認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

⑧原因不明の手足の痛み・しびれ・違和感・むくみがある(特に左右差がある)【認知症チェックリスト】

前々回と前回は、もの忘れを除いて認知症になると出現しやすい症状リストの説明からは一旦離れて「前頭葉症状と発達障害」についてお話ししました。

今回からまた症状リストの説明に戻ります。

今回は「⑧原因不明の手足の痛み・しびれ・違和感・むくみがある(特に左右差がある)」です。

 

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⑧原因不明の手足の痛み・しびれ・違和感・むくみがある(特に左右差がある)

・どちらかの手足に異常を感じて病院を受診したが、原因が分からない

・病院で治療を受けたが良くならない

・特に50歳以降で発症したもの(皮質性感覚障害の症状)

・足などに変な感じあり、じっとしていられないことがある(ムズムズ脚症候群)

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手足のしびれや痛みがあると、どうしても整形疾患を疑って整形外科を受診することが多いと思います。

もちろん頸椎や腰椎のヘルニアや脊柱管狭窄症などによる末梢神経の圧迫によって手足のしびれや痛みが出ることも少なくありません。

ただ色々な病院を受診して治療したけれどもあまり改善せず、原因もはっきりしないといったような場合はその他の原因を考えなければいけません。

例えば、これらの症状は以前お話しした「自律神経障害」によって現れる症状でもあります。

「自律神経障害」はこの認知症チェックリストにも含まれるように、認知症を伴う神経変性疾患で合併しやすい症状であるため、認知症になると手足にしびれや違和感、むくみなどが出やすいのです。

特に症状に左右差がある場合は、パーキンソン病関連疾患(パーキンソン病レビー小体型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核症候群など)で合併しやすい「自律神経障害」によるものが疑われます。

パーキンソン病関連疾患では固縮や振戦、その他の神経症状が一側の上肢もしくは下肢から発症し、N字型(例えば、右手→右足→左手→左足、左足→左手→右足→右手の順)に進展していくので、ほとんどの場合において症状に左右差があるからです。

 

また「皮質性感覚障害」の症状としても、これらの手足の痛みやしびれ、違和感などが出ることがあります。

「皮質性感覚障害」とは大脳皮質基底核症候群(CBS)になると出現しやすい徴候で、「失行(手の巧緻性が落ちて模倣したり日常的な生活動作、道具の使用などが上手くできなくなる)」や「他人の手徴候(後ろで両手を組むと他人の手のように感じる)」「ミオクローヌス(自分の意志とは無関係に動いてしまう不随意運動)」とともに典型的な「大脳皮質徴候」とされています。

しかし大脳皮質基底核症候群(CBS)に限らず、アルツハイマー認知症(AD)や前頭側頭葉変性症(FTLD)をはじめとする認知症を伴う神経変性疾患においても、前頭葉後方から頭頂葉にかけて手指の運動野と感覚野の機能局在が存在する大脳皮質領域の萎縮が高頻度で認められるため、「失行」や「ミオクローヌス」などの運動面の症状だけでなく、感覚面の症状として「皮質性感覚障害」が出現することも少なくなく、それが手の痛みやしびれ、違和感などと表現されたりします。

 

これらの症状がある場合、もう1つ疑われるのが「ムズムズ脚症候群(restless legs syndrome;RLS)」です。

「ムズムズ脚症候群」は「下肢静止不能症候群」とも言われ、脚がムズムズする、脚を動かしたくて我慢できなくなる、ほてるなど、足の表面ではなく深いところに何とも言えない不快な感じが出る知覚運動性・神経性の症状が特徴になります。

日本人の有病率は2~5%あり、加齢とともに有病率は上がりますが、当院でも10代の方から高齢の方まで幅広い年齢層の方が受診されます。

 

症状の表現のされ方が非常に多彩なのですが、一部を挙げてみますと、ムズムズとしかいえない、言葉ではうまく表現できない、虫がはう、火照る、かゆい、イライラする、だるい、しびれる、くすぐったい、血管がつまる、筋肉が固まる、むくむなどがあります。

その他にも、むずがゆい、脚の中に手を入れて掻きたい、うずく、引きつる、脚を切ってしまいたい、電気が流れる、足踏みしたいといった訴えも聞かれます。

これらの異常感覚によって、本人はじっとしていられなくて脚を動かしたくなり、脚を動かすと症状が緩和する傾向があるのですが、症状出現の特徴として、じっとしている時や横になった時、眠る時などの安静時に症状が現れたり増強しやすく、何かに気を取られている時や他のことをして身体を動かしている時には症状が緩和しやすいという傾向があります。

また症状は日中も出現しますが、夕方から夜間にかけて出現したり増強することが多く、症状が出現する部位も、脚だけでなく背中や腕、腹や顔など全身に渡っています。

このように「ムズムズ脚症候群」の症状の出現部位や症状の表現は非常に多彩であり、そのことも特徴だと言えます。

また症状がカフェインやアルコール、タバコ、抗ヒスタミン薬で増悪することもあります。

「ムズムズ脚症候群」の原因としては鉄欠乏性貧血、慢性腎不全、糖尿病、パーキンソン病、妊娠、向精神薬などが挙げられていますが、パーキンソン病関連疾患パーキンソン病レビー小体型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核症候群など)の方に合併することが多い印象があります。

そのため認知症を伴う神経変性疾患でも合併しやすい症状になっており、これらの症状のために不眠になったり、落ち着きなく立ったり座ったりと多動になったりして、本人にとっては非常な苦痛であることが少なくありません。

ひどい場合には、診察中椅子に座っていられずに何回も立ったり座ったりを繰り返したり、そもそも座れずに立って歩き回っていたりする方もいるほどで、「ムズムズ脚症候群」の症状が認知症の周辺症状を増悪させていることも珍しくありません。

そのため「ムズムズ脚症候群」の治療は原因疾患の治療と並行して優先的に行っていくことになりますが、実際にはレグナイト®、ビ・シフロール®、ニュープロパッチ®、リボトリール®などの治療薬を使います。

幸いにしてこれらの治療薬によって症状が改善されることが多いので、何よりもまずはしっかり診断してもらうことがとても大事だと言えます。

もしも上記のような症状があって原因がなかなか分からないという場合は、早めに神経内科を受診されることをお勧めします。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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