前回は日本人はもともと胃酸の分泌が不足気味で「タンパク質」の消化吸収が苦手な方が多い傾向があり、肉や魚などの「タンパク質」を効率良く消化吸収するための食事対策をいくつかご紹介しました。
そして「タンパク質」を分解して得られる「アミノ酸」は消化酵素の原料にもなるので、胃腸での消化・吸収をスムースにするためにも「タンパク質」をこまめにしっかり摂ることが大事だということをお話ししました。
今回はその続きです。
「タンパク質」は「アミノ酸」まで分解されて小腸から吸収された後、血液によって肝臓まで運ばれます。
すると肝臓では約2000種の酵素によって速やかに500種もの化学反応が起こり、何と1分間で肝細胞1個につき60~100万個の「タンパク質」が「アミノ酸」から新たに合成され、肝臓全体では「タンパク質」が毎日約50g合成されるそうです。
この新たに合成された「タンパク質」から再び筋肉、皮膚、内臓、神経などの細胞や、酵素、ホルモン、免疫物質、筋収縮・輸送に関わる物質が生成されることになります。
使われなかった「アミノ酸」は分解されて窒素酸化物とアンモニアを経て尿素となり、尿中に排出されます。
食物から得られる「アミノ酸」は約20種類ありますが、その中でも人間の体内では合成できないために食物から摂取しなければならないものを「必須アミノ酸」と呼びます。
成人では8種類(バリン、ロイシン、メチオニン、トレオニン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン)、幼児では9種類(前述のほかにヒスチジン)の「必須アミノ酸」が生体活動に必要となります。
これらの生体活動に不可欠な「アミノ酸」を得るために、毎日「タンパク質」を摂取しなければなりませんが、やはり摂取した「タンパク質」全量が消化される訳ではないようです。
成人男女18名を対象に日常食混合タンパク質の消化率を実測した研究があります。
それによると日常食混合タンパク質の消化率は約90%だったそうです。
では実際私たちは健康維持のために毎日どれくらいの「タンパク質」を摂取すればよいのでしょうか。
先程の消化率を踏まえて私たちが健康を維持するために必要な「タンパク質」の推定平均必要量が算出されていますが、成人では1日体重1kgあたり0.65gで、推奨量はその1.25倍とされています。
体重60kgの方だと1日あたりの推定平均必要量は39gで推奨量は48.8gということになります。
高齢者の場合は必要な「タンパク質」の量が増えて推定平均必要量は1日体重1kgあたり0.85gとなり、推奨量は成人と同じくその1.25倍とされています。
体重60kgの方だと1日あたりの推定平均必要量は51gで推奨量は63.8gということになります。
健康維持のためには「タンパク質」をこれだけ摂らないといけないということになりますが、同時にせっかく摂取した大事な「タンパク質」ですからしっかり消化して身体に吸収させることがやはり大事になります。
特に3大栄養素である「糖質」「脂質」「タンパク質」の中では、「タンパク質」が一番消化しにくいので今回はあえて「タンパク質」の消化・吸収に焦点を当ててお話ししました。
そのため「タンパク質」をしっかり消化・吸収するために、前回お話ししたような日本人に不足しがちな胃酸をしっかり分泌させる食事対策を是非参考にしてほしいと思います。
ちなみに「タンパク質」に限らず、食べ物がしっかり消化・分解されずに腸に入ると炎症を引き起こしたり、異常発酵つまり腐敗して大腸内の「悪玉菌」が増えてしまったりして腸内環境を悪化させてしまいます。
実はこの「腸に炎症を起こす」ことが厄介で、これが健康に大きな害を与える「リーキーガット(腸もれ)症候群」を起こす原因になります。
「リーキーガット」とは、腸の粘膜の炎症が進むことにより、腸管壁の細胞と細胞のつながりが緩んで隙間が空いてしまう状態のことを言います。
そのため「リーキーガット」があると本来ならば通過できない未消化の食物や有害物質などが血管の中に入り込んでしまうため、自分の身体を守るための免疫反応が亢進してアレルギーを引き起こしたり、体内の至る所で炎症を起こす原因になってしまうのです。
未消化の食物が腐敗して腸内環境を悪化させてしまうとともに、血管に入り込んだ未消化の食物が脳に炎症を起こすという報告もあるため、「リーキーガット」と認知症の関連についても当然指摘されています。
食べ物がしっかり消化されないというのは、こんなにも身体に悪い影響を与え、様々な病気の原因になってしまうのです。
そしてやはり人間が一番消化しにくいのは「タンパク質」であり、「リーキーガット」を引き起こす一番の原因にもなっています。
未消化の食物は「万病のもと」です。
まずできることは食事は一口30回以上噛むこと、食前中の水分摂取を控えること、腹七~八分目を心掛けることでしょう。
また胃腸の働きが弱っているなと感じる時には酸味のあるものを摂って消化液の分泌を増やすといった工夫もできます。
胃腸に過度な負担をかけないように日頃から胃腸をケア、サポートする習慣を持ち、健康のために胃腸力をアップさせておくことがとても大切なのです。
次回は「リーキーガット症候群」についてお話しします。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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