認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症薬が症状を悪化させることがある!?

皆さんは「認知症薬が症状を悪化させることがある」と聞いて驚くでしょうか。

認知症薬は確かに認知症の症状を改善させるものではありますが、やはり「薬」なのでどうしても「副作用」があります。

そのため本来であれば薬の「効能」と「副作用」を見極めながら、注意深く投薬の是非を判断したり投薬量を調節していかなくてはなりません。

それなのに「認知症だから」「もの忘れの症状が出てきたから」などと「診断名」や「投薬の目的」がはっきりしないまま「先生に出された薬だから」とそのまま内服し続けた結果、薬の「効能」よりも「副作用」の方が大きく出きてしまったり、また特定の認知症薬だけ長年ずっと内服していたけれども「症状が悪くなったから」と投薬量を増やされたり別の認知症薬を追加されたら、かえって精神的・身体的症状が悪くなってしまい、家族が困ってあわてて当院へ駆け込んでくるという方もあとを絶ちません。

 

実際、本人の症状に合わない薬をずっと処方されてきたような方が数多くいらっしゃいます。

認知症を呈する疾患は多数あるので、本来であれば診断に必要な画像検査や心理検査を行ったり、理学所見をとるなどして「何の疾患」なのかを鑑別し、その「診断」に基づいて治療が開始されなければなりません。

確かに「診断が難しいケース」も頻繁に経験しますが、少なくともその時点で「考えられうる診断」に基づいて投薬が開始されなければいけないはずなのに、当院に転医やセカンドオピニオンを求めて来院した患者さんの中には「認知症」と言われただけで何の疾患か「診断名」を知らされていなかったり、頭部の画像検査すら行っていないで薬を処方され続けてきたという方が少なくないのです。

 

確かに日本で一番多い認知症疾患はアルツハイマー認知症です。

しかし「認知症の症状が出ていて、もの忘れがある」からといって、もちろんそれがすべて「アルツハイマー認知症」である訳ではありません。

それなのに「もの忘れのある認知症アルツハイマー認知症」と診断されたのではないかと疑われるくらい、特定の認知症薬を処方されて経過とともに投薬量が増やされているケースも少なくないのです。

合わない薬をずっと飲み続けていたら誰でも具合が悪くなるのは当然です。

 

そのためうちの先生は認知症疾患の「診断」はもちろん、「薬の選択」や「投薬量の調整」にはとても神経を使っています。

なぜそこまで診断や投薬量に対して神経質になるかというと、認知症の治療に使う認知症薬や向精神薬には無視できない「副作用」があること、さらに認知症を伴う神経変性疾患の方には「薬の過敏性」がある方が多く、そういった方は特に副作用が出やすいということがあるからです。

「薬の過敏性」があるのは「レビー小体型認知症」が有名ですが、実はその他の認知症疾患でも薬に過敏な方がとても多いのです。

「薬の過敏性」があると少量の薬でも過敏に反応してしまうたうため、認知症患者さんに薬を開始する時は、薬によっては「常用量よりもずっと少ない量」から開始して経過を見ていくことがほとんどです。

ちなみに「薬の過敏性」がある方は、若い時から薬に過敏な体質だったということも少なくなく、そういう方はもともと「ストレス」にも弱い傾向があります。

実はそういう方が「認知症になりやすい」のではないかと思っています。

 

そもそも一口に「認知症」といっても、認知症を呈する疾患は多数ありますし、それらの疾患が合併することも少なくありません。

また脳に病変が現れて障害される部位によっても、出現する症状は異なりますので、認知症の症状は人によって千差万別なのです。

そのため認知症で出現する症状はとても多彩であり、特定の認知症薬だけでそれらの症状を抑えるのはとても難しいのです。

そしてその認知症薬を使い続けたり増量したりすると「薬の副作用」が出てきて、かえって症状を悪化させてしまったり、新たな症状を引き出してしまうこともあるのです。

認知症の方の中には、自分の状態をしっかり把握できなかったり、症状を訴えられない方が少なくありませんので、新しい薬を開始したり、投薬量を調節した時は特に、周囲の方が注意深く症状の経過について「客観的」に見守る必要があります。

 

このように認知症を伴う神経変性疾患では「薬の過敏性」があることが多いこと、また薬を調整した時に症状が変化しやすいことから、薬の使用にはとても神経を使うのです。

また認知症疾患の多くは時間の経過とともに進行して病変が拡大したり、他の認知症疾患を合併する場合もあって途中から「薬の過敏性」が出現してくることもあります。

そのため常にそのことを念頭に入れて症状の変化を注意深く見守っていくのですが、「薬の過敏性」が出現してきた場合は、もちろん薬の「増量」だけでなく時には「減量」や「中止」をしなければならないこともあるのです。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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