認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「リーキーガット」を予防・改善するには?⑬

前回までに「リーキーガット」を予防・改善するための対策として⑤腸粘膜の保護と修復に直接的に作用する物質を摂ることを挙げ、腸粘膜の保護と修復が期待できる栄養因子(抗酸化物質腸粘膜の栄養素消化酵素乳酸菌やビフィズス菌などの菌体成分食物繊維)のうち、腸粘膜の栄養素までお話ししました。

その他の消化酵素乳酸菌やビフィズス菌などの菌体成分食物繊維については、「リーキーガット」を予防・改善するには?②④⑤で触れましたので、ここでは省略いたします。

そして今回ご紹介する「リーキーガット」を予防・改善するための対策が最後のものになります。

 

心身ともにストレスの少ない生活を送る

私たちは日常生活を送っている中で心身ともに実に様々なストレスを受けています。

身体へのストレスについて言えば、ついつい夜更かしして寝不足がちになったり、お酒を飲み過ぎたり、甘い物や油っぽい物を食べ過ぎたりして、自分で自分の身体にストレスをかけてしまっていませんか。

睡眠時間は最低6~7時間以上は確保して、できるだけ規則正しい生活を送るとともに、タバコやお酒などの嗜好品はほどほどにして食事は腹八分目を心掛けるというのが身体にとっては好ましい習慣だとは分かっているけれど、それを実行するのはなかなか難しいものです。

これらのストレスが腸に対して及ぼす影響については、「喫煙は消化管の炎症を増加させる」「過度なアルコール摂取が腸の透過性を増加させる」といった報告もありますので、ストレスにならない程度にできる範囲で節制を心掛けたいところですが、実はその他にも見落としがちなストレス要因があります。

それは「慢性炎症」です。

実は「他部位の炎症、炎症性物質が腸の炎症の誘因になり、腫瘍壊死因子(TNF)などの炎症性メディエーターが腸の透過性を増加させる」という報告があります。

つまり身体のどこかに炎症している部位があってそれが慢性化してしまうと、そこで発生する炎症性物質が腸にもストレスを与え続けて腸の炎症を誘発し、リーキーガットを発生させてしまうというのです。

例えば変形性膝関節症や五十肩、ケガなどで痛みや腫れが慢性化しているような場合などが慢性炎症にあたりますが、慢性炎症の中でも特に軽視しがちで注意が必要なのが「歯周病」です。

虫歯があるけれどなかなか歯科を受診できていない方や歯医者嫌いの方も少なくないと思いますが、歯周病を放置しておくことは、歯だけでなく身体全体の健康にとっても非常にリスクが高く、将来の健康寿命や生命予後をも左右しかねません。

最近「歯周病菌」がアルツハイマー認知症の方の脳内で高頻度に見つかり、歯周病菌がアルツハイマー認知症の大きな発症要因の一つとされている「アミロイドβ」というタンパク質のごみを増やすことや、歯周病菌が作り出す毒素によって脳の炎症が強くなり、免疫細胞の活性化によって脳の神経細胞が攻撃され神経伝達にも異常をきたすことが報告されています。

歯周病が慢性化することでリーキーガットが生じ、そこから歯周病菌が体内に侵入してしまうことも十分に考えられます。

以前もお話ししたようにリーキーガットがある方はリーキーブレインを併発して血液脳関門(BBB)のバリアも緩みがちになるので、歯周病菌が脳内にも到達して悪さをすることができるのです。

したがって歯周病は放置せず、速やかに治療しなければいけません。

また入れ歯を使っている場合でも歯周病になりやすいということなので、特に口腔ケアはしっかり行う必要があります。

 

もちろん精神的なストレスも腸内環境を悪化させます。

過度の緊張やストレスで「お腹が痛くなる」のはよく知られていることですが、脳と腸は自律神経系、内分泌系、免疫系などのネットワークを通じて常に情報交換しているのです。

これは「腸脳相関」と呼ばれ、脳と腸が双方向に送りあう情報によって密接に影響しあっていることを指しています。

この腸脳相関において、実は腸内細菌も脳と腸との情報交換に関係しており、脳が慢性的にストレスを感じていると腸内細菌のバランスが崩れてしまうことも分かってきました。

ストレスは大脳皮質で知覚されて視床下部に伝わると身体の反応は次の2つの経路に分かれます。

・大脳皮質-視床下部-交感神経-副腎髄質→カテコラミン分泌

・大脳皮質-視床下部-下垂体-副腎皮質→コルチゾール分泌

このカテコラミンとコルチゾールという神経伝達物質が様々なストレス反応のきっかけになる物質なのですが、カテコラミンはアドレナリン、ノルアドレナリンドーパミンといった物質の総称で副腎髄質などから分泌されます。

そして腸管内へ放出されたカテコラミンに大腸菌がさらされると、大腸菌の増殖が活発になって病原性が高まること、さらに大腸菌以外の細菌でも病原性が増強することが認められています。

また、ストレスによって交感神経優位になると胃酸の分泌が抑えられます。

すると未消化タンパクが生じて腸粘膜が傷つけられたり、それが腐敗して悪玉菌の格好のエサになってしまいます。

また胃酸が分泌が少なくなると腸内の酸性度が弱まり、悪玉菌が増殖しやすい環境にもなるので、腸内細菌のバランスがどんどん崩れていってしまうのです。

したがって腸内環境、ひいては身体全体の健康のためにもストレスに対しては「鈍感」でいられる心や、ストレスをストレスと感じない楽観的でポジティブな発想力も養っていくことが大切なのだと思います。

またそのために、ゆっくりと深い腹式呼吸や、瞑想、座禅、ヨガなどを数分でも良いので毎日生活に取り入れたりするのも良いかもしれません。

ストレスを感じると交感神経優位になりますが、これらの生活習慣が反対にストレスを軽減して身体をリラックスさせ、消化管の働きが活発になるような副交感神経優位の状態に導いてくれるからです。

そして善玉菌優位の腸内環境が整うと、様々なストレス反応に対する抵抗性が高まることが知られていますので、さらに心身が感じるストレスそのものが縮小して腸内環境も健全化していく、というような正のスパイラルに入って健康にとって良いこと尽くめになるのです。

 

さて、今回まで13回に渡って「リーキーガット」を予防・改善するための対策についてお話ししてきました。

認知症を含めた様々な疾患やアレルギー、体調不良、疲れやすさなどを引き起こす主要な原因の一つに腸内環境の悪化とリーキーガットが考えられるので、できるだけ詳しくまとめようとしたらこんなにも長くなってしまいました。

このシリーズを書いてきて思ったのはやはり「自分の身体は自分が食べた物からできている」ということと「自分は非常に多くの細菌たちと共生しており『生かされている』」ということです。

そして改めて「身体だけでなく心も『自分が食べた物』や『共生している細菌』によって大きく左右されているのだ」ということを実感しました。

また、健康のためにどれだけ良いものを摂ったとしても、摂ったものをきちんと消化・分解して吸収できる腸がなければ、すべて無駄になってしまいます。

だからこそ、食べた物の栄養分と老廃物を選別し、有益なものは吸収して不必要なものは排泄するという免疫の最前線である腸粘膜と腸内細菌叢の働きをいかに健全に保つことができるかが「健康のカギ」になるのであり、良いものを摂ることよりも前にまずは腸のケアが肝心になるのだと思います。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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