認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

食事で効率良く栄養を摂るためには①

前回は「低栄養状態」が認知症をはじめ様々な疾病を発症・進行させてしまう要因になりうるため、「低栄養状態」がある場合には速やかに栄養状態を改善させる必要があるが、本人に適した効率の良い栄養摂取の方法がなかなか見つからずに苦労することが多く、それが大きな課題になっているというお話をしました。

特に高齢者では、食が細かったり、「食べても食べても身にならない」といった方も少なくないため、「食事で効率良く栄養を摂るためには」どうしたら良いのかということがとても大事になります。

また「低栄養状態」の方が必要な栄養素を含む食品をたくさん摂れば、それで栄養状態が改善するのかといえば、そうとも限りません。

いくら高タンパクの食事を摂っても、栄養状態の指標となる「血清アルブミン値」が上がってこないケースもあるからです。

 

少し話が脱線しますが、私が若い頃ダイエットを試みた時には食品のカロリーばかりを気にしていました。

ダイエット法の主流がカロリー制限だった時代です。

ただその頃から私が疑問に思っていたのは、「痩せの大食い」だとか「食べてすぐ身になる体質」などと言われるように、食べた量が必ずしも体型や体重と比例しないということでした。

「同じ食品であれば誰が食べたとしても同じように消化されて身になるのだろうか」「誰でも食品に表示されているカロリー通りに消費されたり身体に吸収されるのだろうか」とずっと疑問に思っていました。

もちろん食品のカロリー表示は参考になるとは思いますが、それが全てではなく、摂取する人によって消費したり吸収できる食品のカロリー量には違いがあるのではないかと。

 

また10年数年前に糖尿病の食事療法について学んだ時も、使われていた「食品交換表」はカロリーベースだけのものだったので、やはり少し違和感を持ったことを覚えています。

そもそも「体格から推測するとその人の1日の基礎代謝量がこの位になり、活動量がこの位だから、1日に必要なカロリー量はこれ位になる」などと習いますが、身体で「消費されるカロリー量」をそのまま「摂取する食品のカロリー量」と同等のものとして考えて良いのか疑問に思ったからです。

そもそも胃腸の調子が悪い時などには未消化の食べ物がそのまま排出されるということもあるように、当然食べる人の胃腸の強さや健康状態によって消化・吸収できる度合は変わってくるだろうし、また食品そのものの特性や調理法などによっても消化・吸収のしやすさは変わってくるのではないかと。

 

ちなみに現在、糖尿病の食事療法指導で使われている「食品交換表」には「カーボカウント(炭水化物などに含まれる糖質量を把握することで食後血糖値を調整する食事療法)」の考え方が取り入れられて「糖質量」も記載されていますが、「カーボカウント」の考え方が新たに導入された際、管理栄養士が糖尿病患者さんに「もりそばと天ぷらそばだったらどちらを選んだ方が良いでしょうか。カロリーベースで選ぶのであればもりそばになるけれど、血糖の急上昇を防ぐことを考えれば油でコーティングされて消化しにくい天ぷらそばを選んだ方が良い」と説明していたのがとても印象的でした。

その時に「糖尿病の食事療法指導も食品の『カロリー量』をベースに考えるか『糖質量』をベースに考えるかでこれだけ変わってしまうのか。食事療法も当然新たな知見をもとに日々進化していくものだから、現状の方法がすべて正しいという訳ではないだろう」と思ったのを覚えています。

 

話を戻します。

「低栄養状態」で痩せている人にたくさん食べて栄養を摂れと言いますが、カロリー量と同じようにそもそも足りない栄養素を含む食品を食べれば、それがそのまま身になって栄養素が補充されるのかといえば、必ずしもそうとは言えないと思います。。

当然のことですが、必要とされる食品をたくさん食べることとその食品の栄養素がしっかり消化・吸収されるかどうかは別の問題になります。

食べた物が自分の身になるためには、少なくとも以下の4点をクリアしないといけません。

①消化できているか?

②腸で吸収できているか?

③吸収した栄養素を運べているか?

④届けられた栄養素を使えているか?

これらをクリアして初めて食べた物の栄養素が身になると言えるからです。

したがって単純に食べた食品の栄養素がそのまま身になる訳ではないということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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