認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症と発達障害(前)

前回は、もの忘れを除いて認知症になると出現しやすい症状①の項目後半にある「鏡像運動」についてご説明しました。

その中で、鏡像運動はパーキンソン病や大脳皮質基底核症候群といった変性疾患や脳梗塞後遺症などの一部の疾患群で認められるものであり、定型発達なら12歳までに消失するはずなのに、実際にはほとんどの認知症患者さんに認められるというのは、定型発達ではない「発達障害」の方が認知症になりやすいからではないかということをお話ししました。

認知症チェックリストの項目の説明からは一旦離れて,今回から2回に渡り「認知症発達障害」についてお話しいたします。

 

そもそも発達障害には「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠陥多動性障害ADHD)」「学習障害(LD)」などがあります。

そしてそれぞれの障害がそれぞれ単一に存在するというよりは、複数の障害の要素を合併していることが多いようです。

自閉症スペクトラム障害(ASD)」は、「社会性、社会的コミュニケーション、社会的イマジネーション」の「3つ組の障害」と言われ、同年代の他者と相互的な交流が苦手で、言語的にも非言語的にもコミュニケーションをとることや、他者の気持ちを想像して思い遣るといったことが上手くできなかったりします。

ちなみに以前は「アスペルガー症候群」と言われていました。

注意欠陥多動性障害ADHD)」は、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(思いつくと行動してしまう)といった症状が見られる障害のことです。

学習障害(LD)」は、全般的な知的発達に遅れがないものの「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力に困難が生じる障害のことです。

 

さて、前回お話しした鏡像運動と発達障害の関連性について、ボルチモアにあるケネディクリーガー研究所が行った調査で、2011年2月14日の米国神経学会誌「Neurology」に発表されたものがあります。

それによると、ADHDと診断された8歳から13歳までの50人の子供と、そうでない25人の子供を調査したところ、ADHDの子供たちでは、一方の手の指で机をたたく動作をさせた時に、他方の手に不随意な動きが出てしまう「鏡像運動」が高い割合で認められたそうです。

そしてこれはADHDにおける抑制機能障害の重要な証拠ではないかと報告されています。

この報告から実際にADHDの方は鏡像運動が出やすいということですが、臨床的には年齢に関わらずASD傾向が強い方でも非常に鏡像運動が出やすいという印象があります。

 

また中央大学文学部の緑川研究室(神経心理学研究室)のホームページでは、発達障害認知症について以下のように報告されています。

パーキンソン病レビー小体型認知症の人々に対して昔を振り返ってもらうと、発達障害の一つである注意欠陥多動性障害だった率が他の認知症に比較して有意に高いことが報告されています。同じく、原発性進行性失語症の人々を調査すると、本人やその家族に学習障害だった人々が他の認知症に比較して有意に高いことが報告されています。

一方、これまで見過ごされてきたことですが、臨床的に前頭側頭型認知症と診断された患者の中には、それまで診断されることが無かった自閉症スペクトラム障害の人がいるのではないかと考えられていましたが、私たちの研究チームは、アルツハイマー病の人々と比べて、臨床的に前頭側頭型認知症と診断された人の中には、発症前に自閉症スペクトラム障害であった可能性が高いことを改めて確認しました.

ただし、自閉症スペクトラム障害が前頭側頭型認知症の危険因子となるのか、あるいは前頭側頭型認知症と診断された方の中に、未診断であった自閉症スペクトラムが含まれているだけなのかは未解決なままです。」(中央大学 文学部 緑川研究室(神経心理学研究室)https://c-faculty.chuo-u.ac.jp/blog/green/研究テーマ/発達障害と認知症/

 

そもそも発達障害は幼少期から比較的若い成人期において診断・治療されるものです。

また発達障害自体、比較的最近になって広く認識されるようになったものなので、高齢者の中にも一定の割合で存在しているはずですが、ほとんどの方が診断されずに高齢になっていると考えられます。

そのような発達障害傾向のある方が、高齢になった場合どのようになっていくのかはまだ明らかになってはいませんが、少なくない割合で「認知症」に移行していくのではないかと思われます。

なぜならば発達障害の症状と認知症の症状は、ほとんどが「似たようなもの」であり「オーナーラップ」しているものが少なくないからです。

 

ちなみにASDの症状は、認知症で見られる前頭葉の症状そのものだと言っても良いでしょう。

またADHDの、注意が持続しない、落ち着きがない、動作面でも精神面でも多動だ、といった症状も、認知症では高頻度で見られる症状です。

そのため認知症外来の初診では家族に、もともと本人は若い時どんな性格だったのか、どんな仕事をしていたのかを必ず聞くようにしています。

そうすると「もともと頑固で怒りっぽかった」とか「もともとよく動き回っていてジッとしていなかった」という答えがよく聞かれます。

ちなみに前者がASDタイプで、後者がADHDタイプになります。

ASDタイプの場合は「もともと頑固で怒りっぽかった」性格に「ますます輪がかかり」、それに家族が困って受診するケースが本当に多いです。

そういった方の元の職業を聞くと、普通のサラリーマンをしていたような方は少なく、大部分の方が自営業で、その他には職人や専門職、教師などが多い印象で、そのような仕事は、ある程度自分の裁量だけで行えるからではないかと考えられます。

そしてADHDタイプの方は「もともと話し好きで社交的、よく動き回って働き者だった」けれども、ある時からだんだん「油が切れたように」動きが鈍くなって表情もなくなり、うつっぽくなっているという方が多いです。

いずれのタイプにおいてもそれぞれの症状に「もの忘れ」がくっついてきて、認知症外来の受診につながるというケースがほとんどです。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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