認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症になると甘いものが大好きになる!?③

前回までに認知症になると甘いものを好んで食べるようになってしまう理由を3つご紹介しました。

特に前回は甘いものを食べて血糖値が急激に上がるとインスリンが分泌されるけれども、インスリンは少し遅れて分泌される特徴があるため、今度は急激に血糖値が下がって(=低血糖)急な「空腹感」を感じることになり、手っ取り早く血糖値を上げられる「甘いもの」がさらに欲しくなるというお話をしました。

このような血糖値の急激な乱高下は「グルコーススパイク」と呼ばれ、血管を傷つけて動脈硬化を進行させるのでとても危険だというお話もしましたが、実は「グルコーススパイク」は血管だけでなくいわば「精神」も傷つけて不安定にしてしまう場合があるのです。

 

特に消化・吸収されやすい砂糖を多く含んだものやブドウ糖を含んだジュースなど甘いものを摂ると少し遅れて過剰にインスリンが分泌されてしまうので「低血糖」になりやすいということはお話ししました。

「でも低血糖になるのは糖尿病の人だけでしょ」と考える方も少なくないと思います。

しかし最近は糖尿病の方に限らず「グルコーススパイク」のある方がいることが分かっており、健康診断で血糖値が正常と判断されても安心はできません。

経口ブドウ糖負荷試験」といってブドウ糖を摂取してから数時間の血糖値の変動を調べる検査などをしないと実際に「糖耐能異常(=糖尿病と診断されるほどの高血糖ではないものの、血糖値が正常より高い状態。食後の高血糖が目立ち、空腹時は全く正常なこともある)」があるかどうか判断しにくいからです。

特に糖質を多く含むような食品を食べると頭がボーっとして集中力が低下する、眠くなる、イライラする、情緒不安定になるといったような方は「グルコーススパイク」のある可能性が高くなります。

それらの症状は血糖値の変動によって出現しやすくなるからです。

 

まず頭がボーっとして集中力が低下したり、眠くなったりするのは「低血糖」の症状であり、ひどくなると意識を失ってしまうこともあります。

低血糖」は血糖値が60mg/dl以下になっている状態を言いますが、特に40mg/dl以下になると生死に関わることになるので、「低血糖」になると身体は急いで「空腹感」を出すとともに、血糖値を上げるために「アドレナリン」や「ノルアドレナリン」といったホルモンを出して対応するのです。

ただこれらのホルモンには血糖値を上げるほかに精神面にも作用する働きがあります。

「アドレナリン」には精神的に興奮させる作用があり、たくさん分泌されるとイライラしたり急に怒ったりしやすくなります。

ノルアドレナリン」はたくさん分泌されると不安感や恐怖感を助長してしまうことがあります。

これらは認知症の周辺症状と言われるような様々な精神症状にも当然影響を与えて精神的に不安定にさせてしまうので、認知症の方が血糖値の急激な変動をもたらすような甘いものをたくさん摂るのはお勧めできません。

実際に甘いものを控えるだけで、認知症の周辺症状が落ち着いてくることもあるからです。

 

さて認知症になると甘いものを好むようになる理由はまだあります。

それは「腸内細菌」の1つである「カンジダ菌」と関係しています。

カンジダ菌」は健康な人の腸内にもいる常在菌であり、いわゆる「悪玉菌」でも「善玉菌」でもない中立な「日和見菌」とされています。

以前、認知症の方は腸内環境が悪くなっていることが多く、いわゆる「悪玉菌」が作る出す物質によって認知症症状が悪化したり、また便秘になっている方も非常に多いので、認知症の治療とケアには「善玉菌」を増やす「腸活」が不可欠であるということをお話ししました。

しかし肉食で食物繊維の少ない食事に偏っていたり、甘いものをたくさん食べていたり、疲労やストレスなどが溜まってくると、腸内では「悪玉菌」が優勢になって食べ物が「腐敗」しやすくなります。

さらに「悪玉菌」が増えてしまうと、中立だった「日和見菌」の「カンジダ菌」も増えて悪さを始めるのです。

そして「カンジダ菌」が増えると以下のような症状が出てくることが知られています。

・慢性疲労(よく寝てもとれない疲れ)

気分障害(不安、イライラ、うつなど)

・頭に霧がかかったようになボーっとした状態(集中力の低下など)

・腸内環境の悪化(ガス、便秘、下痢など)

感染症(尿路感染症副鼻腔炎、皮膚や爪の真菌感染症など)

・皮膚の疾患やアレルギー(アトピー、花粉症など)

・ホルモンバランスの乱れ(月経前症候群片頭痛など)

・甘いものの過食

最後に挙げられているるように「カンジダ菌」の好物は砂糖などの糖質、甘いものなのです。

やっかいなのは「カンジダ菌」が増えるとさらに甘いものが欲しくなり、それで甘いものを食べてしまうとまたさらに「カンジダ菌」も増えてしまう、というように「カンジダ菌」が一度増えてしまうとなかなか減らすのが難しいということなのです。

これが認知症の方が甘いものを好んで食べるようになる理由にもなります。

 

ちなみに以前から真菌やカビが認知症の症状を悪化させるという報告もあるため、当院の初診時には必ず患者さんの足の状態を確認しているのですが、本当に多くの方が爪白癬や水虫を合併しています。

そのため私自身なぜこんなにも爪白癬や水虫を合併している方が多いのかと疑問に思っていたのですが、腸内で「カンジダ菌」が増えると出現しやすい症状だと知って納得した覚えがあります。

それだけ認知症の方では腸内環境が悪化していることが多く「カンジダ菌」も増えやすいのだと思います。

 

長くなりましたので次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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