最近、「低栄養状態」の高齢者が増えているということが報告されています。
これは高齢者の方に「メタボリック症候群を避けたいという意識が強く働いていること」が大きな原因になっていると考えられています。
実際、当院に通院する高齢患者さんの中にも来院するたびに「しぼんで生気がなくなっていく」印象の方が何人かいたので、普段の食事内容を確認したところ、ほとんどの方が「小食で野菜中心。肉類、油ものは食べません」と答えていました。
まだ元気な頃から炭水化物や脂肪などを極端に控えた料理を好んで摂ることで、気付かないうちに「低栄養状態」が進んでしまうというケースが実際に多いそうです。
「低栄養状態」が持続すると筋肉、骨の衰えや免疫力の低下、さらには認知症の発症をも招き、介護が必要な状態になりかねません。
そもそも「低栄養状態」とは、三大栄養素であるタンパク質、糖質、脂質とともに鉄分などが不足し、カルシウム、葉酸、ビタミン類、重金属なども不十分な状態のことを言います。
特に筋肉、臓器などを形成するタンパク質の不足が目立っています。
タンパク質の不足は、血液中の「血清アルブミン値」が指標となり、血液100ミリリットル中に含まれる量が4.0グラム以下の場合に「低栄養状態」と言われます。
そして現在、65歳以上の2~3割が低栄養の傾向にあるという報告もあります。
最近、東京都健康長寿医療センター研究所が行った高齢者における追跡調査で、タンパク質や脂質などの摂取量が少ないやせ形の人は肥満気味の人と比べて、8年後の生存率が1割程度低いということが報告されており、高齢者の栄養と余命の関係性が強く疑われています。
また九州大学での疫学的研究で福岡県久山町での17年にわたる研究から、住民の食事内容と認知症発症との関連について調査したところ、牛乳・乳製品、大豆・大豆製品、野菜、海藻、卵、魚、果物を多めに食べる傾向が強い人ほど、認知症発症のリスクが最大約4割減少するという結果が得られています。
中でも、1日に100~200グラムの牛乳・乳製品を摂っている人の認知症発症率が、それらをほとんど摂っていない人と比べて約3割低いことが明らかになっており、これはおそらく牛乳・乳製品に含まれるタンパク質、カルシウム、マグネシウムが効果を上げたものと推測されています。
このように「栄養状態」は認知症の予防やその後の生命予後に大きく関係しているのです。
では「低栄養状態」を予防したり改善させるためにはどうしたら良いのでしょうか。
それにはまず、先程挙げたような牛乳・乳製品、大豆・大豆製品、野菜、海藻、卵、魚、果物などの食品を普段から幅広く食べる習慣を持つということが大事になります。
特に高齢者の場合には、衰えやすい筋肉や臓器を形成するタンパク質を十分に確保するため、普段から肉や魚、牛乳・乳製品、大豆・大豆製品などを意識して摂る必要があるでしょう。
当院に来院されるたびに「しぼんで生気がなくなっていく」方に、野菜だけでなく毎日肉や魚もしっかり食べるように勧めたところ、実際に活気が出て歩き方もしっかりし、見るからに若返った方もいらっしゃいます。
ただ「低栄養状態」の方にたくさん食べて栄養を摂れと言っても、食が細くて難しかったり、しっかり食べているのに栄養状態の指標となる「血清アルブミン値」がなかなか上がってこないという方もいます。
「低栄養状態」になると活気がなくなってボーっとしやすく、心身ともに閉じこもりがちになるので認知症も当然進行しやすくなりますし、筋力・体力が落ちて転倒しやすくなったり、ひどい場合には床ずれができたりもします。
また「低栄養状態」があると感染症や病気に対する抵抗力も落ちてしまうので、認知症疾患をはじめとする様々な疾病を発症・悪化させている要因になっていることも少なくありません。
そして、一旦「低栄養状態」による「負のスパイラル」に陥ってしまうとそこから抜け出すのがなかなか難しくなってしまいます。
そのため認知症やその他の疾病の治療のためにも、「低栄養状態」は一刻も早く改善させなければならない病態なのですが、実際は治療に苦労することが少なくありません。
高タンパクの食事を指導したり高栄養補助飲料を処方したりもするのですが、やはり本人の好みや体質に合う合わないなどがあるからです。
したがって「低栄養状態」を改善させるためには、その方が食事で効率良く栄養を摂取できる方法を見つけられるかどうかが大きな課題になります。
では一般的に「食事で効率良く栄養を摂るためには」どうしたら良いのでしょうか。
それについては次回お話ししたいと思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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