前回、認知症になると甘いものを好んで食べるようになってしまう理由として、1つ目は前頭葉機能が落ちて甘いものを「我慢」するのが難しくなるため、2つ目はアルツハイマー型認知症では脳の神経細胞が血液中のブドウ糖をうまく取り込めなくなってエネルギー不足になるためすぐブドウ糖になるような「甘いものが欲しい」という指令を出すけれども、結局甘いものを摂っても摂ってもブドウ糖を取り込めないので「甘いものが欲しい」という指令をずっと出し続けてしまうからだというお話をしました。
今回は3つ目の理由についてお話しいたしますが、これは血糖値の急激な変動が関係しているので、まずは糖尿病の病態についてお話しします。
糖尿病になると身体を構成している細胞が血液中にあるブドウ糖をうまく取り込めなくなりますが、アルツハイマー型認知症でも同じように脳の神経細胞がブドウ糖をうまく取り込んで使えなくなるため、アルツハイマー型認知症は「第3の糖尿病」とも言われるというお話をしました。
そのためアルツハイマー型認知症では脳の神経細胞が糖をエネルギー源にすることができなくなり、さらに脳神経の変性が進んでしまうということでした。
すなわち糖尿病とアルツハイマー型認知症は「糖の代謝異常」があるという点では同じ病気だと言えます。
また「糖の代謝異常」があって食後に血糖値が高くなる「食後高血糖」が続くと、酸化ストレスや炎症が生じやすく、糖を燃やした時にできる有害物の「終末糖化産物」なども神経細胞にダメージを与えることになるため、糖尿病やその予備軍の方などで「糖の代謝異常」があると加齢とともにどうしても認知症を発症しやすくなります。
実際に糖尿病の方はそうでない方に比べて4倍以上アルツハイマー型認知症になりやすいという報告もあるほどです。
糖尿病になると「血管性認知症」にもなりやすくなります。
実は糖尿病は「血管が障害される病気だ」と言われています。
特に「グルコース(=ブドウ糖)スパイク(=くぎ)」と言われる急激な血糖の変動が血管にダメージを与えることが知られています。
「グルコーススパイク」というのは、急激な血糖変動を経時的な折れ線グラフで表すとスパイクのようなギザギザした形にるとともに、それが血管に大きなダメージを与えることから名付けられたようです。
この「グルコーススパイク」が危険なのは、急激な血糖値の上昇が有害物質の活性酸素を発生させて血管を傷つけてしまうからです。
その傷を修復する働きで血管の内側の壁が厚く硬くなり、動脈硬化が進んでしまうのです。
ちなみに「グルコーススパイク」があると細い血管ほど障害されやすいため、まず末梢にある組織や微細な組織を栄養する毛細血管の血流が悪くなります。
そのため糖尿病では毛細血管が栄養する末梢神経や眼の網膜が障害されたり、細い血管が多い腎臓の障害や脳の血管障害といった合併症が起こりやすくなるのです。
つまり糖尿病で「血管性認知症」になりやすくなるのは、「グルコーススパイク」によって動脈硬化が進むことで脳出血や脳梗塞といった脳血管障害の発症リスクが高まるからだと言えます。
実は最近、糖尿病の方に限らず健康診断で血糖値が「正常」とされる方の中にも、食後の短時間に急激に血糖値が上昇してまた正常値に戻るというこの「グルコーススパイク」のある人がいるということが分かってきました。
家族に糖尿病の人がいる方、早食い、炭水化物中心の食事、運動不足、満腹になるまで食べる、食後に急激に眠くなったりイライラする、空腹時に猛烈に高カロリーのものが食べたくなるような方は特に要注意だと言われています。
そういう方は血糖値が大きく変動している可能性があるからです。
食事をして食べ物が消化・吸収されて血糖値が高くなると膵臓からインスリンが分泌されて、血液中にあるブドウ糖が身体の細胞に取り込まれて血糖値が下がりますが、このインスリンは食事が開始されてから少し遅れて分泌される特徴があります。
食事を開始してからインスリンが分泌されるまで、少しタイムラグがあるのです。
消化・吸収に時間がかかるような食べ物であれば、通常のインスリンが分泌されるタイミングでも十分に間に合います。
しかし砂糖をたくさん使った甘いものやブドウ糖が入っているようなジュースなどでは消化・吸収速度が速く、急激な血糖値の上昇が起こってしまうためインスリンの分泌が間に合いません。
それでも身体は「これはいけない!血糖値を下げなくては!」と少し遅れつつもたくさんインスリンを分泌して対応しようとします。
すると結果的にインスリンが過剰に分泌されることになってしまい、今度は血糖値が下がりすぎて「低血糖」になってしまうのです。
「低血糖」は生命維持にとって非常に危険な状態ですので、体調が悪くなるとともに急激な「空腹感」を感じようになります。
するとまた手っ取り早く消化・吸収して血糖を上げられるような甘いものが欲しくなるという訳です。
甘いものをたくさん摂ることで、さらに食欲が亢進して甘いものが欲しくなるという悪循環に陥ってしまうのです。
認知症の方が一旦甘いものを食べだすと、スイッチが入ったように甘いものをたくさん食べるようになってしまうのは、このような要因もあるからなのです。
これが今回お話ししたかった認知症になると甘いものを好んで食べるようになってしまう理由の3つ目になります。
長くなりましたので次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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