認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「糖質制限」は「意識の変容」の改善に効果的!?①

前回は「糖質制限」は認知症治療にとって有効なものではありますが、決して万能なものではなく人によっては悪化する場合もあること、効果を見極めながら一定期間はどっしり腰を据えて取り組む必要があることについてお話ししました。

今回は認知症の主要な症状の1つである「意識の変容」の改善に「糖質制限」が効果的であることについてお話しいたします。

 

以前も触れましたが認知症の症状の中に「意識の変容」というものがあります。

「意識の変容」とは「意識がはっきりしている時とそうでない時が入れ替わる症状」のことで、日本で2番目に多いとされる認知症疾患の「レビー小体型認知症」では幻覚・妄想やパーキンソン症状などと共に主要な症状の一つとされています。

しかし実際には「レビー小体型認知症」に限らず、他の認知症症状を伴う神経変性疾患でもこの「意識の変容」が見られることが少なくありません。

 

この症状のよくある具体例としては、高齢の方がボーっと一点を見つめて固まっている、みんなと会話している時に話しかけても何の反応もなくなって「ねぇねぇ、どうしたの?もしもし?」と肩を叩くとハッと我に返る、座ってテレビを観ている時にボーっとしてテレビを観ているのか観ていないのか分からない、何かをしていたと思ったらいつの間にかうつらうつらしているなどが挙げられます。

デイサービスなどに行くとうつらうつらして眠っている高齢者の方がとても多いことに驚きますが、これは「意識の変容」で覚醒度が下がって起きている可能性があります。

しかし「意識の変容」で覚醒度が落ちていても、一見「眠っている」ように見えるだけなので、周りの人からはただ「眠いからだろう」「傾眠状態」などと判断されてあまり気に掛けられないのだと思います。

実際、診察中の短い時間の中でも患者さんの意識が「フッ」と飛んで無反応になったり、「ストン」と眠ってしまう場面によく遭遇します。

本人にそのことを確かめると「よく眠くなる」「いつも眠い」などと表現される方がほとんどなので、実は本人にとっても「意識の変容」があることに気づきにくいのだと思います。

そのため実際には「意識の変容」があっても気づかれにくいだけで、この症状を持つ高齢者は少なくなく、最近頻繁に報じられる高齢者の自動車事故との関連性が疑われるということは以前お話した通りです。

 

また「意識の変容」によって覚醒度が落ちると、それに付随して他の認知症症状も出やすくなります。

例えば覚醒度が落ちている時に何かをしたり言われたとしても、当然本人は覚えていないということが起こりやすく、それが「もの忘れ」として表現されたりします。

また覚醒度が落ちていると正常な認知や判断もしにくくなるので、幻覚・妄想、易怒性など潜在的にあった他の認知症症状を引き出してしまったり、増強しかねません。

そのため認知症の治療では「意識の変容」の治療を優先して行っていくのですが、ただこの症状がなぜ起こるのか原因はまだ明らかになっていません。

しかし「意識の変容」というのは一種の「てんかん」のような病態なのではないかとうちの先生は言っています。

なぜなら、この症状の治療に微量の抗てんかん薬投与が有効な場合が多いからです。

 

てんかん」というのは、脳の神経細胞で異常な電気活動が起こることで意識の消失やけいれんなどを繰り返し、病態によっては日常生活が制限される場合もある病気です。

この「てんかん」の治療に用いられる食事療法に「てんかん食」があります。

実はこの「てんかん食」は平成28年度の診療報酬改定で新たに「栄養食事指導」の対象に加えられ、医療保険が適用されるようになりました。

てんかん食」は「ケトン食」とも言われています。

「ケトン食」は約100年前に発表された歴史のある食事療法ですが、その後研究が重ねられ、近年では難治性てんかん患者の発作を軽減させることが明らかになっています。

この「ケトン食」とも言われる「てんかん食」の大きな特徴は、高脂質・低糖質であることです。

つまり「てんかん食」というのは「糖質制限食」のことなのです。

 

糖質制限食」を続けて体内の「ブドウ糖」が不足してくると、肝臓で脂肪が分解されて「ケトン体」が生成されます。

実はこの「ケトン体」は、脳も含めた身体の「エネルギー源」になることが分かっており、体内の「ブドウ糖」が不足してくると、「ブドウ糖」の代わりに「ケトン体」が主に利用されるようになります。

そして「ケトン体」が体内に増えた状態では「てんかん」発作が起こりにくくなることが分かっているため、「糖質制限食」である「てんかん食」が食事療法として用いられるようになったのです。

したがって「意識の変容」が「てんかん」の一種だとすれば、体内の「ケトン体」を増やす「糖質制限」が「意識の変容」の改善にも当然有効だということになります。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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