認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

発達障害傾向の強い方に特徴的な診療経過(前)

前回は、もの忘れを除いて認知症になると出現しやすい症状⑨「焦燥感・不安感・うつ症状がある(ドクターショッピングをしている)」についてお話ししました。

認知症外来を受診される方の多くがもともと「発達障害」の特性を持ち合わせているということについては以前からお話ししてきていますが、さらにそのような特性のある方は「うつ病」や「不安障害」などになりやすく精神科や心療内科への受診歴があったり「ドクターショッピング」をしやすい傾向もあるというのは前回お話しした通りです。

発達障害」傾向の方が「ドクターショッピング」してしまう原因の一つは、「うつ」や「不安」症状で精神科や心療内科を受診しても、それらの症状を引き起こしている本体である「発達障害」の特性に対してアプローチされることが少なく、抗うつ薬抗不安薬を処方されたり、それで効果がないと薬を増やされされてしまったりして副作用が大きくなってしまい、かえって症状が悪化してしまうことも少なくないためであり、それで病院を転々としやすくなっているということでした。

しかし「ドクターショッピング」してしまう原因はそれだけではありません。

もともと「発達障害」傾向の方が持っている気質も大きく関係していると考えられます。

そのため一旦認知症チェックリストの説明からは離れ、今回から「発達障害傾向の強い方に特徴的な診療経過」についてお話ししようと思います。

 

自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害ADHD)といった「発達障害」傾向のある方の特性として「待てない」「飽きっぽい」「自分本位の判断をしやすい」「エネルギッシュである」ことが挙げられます。

「待てない」具体例としては、待合室で他の多くの方が診察待ちをしている中、あからさまに不機嫌になって文句を言ったり、帰ってしまったり、処方された薬の効果がすぐに出ないからと自己判断で内服量を変更してしまったり、やめてしまったりするなどがあります。

「飽きっぽい」具体例としては、新しい治療法や新薬が出たり、新薬のための治験や自分で新しく見つけたり話題になっているサプリメントなどがあるとすぐに飛びつくけれども、長続きせずにまたすぐ別のものに興味の対象が移ってしまうなどがあります。

もちろん通院している病院にも「飽きやすい」のだと思われます。

「自分本位の判断をしやすい」具体例としては、「待てない」例でも挙げた内服薬の自己調節や中断もそうですが、長年お世話になっている主治医や医療スタッフに何の相談もなくいきなり転医の希望をしてきたり、急に通院しなくなってしまったり、診察中や夜間であっても構わずに何度も電話してきたりなど、自分が「したい」と思ったら他の人のことなどはお構いなく「やらずにいられない」というものです。

「エネルギッシュである」というのは、上記の「待てない」「飽きっぽい」「自分本位の判断をしやすい」ために、多少大変なことであっても構わずにどんどん行動してしまうということです。

具体例としては、いい病院があると聞いたらどんなに遠くても新幹線や車に乗って受診してきたり、またそういう病院が1か所だけでなく「ドクターショッピング」をしていたり、病気や治療法、薬やサプリメントなどを熱心に勉強していてとても詳しいばかりか、実際に色々と試していたりもします。

 

本人はもちろん主介護者の家族にこのような特性が強くあると、治療に難渋することも少なくありません。

例えば、新しく薬を開始したり内服量を変更した場合、よっぽどのことがない限り、薬の効果判定のために1~2週間は様子を見たいところですが、「待てない」で「自分本位の判断をしやすい」という特性があるために何の相談もなく薬を飲んだり飲まなかったり、また内服量を調節してしまったりするので次の受診時に薬の効果を正しく評価できなくなったりします。

そうすると症状を改善するための内服薬の調整が適切に行えなくなってしまうのです。

また認知症治療に使用する薬は脳神経の働きに少なからず影響を与えるものなので、一旦始めた後に急に中止したり、内服量を変更したりすると予想もつかないような副作用が出てくることがあります。

ひどい場合は「悪性症候群」といって命に関わるような状態になることもあるため、脳神経に作用する薬を使用する際には、医師による適切な判断はもちろん医師の指示に基づく適切な内服管理が不可欠になります。

たとえ「悪性症候群」には至らずとも、その時その時の自分の症状や目の前の症状に一喜一憂してちょこちょこ内服薬を調節してしまうと確実に「症状が波打ってしまう」のです。

そうするといつまでたっても症状は改善されません。

そしてそのことを本人や家族に伝えても、なかなか改善されないケースがほとんどなのです。

これにも理由があるのですが、それは次回お話しすることにします。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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