を始めてしまった場合、すぐには中止できないということです。

特に長年使用している場合は、少しずつ減量して中止することが不可欠になります。

一気に中止してしまうと「悪性症候群」という状態を引き起こし、最悪の場合「命」に関わる場合があるからです。

実際に自己判断でそれらの薬を一気に中止したために「悪性症候群」になってしまい、高熱を出して意識がなくなり、全身が硬直して寝たきり状態になった方がいました。

幸いにしてその方は入院して適切な治療を受けることができ、数か月間にわたる懸命なリハビリによって回復され、入院前の独居生活に戻ることができましたが、その方は私に会うたびに「薬は怖い」と言っていました。

 

このように、もし認知症薬や向精神薬、抗パーキンソン病薬などを使用している場合は、自己判断で勝手に中止したり、量を調節したりすることはとても「危険」ですので、決して行わないようにしてください。

必ず主治医に相談してから慎重に薬の調整を行うことが大切です。

ただ専門外(神経内科や精神科なら大丈夫だと思います)の医師の中には「悪性症候群」のことを知らずに急に薬を中止してしまう方もいるようなので注意が必要です。

そんな場合は専門医にセカンドオピニオンを求めるなどした方が良いと思います。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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