認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「リーキーガット」を予防・改善するには?⑨

前回までに「リーキーガット」を予防・改善するための対策として⑤腸粘膜の保護と修復に直接的に作用する物質を摂ることを挙げ、腸粘膜の保護と修復が期待できる栄養因子(抗酸化物質腸粘膜の栄養素消化酵素乳酸菌やビフィズス菌などの菌体成分食物繊維)のうち、抗酸化物質までお話ししました。

今回から腸粘膜の栄養素についてお話しします。

 

・腸粘膜の栄養素

a.亜鉛

亜鉛は生体内において、鉄に次いで2番目に多く含まれ、成人では約2g存在すると言われています。

ただ鉄にはフェリチンなど体内に貯蔵するタンパク質がありますが、亜鉛には貯蔵システムがないため、日々一定量亜鉛を食事で摂り続けないといけません。

厚生労働省による食事摂取基準2015年版によれば、成人男性における亜鉛の食事摂取基準は約10mg/日と定められ、鉄の7.0~7.5mg/日より多く設定されています。

亜鉛は、亜鉛含有酵素の活性化、皮膚代謝、成長・発育、ホルモン、感覚機能などの機能活性化に欠かせず、特に生体の維持に不可欠な多くの酵素活性において中心的な役割を果たしています。

そのため亜鉛が欠乏すると、成長障害、味覚障害口内炎、食欲低下、脱毛、性腺機能障害、皮膚炎、創傷治癒遅延、免疫機能低下、貧血、下痢、骨粗鬆症、情緒不安定、運動失調、耐糖能低下など全身性に多様な症状が出現することが知られており、亜鉛は脳神経系、免疫系、内分泌系、消化器系、循環器系、栄養代謝系において必須のミネラルになっています。

 

亜鉛はとりわけ新陳代謝に必要な多種類の酵素の成分になるほか、タンパク質の合成や遺伝子情報を伝えるDNAの転写にも関わっているため、細胞の生まれ変わりが活発な部位では亜鉛の需要が非常に高くなっています。

この亜鉛は主に小腸の腸管上皮細胞によって取り込まれますが、その腸粘膜の維持にも亜鉛は不可欠になっています。

腸上皮細胞はそのほとんどが約1週間で新しい細胞に置き換わり、身体の中でも最も活発に再生活動を行っている細胞集団のひとつだからです。

亜鉛欠乏の初期症状として有名な味覚障害が起こるのも、口の中で味を感じる「味蕾(みらい)」細胞は新陳代謝が活発なため、亜鉛不足になると細胞の生まれ変わりに支障をきたすためだと考えられています。

ちなみに亜鉛には消化管粘膜障害、細胞死を著明に抑制する性質があることから、亜鉛製剤がすでに抗胃潰瘍薬として臨床使用されています。

亜鉛には強力な活性酸素消去作用、脂質過酸化抑制作用もあり、創傷部位の分解と上皮化を促進する作用があるからです。

 

また亜鉛は骨格筋や骨に最も多く含まれており、海馬、前立腺精子を作る)、膵臓、眼、腎臓などにおいても亜鉛の需要が高いため、比較的高い濃度で亜鉛が含まれています。

細胞レベルだと膵臓ランゲルハンスβ細胞(インスリンを分泌する)、神経細胞(脳・脊髄・末梢神経)、肥満細胞(アレルギー反応に関わる)、腸上皮細胞などで亜鉛が高濃度に含まれており、新しい細胞が作られる細胞、組織、器官では亜鉛の需要が非常に高いことを反映しています。

 

ちなみに近年、糖尿病患者さんに亜鉛サプリメントを与えた研究の結果、亜鉛サプリメントの摂取は空腹時血糖値を低下させたと報告されています。

また亜鉛は記憶形成や感覚伝達などの脳神経系の情報伝達に関わる神経の働きを調節しており、記憶学習系では海馬シナプス終末において様々な調節をしていることが分かっています。

実際に記憶学習障害の代表的疾患であるアルツハイマー病患者さんの前頭葉、側頭葉皮質における亜鉛量は正常人と比べて差はないのですが、海馬における亜鉛量は正常人と比べて低くなっていることが報告されています。

 

またアレルギーとの関連では、肥満細胞はヒスタミンなどの炎症性サイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質であり、細胞間相互作用に関与する生理活性物質の総称)を産生して感染防御の役割を果たす一方で、花粉症、喘息、食物アレルギー、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などの原因にもなっていますが、亜鉛には肥満細胞によるアレルギー反応を制御する作用があることが分かってきました。

 

このように私たちの健康には欠かせない亜鉛ですが、亜鉛を多く含む食品には、カキ(魚介類)、イワシ煮干し、干しタラ、カワノリ、カニ、ゴマ、干しシイタケ、かぼちゃの種、松の実、牛赤身肉、豚レバー、抹茶、ココアなどがあります。

これらの食品を日常的に摂取する習慣を持つことが望ましいのですが、ただ亜鉛の腸管からの吸収率は20~40%程度でそれほど高くはありません。

亜鉛は同時に摂取する食品によって吸収率が変わる性質があり、ビタミンCと一緒に摂ると吸収率が高くなることが知られています。

逆にコーヒーやオレンジジュース、カルシウム、未精製の小麦や種子などの穀物や豆類に多く含まれるフィチン酸、ほうれん草などに多いシュウ酸、加工食品によく使われる食品添加物のリン酸塩やポリリン酸は、亜鉛の吸収を妨げると言われていますので食べ合わせにも注意が必要になります。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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