前回は、発達障害傾向のある方は鏡像運動が出やすいこと、発達障害の方が未診断のまま高齢になり認知症に移行していくケースが少なくないのではないかということ、自閉症スペクトラム障害(ASD)タイプと注意欠陥多動性障害(ADHD)タイプそれぞれの認知症外来の受診に至るまでのよくあるパターンなどについてお話ししました。
今回はその続きです。
前回、当院の認知症外来の初診では家族にもともとの本人の性格を必ず確認しているとお話ししました。
そうすると患者さんの多くがADHDタイプやASDタイプ、また両者の混合タイプに該当することに驚きます。
その際「こんな感じではなかったですか?」と家族が分かりやすいように例としてよく使うマンガのキャラクターがいます。
ADHDの例としては「サザエさん」、ASDの例としてはちゃぶ台返しで有名な「巨人の星」の星飛雄馬のお父さん「星一徹」です。
ちなみにASDタイプで「星一徹」の例を挙げると「そうです!その通りです!」とそれに同意する家族が本当に多い印象があります。
ここで一つ言っておかなければならないことがあります。
それは発達障害の方が持ち合わせている気質というのは、実は誰もが持ち合わせているものであり、発達障害の人とそうでない人との違いは、自分の「特性」に対する自覚が少ないために、その特徴的な気質が強く出てしまって社会生活に支障が出ているかどうかだけだということです。
また「発達障害」というと、どうしても負のイメージを抱いてしまいますが、実は優れている面もたくさんあります。
ADHDの方は忘れっぽくておっちょこちょいで落ち着きがない半面、エネルギッシュに動き回る働き者で、人とのおしゃべりが得意で社交的だったりするので仕事で成功する方も多く、憎めないキャラクターで魅力的な方も少なくありません。
一方ASDの方は空気を読んだり、人付き合いが苦手な半面、一つのことに集中して突き詰めていくことが得意なので勉強ができて高学歴な方が多く、専門職や研究者で成功したり、情に流されにくいので経営のためにリストラや人件費カットをしっかり行うことができる、やり手のワンマン社長になったりもします。
また、ある程度自分の思い通りに仕事ができるようにと起業して自営業になる方が多かったり、一つの分野に特化して突き進むことが得意なため、様々な業界の最先端にいて常に新しい時代を切り開いていったりするのもこのタイプの方です。
本人はもちろん周囲の方がそれぞれのタイプの特性を理解し、弱点をカバーしながら長所を活かすことができれば、社会において十分活躍できる可能性があるので、もはやその特性は「個性」だと言うこともできないでしょうか。
ただそういったタイプの方々の脳には「脆弱性(ぜいじゃくせい)」があり、特にストレスに過敏で弱く障害されやすいことが知られています。
おそらく「認知症になりやすい」というのもその脆弱性のためではないかと思われます。
そのためそういった方々が自分の特性を活かして活躍するためには、できるだけストレスのない環境に身を置くことが必要であり、さらに言えば最近良く言われる「ほめて伸ばす」ことが特に有効なのだと思われます。
そう、この「ほめること」こそが、発達障害傾向のある方への対応において一番大事なことであり、医療や介護の場面においても信頼関係を築いて、こちらの言うことに耳を傾けてもらうための「第一歩」になります。
もちろん同じことが、発達障害の特性をベースに持ち合わせていることが多い認知症の方に対しても言えます。
人には必ず何かしらほめるようなことはあるはずです。
必ずしも嘘は言わなくていいのです。
「大変でしたね。でも○○さんはすごいですよ」「今日の服装は明るくていいですね」「お若いですね」「さすがですね」などなど。
ほめられて気分が悪くなる人はいません。
そのような会話を重ねていくと、あれだけ気難しくて周りの人はみんな手を焼いている人だったとしてもその方だけには心を開いていく、というようなことを本当によく経験します。
逆に認知症の方に対して「怒ったり」「非難したり」「間違いを指摘したり」してストレスをかけることは絶対にしてはいけません。
ベースにストレスに過敏で脳の脆弱性を持ち合わせていることが多く、間違いなく症状が悪化していってしまうからです。
前回、緑川研究室の発達障害と認知症の報告において「パーキンソン病やレビー小体型認知症の人々に対して昔を振り返ってもらうと、発達障害の一つである注意欠陥多動性障害だった率が他の認知症に比較して有意に高い」というものがありました。
当院にもパーキンソン病やレビー小体型認知症の方がたくさん通院していますが、発病前から多動でエネルギッシュだったADHDタイプの方がとても多くいらっしゃいます。
色々なタイプがいるのですが、典型的なのはおしゃべりで話題が次々に飛ぶようなタイプで、そういった方は小動物系のコマネズミやリスに似ている印象があります。
心身ともにチョコマカしていて愛嬌があって憎めないタイプです。
他の人の何倍も動きすぎて、そのためにあたかも「油が切れる」みたいに神経伝達物質のドーパミンが枯渇してパーキンソン病やレビー小体型認知症を発症してしまったのではないかと思うくらいです。
このレビー小体型認知症の診断基準の中に「薬剤過敏性」というものがあります。
「薬剤過敏性」というのは、体質的に薬が効きすぎてしまうため、定められた常用量を使うと想定以上に効いてしまったり、大きな副作用が出てしまうというものです。
そのためレビー小体型認知症の方に対する投薬治療は、特に常用量よりもずっと少ない量で始めたり、経過を見ながらごく少量で微調節していかなければならない、といったように細心の注意が必要なのですが、実はこの「薬剤過敏性」は発達障害の方にもあることが分かっています。
発達障害傾向の方では、もともと風邪薬を飲むとかえって悪くなったりするので昔から薬が嫌いだという方も少なくありません。
そうするとレビー小体型認知症の診断基準の中に「薬剤過敏性」があるのは、そもそもレビー小体型認知症を発症するのはADHDタイプの方が多いため、もともとADHDタイプの方が有する「薬剤過敏性」が診断基準に取り入れられるまでに至ったのではないかと思われるほどです。
認知症と発達障害についてはお話ししたいことがまだまだたくさんありますが、今回はこれくらいにして、次回からまた認知症チェックリストの項目の説明に戻りたいと思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
↑↑ 応援クリックお願いいたします