認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症の症状が急激に出現・悪化する時は②

前回は急激に認知症の症状が出現・悪化した場合の要因として、まず「薬」を使用している場合は、薬剤性の可能性があることについて触れ、さらに認知症薬や向精神薬、抗パーキンソン病薬などを自己判断で調節・中止することは「悪性症候群」を引き起こす危険性があるので決して行わないようにしてほしいというお話をいたしました。

今回はその他の要因についていくつかお話しいたします。

 

うちの先生はよく「急に何かの症状が起こった時には、必ず何かしらの原因がある」と言っています。

認知症疾患の進行によって、急激に症状が出現したり悪化するということはあまりないからです。

ではどんな原因があるかというと、前回お話しした「薬」の影響によるものを除くと、本人に対して何かしらの「身体的・精神的ストレス」がかかった時です。

「身体的・精神的ストレス」の具体例としては、「脱水症・熱中症」、「肺炎や尿路感染症などの感染症」、「糖尿病・腎不全・心不全などの持病の悪化」、「貧血」、「便秘」、「新たな脳血管障害」、「頭部打撲」、「転倒や骨折」、「痛み」、「入院や入所などで生活環境が変わった時」などが挙げられます。

このようなストレスによって認知症の症状を引き出してしまったり、一気に増悪させてしまうようなことがよくあるのです。

 

そのため認知症症状の急激な変化があった場合は、まず本人や家族から身体的・精神的な症状の経過について伺うとともに、上記のような要因を念頭に入れながら最近変わったことがなかったかどうか確認します。

そして疑われる要因があれば、必要な検査を行ったりして原因を特定していきます。

何事もそうだと思いますが、原因を明らかにしなければ適切な対応はできません。

もちろん、なかなか原因がはっきりしないこともありますが、大抵の場合は原因を特定できます。

 

まず原因として挙げられのが、これから暑い時期に入って多くなる「脱水症・熱中症」です。

特に高齢者は脱水症になりやすいので、こまめな水分補給が必要なのですが、実際は水分をあまり摂りたがらない方がとても多いのです。

年齢とともに喉の渇きを感じにくくなるということもあります(認知症の方では特に)が、夜中にトイレに行くのが嫌だと言って逆に水分摂取を控えてしまう方が多いのです。

そんな場合は本人や家族に、こまめに水分摂取することの重要性をよく説明し、特に夜寝ている間に脱水症になりやすい傾向があるため、寝る前の水分摂取が大切であることを理解してもらいます。

また摂取する飲み物もできれば水やお茶ではなく、電解質の入っている経口補水液やスポーツ飲料が脱水症の予防には有効なので、そのことも併せて伝えています。

 

ちなみに脱水症になると、まず気持ち悪くなることが多いです。

症状がひどくなると吐き気が出て、嘔吐する場合もあるので、そのことが脱水症かどうかを判断するひとつの目安にもなります。

皆さんも朝起きて「ちょっとムカムカする」ような時がないでしょうか。

そんな時は軽い脱水症になっている可能性がありますが、経口補水液やスポーツ飲料を数口飲んでみて症状が治まる場合はその可能性が高くなります。

お酒を飲んだり、運動した後などは意外に脱水状態になりやすいので皆さんも注意してみてください。

 

熱中症についても、高齢になると暑さを感じにくくなるということもあります(認知症の方では特に)が、やはりクーラーを使うのを嫌がる方が少なくありません。

また認知症を伴う神経変性疾患では自律神経障害を併発することが多く、汗を適切にかけなかったりして、体温調節がうまくいかないという方もいます。

人によっては夏場でも毛糸のカーディガンを羽織っていたり、布団をしっかり掛けて寝ていたりしているので「うつ熱」になりやすく、患者さんの中には窓辺にあるベッドに夕日が当たることが原因で、夕方から夜かけて毎日のように37~38度の熱が出るという方もいました。

 

自己管理が難しい場合は、周りにいる方が水分補給を促すとともに室温や服、掛布団などにも気をつける必要があります。

脱水症が原因で精神症状が悪化したと考えられる認知症の方に対し、点滴で補液したらすぐに精神症状も落ち着いたということを実際に何度も経験しています。

またパーキンソン病関連疾患の方は、特に「暑さ」に弱い傾向があってパーキンソン症状が増悪しやすいので、暑さ対策はしっかり行うようにしてください。

 

次に原因として多いのが「肺炎や尿路感染症などの感染症」「糖尿病・腎不全・心不全などの持病の悪化」「貧血」などです。

念のため採血をして調べてみたら上記のような原因だったということも少なくなく、その場合はすぐに判明した病態の治療を開始します。

実際に「インフルエンザだった」「肺炎だった」「腎機能が落ちていた」「尿路感染症だった」「貧血が進行していた」などということが分かり、治療によってこれらの病態が改善されると、認知症の症状も改善されて元に戻るということをたびたび経験しています。

 

このように急激に認知症の症状が出現・悪化した場合は、上記のような内科的な疾患・病態が原因になっていることが少なくありませんので、そのことを念頭に入れてすぐ医療機関を受診したり、主治医に相談するなどしてください。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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