認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

腸内細菌とエサを分け合って健康に!

前回は「便秘」になると認知症の症状が悪化してしまうこと、「腸内が調和」すなわち「腸和」してくると体調も心も穏やかになり、認知症の症状も落ち着いてくるというお話をいたしました。

今回は「腸内フローラ(=様々な菌によって形成される腸内の生態系のこと)」を整えるために、腸内細菌にとって「おいしい」エサ・食事はどんなものなのかについてお話しいたします。

 

腸は食べ物を消化吸収して排泄する機能だけしかないと思われがちですが、前回もお話ししましたように、腸は腸内細菌が生成するホルモンなどの神経伝達物質を介して人間の動きはもちろん感情や創造性さえも左右していると言えます。

そして「第二の脳」と呼ばれ、脳に匹敵する優れた働きをする腸の能力を正しく働かせるには、腸内細菌が「善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7」でバランスがとれていることが大事になります。

ここで大事になるのは「善玉菌」です。

全体の2割に当たる「善玉菌」がしっかり働いていれば「悪玉菌」の働きが抑えられ、大勢を占める「日和見菌」も悪になびくことがないからです。

そのため腸内環境を改善して「腸和」させるには「いかに善玉菌を増やすか」ということが大事になります。

 

では「善玉菌」を増やすにはどうしたら良いのでしょう。

それは、やはり「食事」のケアをしっかりするということに尽きます。

つまり「人間がおいしいもの」だけを食べるのではなく「善玉菌がおいしいもの」も食べるということです。

大切なのは人間と「共生関係」にある腸内細菌と「エサ・食事を分け合う」という視点なのです。

人間の主食として多く摂られる炭水化物を例にしますと、まず炭水化物は「糖」と「食物繊維」からできています。

炭水化物の「糖」の部分は小腸で消化されて人間のエネルギー源となりますが、消化されにくい「食物繊維」は大腸で腸内細菌が分解して、腸内細菌のエネルギー源になることが分かっています。

お米や小麦から食物繊維の多い「糠」や「ふすま」をそぎ落として「白く」精製して食べるということは、お米や小麦の「糖」の部分だけを食べるということになり、人間だけがおいしい思いをすることになります。

これでは人間と腸内細菌がエサを分け合って「共生」することにはなりません。

お米であれば玄米を、小麦であれば全粒粉のものを摂るようにすると、腸内細菌にとってもおいしい食事となり「善玉菌」も喜びます。

 

ちなみに「白く精製されたもの」ほど人間にとっては「おいしい」かもしれませんが、消化が良くなるので「食後血糖」も上がりやすく、食べ続けてしまうと実は血糖が上がり過ぎないようにコントロールする内臓への負担が大きくなってしまいます。

精製されていない食物繊維の多い玄米や全粒粉の小麦などを摂るようにすると、人間にとっては消化吸収しにくくなるので、食後血糖が上がりにくくなり、内臓への負担も軽くなります。

玄米や全粒粉の小麦食品を摂るのが難しければ、一緒に食物繊維が豊富な野菜や海藻などを摂るようにすれば良いでしょう。

また、炭水化物などの糖質の多いものを食べる時には食物繊維の多いものを先に食べるようにすると消化吸収が悪くなり、言い換えると「内臓にとっても腸内細菌にとってもおいしく」なります。

昔の人はよく「白いものは毒だから」「白砂糖は毒だ」など言っていましたが、おそらく白く精製されたものを食べ続ける危険性を経験的に知っていたのでしょう。

 

腸内細菌がおいしく食べてくれるものとしては、食物繊維の他に野菜や果物に含まれる「オリゴ糖」があります。

人間には「オリゴ糖」を分解する消化酵素がないので、基本的に「オリゴ糖」を人間が消化吸収してエネルギー源にすることはできませんが、腸内細菌のエサとなって「善玉菌」を増やしたり、その働きを活性化させることができるのです。

そのため「オリゴ糖」を摂ることで「善玉菌」が生成する「短鎖脂肪酸」を増やすことができるので、腸内細菌の働きを介して間接的に「悪玉菌」の増殖を防いだり、炎症を抑えたり、腸の蠕動運動を活性化させて便通を促す効果も期待できるのです。

 

このように「食物繊維」と「オリゴ糖」は人間自身は消化吸収できない食べ物ですが、腸内細菌のエサとなって「善玉菌」を優勢にし、腸内フローラを整えてくれます。

認知症の方は「便秘」の方が多く、腸内フローラのバランスが崩れている方が非常に多いということは以前からお話ししてきました。

また認知症の治療薬にはどうしても副作用があるため、使用に際しては細心の注意が必要であることもお話ししてきました。

食事に気を配ることは、副作用のリスクがある薬を使う前に、自分たち自身で安全にすぐにできることだと思います。

認知症の治療・ケアそして予防のために、皆さんも是非「腸内細菌とエサを分け合っているんだ」という気持ちを持ちながら「善玉菌」にとってもおいしい食べ物を積極的に取り入れてみませんか。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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