認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

⑤睡眠障害(レム睡眠行動異常・睡眠時無呼吸症候群)がある【認知症チェックリスト】(後)

前回は、十分な睡眠がとれないと睡眠中に排泄されるはずの「アミロイドβ」が脳に溜まって認知症を発症しやすくなること、睡眠障害の1つである「レム睡眠行動障害」は様々な認知症を呈する神経変性疾患の前駆症状として数年~15年位前から現れること、「レム睡眠行動障害」があると14年後には90%以上の割合でパーキンソン病レビー小体型認知症、進行性核上性麻痺などの神経変性疾患を発症するという報告があること、そして「レム睡眠行動障害」はもちろん睡眠障害をしっかり治療して良質な睡眠習慣を持つことによって、神経変性疾患を「発病」していたとしても「発症」を予防したり、病状の進行を遅らせたりする可能性があるということをお話ししました。

今回は、前回「レム睡眠行動障害」とともに睡眠障害をもたらす病気として挙げた「睡眠時無呼吸症候群」についてと、それぞれの睡眠障害の治療法についてお話しいたします。

 

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睡眠障害レム睡眠行動異常・睡眠時無呼吸症候群)がある

・よく夢を見る(あまりいい夢でないことが多い)

・寝言をよくいう。寝言で大きな声を出すことがある。自分の声で起きるようなことがある 

・寝ていて手足をバタバタ動かすことがある 

・夜、急に起きて動きだすことがある 

・イビキをかく 

・睡眠時に無呼吸になる

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認知症外来の初診患者さんに問診すると「イビキをかく」という方が非常に多いことに驚きます。

若い時からイビキをかくという方から、最近イビキをかくようになったという方までいますが、「イビキ」と「認知症の発症」には間違いなく関連性があると思われます。

「イビキをかく」病気として有名なのが「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome;SAS)」です。

睡眠時無呼吸症候群」は眠っている間に呼吸が止まる病気です。

この病気がある方はイビキをかく方が多く「ガー、ガー」とイビキをかいていると急に「・・・」と息が止まって、その後またイビキをかき始めるので一緒に寝ている人に気づかれることが多いようです。

医学的には、10秒以上の気道の空気の流れが止まった状態を無呼吸とし、無呼吸が7時間の睡眠中に30回以上、もしくは1時間あたり5回以上あれば、睡眠時無呼吸と診断されます。

心配のいらない生理的なイビキとしては、寝入りばなにかくイビキ、とても疲れて寝ている時のイビキ、飲酒後のイビキなどがあります。

これに対して「睡眠時無呼吸症候群」を疑わせるイビキとしては、一晩中かくイビキ、呼吸が止まって、その後苦しそうにかく大きなイビキなどがあります。

いずれにしても「イビキ」をかく方は、日常的に十分な睡眠がとれていない可能性が高いのです。

そうすると、前回お話ししたように睡眠が浅くなることで「夢を見やすく」なったり、睡眠中にしっかり脳から「アミロイドβ」が排出されなかったりして、認知症の発症リスクが高まるのではないかと思われます。

また睡眠の質も量も不十分な睡眠習慣が続くと、認知症の発症リスクを高めてしまうだけでなく、認知症の方では日中の覚醒度が落ちることで、他の認知症の症状を引き出したり増悪させてしまうことになりかねません。

そのため「イビキ」はあなどれない病態だと言えるでしょう。

 

睡眠時無呼吸症候群」の主な治療法としては、寝ている間の無呼吸を防ぐために鼻に装着したマスクから気道に空気を送り続けて気道を開いておく「CPAPシーパップ)療法:経鼻的持続陽圧呼吸療法」や、下あごを上あごよりも前方に出すように固定させることで上気道を広く保つ「マウスピース」を使った治療法といった対症療法、気道を塞ぐ部位を取り除く「外科的手術」の根治療法があります。

もちろん太りすぎないように適正体重を保つこと、お酒を控えること、鼻呼吸の習慣をつけること、仰向けでなく横向きで寝るなど、気道を圧迫させないといった生活習慣の改善も大切になります。

イビキをかく人はイビキをかかない人に比べて生活習慣病のリスクが高く、高血圧は2.4倍、脂質異常症が3.2倍、糖尿病が1.2倍というデータもあります。

またうつ病のリスクも2.4倍となっており、認知症の初期症状である「うつ状態」との関連性も疑われます。

「うつ」認知症疾患やパーキンソン病関連疾患とも非常に関連性が高い「発達障害」傾向のある方でも発症しやすいので、この数字はとても示唆的だと思われます。

 

一方、前回お話しした「レム睡眠行動障害」の治療についてですが、漢方薬の抑肝散やクロナゼパム、メラトニン、リバスチグミンといった薬を使うことが多いようです。

また日中にストレスがかかる出来事があったりすると、その夜「レム睡眠行動障害」の症状が悪化するという報告もありますので、できるだけストレスのかからない生活を送るということも大事になります。

人によってストレスになることは違いますし、なかなかストレスを回避した生活を送ることは現代の生活では難しいのかもしれませんが、少なくとも一緒に生活している家族の方が本人にストレスをかけるようなことがないように注意してください。

さらに言えば「レム睡眠行動障害」のある方は、もともと「ストレスに弱い」という傾向があるということですが、これも認知症疾患やパーキンソン病関連疾患とも非常に関連性が高い「発達障害」傾向のある方が持ち合わせている特徴であり、やはり関連性が疑われます。

 

以上になりますが、良質な睡眠習慣を持つために自分たちが日常生活の中でできることや、気を付けた方が良いことについては、以前の記事「認知症予防につながる快眠習慣を持つために」の中でお話ししましたので、そちらも是非ご参考にしていただければと思います。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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