認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

⑨焦燥感・不安感・うつ症状がある(ドクターショッピングをしている)【認知症チェックリスト】(後)

前回は、もの忘れを除いて認知症になると出現しやすい症状⑨の「うつ症状」と「アパシー」についてお話ししました。

今回はその続きです。

 

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⑨焦燥感・不安感・うつ症状がある(ドクターショッピングをしている)

・焦燥感や不安感、気分の落ち込み、うつ症状がある

・何もやる気が起きない

・引きこもりがちになり、無気力で寝てばかりいる(アパシー

・疲れやすい。だるい

・うつや不安症などで精神科への通院歴がある

・精神科や心療内科で治療を受けても改善しない。かえって悪くなった 

ドクターショッピングの傾向がある

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当院の認知症外来を受診される方の中には「うつや不安症などで精神科への通院歴がある」方が少なくありません。

このことは以前お話しした「自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害ADHD)などの発達障害傾向のある方が認知症になりやすい」ということと関係があると思われます。

 

うつ病」は時に妄想を伴うので、統合失調症とともに二大精神病の一つとされていましたが、最近は妄想などは全く認められず、精神病的でない「新型うつ病」というのが増加しているそうです。

新型うつ病」は仕事などのストレスのかかる場面では、うつ、焦燥感、不安感、意欲低下などの症状が目立つけれども、仕事以外の場面では症状が目立たないというものです。

そして「新型うつ病」は、実は「発達障害の二次障害」と考えられるケースが多く、特に発達障害の中でもASDタイプの方は、特性である社会的コミュニケーションの障害やこだわりの強さなどによって仕事に適応できず、二次的に「うつ」状態に陥りやすいというのです。

ADHDの方も例外ではありません。

実はASDとADHDは合併しやすいことが知られており、併存率は50~60%以上だという報告もあるからです。

 

また発達障害の方は不安障害を合併する率がかなり高いことが分かっています。

ASDの方は社会の中で自分だけ異質で孤立していると感じやすく、そのため不安感が高まって不安障害になりやすいのではないかと考えられています。

また、一般的に脳内にドーパミンが増えて脳内報酬系が刺激されるとやる気や快感が生じて集中力も持続しやすくなりますが、ADHDの方は脳の特性として、ドーパミンが少なくて脳内報酬系の活性が低い傾向があり、刺激が少ないとやる気や快感を感じることができずに集中力も落ちて、不注意からミスを起こしやすくなると考えられています。

そのためADHDの方はなかなか満足感を得られず無意識に行動し続けるのではないかと指摘している先生もいます。

さらにADHDの方は双極性障害を発症しやすいことも分かっています。

(依存症・大人の発達障害専門 マリアの丘クリニック http://www.maria-hill.jp/15095403679428

 

これらのことから発達障害傾向のある方は「うつ病」や「不安障害」などになりやすく、そのために精神科や心療内科への通院歴がある方が少なくないのだと思われます。

しかし精神科や心療内科で治療を受けても改善せず、かえって悪くなったという方も少なくありません。

そもそも病気の本体が「うつ病」や「不安障害」などではなく「発達障害」が原因であるため、抗うつ薬抗不安薬といった向精神薬の効果があまり期待できないのです。

さらには投薬治療の効果が出ないために薬の量をどんどん増やされてしまい、そのために薬の副作用が目立つようになってかえって全体的な症状が悪化してしまうということも少なくないのです。

そしてなかなか自分の症状が良くならないので、色々な病院を転々と受診するいわゆる「ドクターショッピング」をしてしまう原因の一つにもなります。

 

もう一つ「発達障害」傾向のある方に対する投薬治療で大きな問題になることがあります。

それが「薬剤過敏性」です。

「薬剤過敏性」とは、薬に対してとても過敏なため、ごく少量の薬でも効いてしまうという特性のことを言いますが、実は「発達障害」傾向のある方がこの特性を持っていることが多いのです。

「薬剤過敏性」のある方が一般に定められた薬の常用量通りに内服してしまうと、薬が効きすぎてしまって副作用も大きく出てしまうため、かえって症状が悪くなってしまったりするのです。

発達障害」傾向のある方は経験的にそのことが分かっているので、全般的に薬は飲まなかったり、風邪薬などは1回飲んだだけで十分効いてしまうのでそれ以上飲まないといった方も少なくありません。

特に脳神経に影響を及ぼすような向精神薬や抗パーキンソン病薬、認知症薬などでは「薬剤過敏性」による副作用が出やすいため、治療で使用する場合には常用量から開始することはまずありません。

薬によっては常用量の1/10~1/15から開始することもあるほどですが、それで十分な効果が得られることが多いのです。

その他の薬にも脳神経に影響を及ぼすような成分が含まれていることがあり(一部の総合感冒薬に含まれる抗コリン作用成分など)、1包内服しただけで1週間も不隠になってしまったり、逆に過鎮静になって寝たきりになったり、パーキンソニズムが顕著化して身体が傾いたり歩けなくなってしまうこともあります。

また「尿閉」や「首下がり」などを引き起こすこともありますが、特にこれらの症状は一旦出てしまうと改善するのが難しく、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)を著しく損ないかねないため、投薬には細心の注意が必要になります。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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