日々の認知症診療では、本当に多種多様な認知症の症状を経験しますが、症状の強さや出現の仕方、組み合わせなどは100人いたら100通りあります。
もちろんもの忘れ症状は多くの方にありますが、その他にも出現頻度の高い症状がいくつかあるのです。
ただ認知症というとすぐに「もの忘れ」を連想する方が多いのではないでしょうか?
確かに認知症になるともの忘れを合併することがほとんどであり、そのために日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
しかし「もの忘れ」を主訴に受診される方というのは、実はそれほど多くありません。
もの忘れ以外の症状で困って家族が本人を連れて受診するというケースがほとんどなのです。
では、もの忘れ以外の認知症の症状にはどんなものがあるのでしょうか?
今までの数年間の診療を通じて、認知症になると共通して出現しやすい症状があるというのが分かってきました。
今回からそれらの症状について順番にご紹介していこうと思います。
初回の今回はそれらの症状をまとめて「もの忘れ症状は除いて認知症になると出現しやすい症状」をリストにしてみました。
もちろんこのリストは「認知症チェックリスト」としても使用できますので、是非参考にしていただければと思います。
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【認知症チェックリスト(もの忘れ症状は除く)】
①手の使いにくさ(失行)があり、明らかな鏡像運動が出る
・手が使いにくくなった(左右差がある)
・手のこわばり感、腫れぼったい感じがして動かしずらい
・指を親指から1本ずつ曲げたり開いていったりするのが速くスムースにできなかったり、手でキツネやチョキなどの形を素早く模倣できない (失行)
・この時、対側の手を上向きに開き膝の上に置いておくと指が勝手に大きく動く(鏡像運動)
・字が下手になった
②パーキンソニズム(パーキンソン症状)がある
・表情が乏しくなった
・瞬目(まばたき)が減った
・動作が鈍くなった
・手足のこわばりがある
・バランスが悪くなった(特に前後で)
・階段は手すりがないと上り下りできず、特に下りが怖くなった
・歩行時に「フワフワ」した感じがする
・歩く姿勢が前屈みになった
・歩きが小刻み、すり足になった
・すくみ足がある。歩き初めや狭い所を通る時、目的地が近づいてきた時や方向転換して座ろうとした時などに顕著になる
・歩行時に手を振らない(左右差がある)
・よくつまずいたり、転ぶようになった
・坐位や立位で身体が傾いていてもそのままで自分で修正できない(斜め徴候)
・何もしていない時に手足が震える(安静時振戦)
・動作が鈍くなった(動作緩慢)
・字が小さくなった(小字症)
・声が小さくなった(小声症)
・しゃべりにくくなった(構音障害)
・飲み込みが悪くなった。よくムセる。よだれが出る(嚥下障害)
・寝返りや起き上がりがしにくくなった
・起き上がる時まっすぐ起きる
③意識の変容があり、ボーッとしている時とはっきりしている時の波がある
・テレビを見ているようで見ていない様子など、うつろな時とそうでない時が入れ替わる
・疲れている時などは除き、日中ボーッとすることがある
・1つのことに集中できなくなった
・新聞を読んでいても頭に入ってこないことがある
・日中ウトウトしがちで、眠くなる
・意識を失うようなことがある
④言葉の理解や発語がスムースでなかったり(失語)、人の顔や名所などが分からない(失認)
・言葉の意味がすぐに分からなかったり、言いたい言葉がすぐに出てこなかったりする(失語)
・分からないと怒ったり、笑ってごまかしたり、話を逸らしたりする
・都合耳に(一見耳が遠く)なった
・テレビを見たり、本や新聞を読まなくなった
・電話で一方的に話したり、頼みごとが伝わっていないことがある
・文字を書いたり、文章を読むことができなくなってきた(失書・失読)
・人の顔や名所などが分からなくなった(失認)
・身近な人が別の人と入れ替わって認識していることがある(カプグラ症候群)
・よく夢を見る(あまりいい夢でないことが多い)
・寝言をよくいう。寝言で大きな声を出すことがある。自分の声で起きるようなことがある
・寝ていて手足をバタバタ動かすことがある
・夜、急に起きて動きだすことがある
・いびきをかく
・睡眠時に無呼吸になる
⑥自律神経障害がある
・便秘がちである(3日以上出ないことが多い)
・頻尿や失禁がある
・手足が冷たくなる(冷え性)。逆に手足が火照る(暑がり)
・多汗症である。汗をかかない
・血圧が不安定。起立性低血圧がある
・片手だけ霜焼けがある
⑦前頭葉症状がある
・態度が横柄で、気遣いができなくなった
・怒りっぽくなった。スイッチが入ると目が座って手が付けられない。しばらくするとケロッとしている
・疑い深くなった
・食べ物の好みが変わって味が濃いもの、特に甘い物やお菓子などが好きになった
・早食いや食べこぼしがある
・空気が読めなかったり、場にそぐわない言動が見られる
・相手に違和感や変な印象を与えるようになった
・化粧や身だしなみに気を配らなくなった
・着替えない
・風呂好きだったのに嫌がって入浴しなくなった
・よくトイレを汚す
・自分が変だという認識(病識)がない
・同じような言動を繰り返し(常同行動)、止められると怒り出す(同じ店で同じ席に座り同じ物を注文するなど)
・時刻表的行動がある
・1つの行為や物事にこだわり、執着する(物を集める、同じ物を買う、ごみ屋敷、クレーマー、ストーキングなど)
・善悪観念が欠如し、悪いことをしても何とも思わない(万引きなど)
・多動で落ち着きがない
・子供っぽくなった
・going my wayな性格に輪がかかった
・感覚過敏(においや味、寒暖など)や痛覚過敏(血圧測定で痛がるなど)がある
⑧原因不明の手足の痛み・しびれ・違和感・むくみがある(特に左右差がある)
・どちらかの手足に異常を感じて病院を受診したが、原因が分からない
・病院で治療を受けたが良くならない
・特に50歳以降で発症したもの(皮質性感覚障害)
・足などに変な感じあり、じっとしていられないことがある(ムズムズ脚症候群)
⑨焦燥感・不安感・うつ症状がある(ドクターショッピングをしている)
・焦燥感や不安感、気分の落ち込み、うつ症状がある
・何もやる気が起きない
・引きこもりがちになり、無気力で寝てばかりいる(アパチー)
・疲れやすい。だるい
・うつや不安症などで精神科への通院歴がある
・精神科や心療内科で治療を受けても改善しない。かえって悪くなった
・ドクターショッピングの傾向がある
⑩幻覚(幻視・幻聴・実体意識性など)や妄想がある
・幻視(ネズミなどの小動物や虫、人、床が歪んだり水に濡れているように見えるなど)がある
・幻聴がある
・実体意識性(見えないが誰かがいる気配がする)がある
・物盗られ妄想や嫉妬妄想などがある
・幻覚がもとで妄想に発展することがある
※10項目中2項目以上該当する項目がある方は認知症を伴う神経変性疾患の疑いがあります
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以上になりますが、分かりずらい点もあるかと思いますので、次回から各項目について詳しく説明していこうと思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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