認知症になると多くの方が甘いものを好んで食べるようになります。
甘いものなど食べなかった方が急に食べるようになったり、元々甘いものが好きだった方は輪をかけて食べるようになったりしますので、当院の初診時にチェックしていただく認知症の症状リストにも「甘いものが好き」かどうかを確認する項目があるほどです。
実際に「甘いものをテーブルの上に置いておくと、いつの間にか全部食べてしまう」「甘いものを抱え込んで食べている」「砂糖や甘いものを隠しておいてこっそり食べているようだ」などというのはよく聞くエピソードです。
ではなぜ認知症になると甘いものを好んで食べるようになるのでしょうか。
1つは認知症の進行によって前頭葉機能が低下してくるためだと言われています。
前頭葉は社会性や理性をつかさどり、脳の他の部位から生ずる情動や欲求をコントロールする働きをしています。
そのため前頭葉の機能が落ちてくると、情動や欲求を抑制できなくなって「甘いものを我慢できなくなる」のです。
元来、甘いものが好きだという方はとても多いのだと思います。
それを健康のためにと自制して食べなかったり、量を制限したりしていたのが、前頭葉の「タガが外れて」しまうと甘いものを際限なく食べるようになってしまうのでしょう。
特に前頭側頭葉変性症では前頭葉機能が初期から低下してくるため、典型的な症状の1つとして「甘いものを我慢できない」ことが挙げられており、鑑別診断するための有用な情報にもなっているほどです。
また認知症疾患で1番多いアルツハイマー型認知症でも、病気が進行して病変が前頭葉に及べばもちろん同じような症状が出てきます。
そして甘いものを我慢できなくなり、たくさん食べるようになってしまうと当然糖尿病になる心配が出てきます。
実は最近アルツハイマー型認知症は「第3の糖尿病」だと言われるようになりました。
自己免疫異常でインスリンを生成する膵臓のランゲルハンスβ細胞が破壊されて起こる「Ⅰ型糖尿病」、遺伝的な要因に運動不足や食べ過ぎなどの生活習慣が加わって発症する「Ⅱ型糖尿病」に続く「第3の糖尿病」だということです。
実際に重度のアルツハイマー認知症の方では、脳内のインスリン受容体の働きが健康人より80%低くなっているそうです。
脳の神経細胞のエネルギー源である糖はインスリンの働きで血液中から取り込まれるのですが、アルツハイマー型認知症の方の脳では、神経細胞を支える脳の「グリア細胞」へ働きかけるインスリンの働きが悪くなり、グリア細胞が血液中の糖を取り込めなくなると神経細胞が糖を使えなくなって変性を起こすため、記憶障害などの神経症状が出現してくるのだと言われています。
またアルツハイマー型認知症の人は、発症する10年ほど前から糖の取り込みが下がっているとも言われています。
糖尿病では膵臓から分泌されるインスリン量が減ったり、インスリンが働いても身体の細胞がブドウ糖を取り込みにくくなったりして、血液中にあるブドウ糖(=血糖)がそのまま体外へ排泄されてしまいます。
つまり糖尿病になると食事で糖分や炭水化物を摂取しても、それらを消化して得られたブドウ糖をしっかり身体に吸収し、活動するエネルギー源として十分に活用することができなくなってしまうのです。
アルツハイマー型認知症が「第3の糖尿病」と言われる理由はそこにあり、病気が進行するにつれて脳の神経細胞がブドウ糖をエネルギー源としてだんだん使えなくなってしまい、さらに神経細胞の変性が進んで病気が進行してしまうという訳です。
したがって血液中に十分ブドウ糖があったとしても、脳の神経細胞はそれを取り込んでうまく使えなくなるため、アルツハイマー型認知症の人の脳はエネルギー不足に陥っています。
すると脳は「エネルギーが足りない!ブドウ糖が足りない!」「もっとブドウ糖をくれ!」と指令を出すことになるので、てっとり早くブドウ糖になる甘いものを欲するようになると考えられています。
しかし甘いものを摂っても摂っても、結局脳の神経細胞はブドウ糖を取り込めずにエネルギー不足のままなので、また甘いものが欲しくなってしまう訳です。
人は血糖値が下がると空腹を感じてご飯を食べたくなりますが、血糖値が下がっていなくても脳が空腹を感じて甘いものを欲しがってしまうのです。
これがなぜ認知症になると甘いものを好んで食べるようになるのか、考えらえる理由の2つ目になります。
長くなりましたので次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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