前回は「もの忘れ」に間違われやすい「認知症」症状として「失語」を挙げてお話ししました。
今回はその続きです。
次に「もの忘れ」に間違われやすい症状として挙げられるのが「意識の変容」です。
「意識の変容」とは「意識がはっきりしている時とそうでない時が入れ替わる」症状のことです。
この「入れ替わり」は数秒単位から分単位、時間単位、日単位で起こることが多いですが、中には週単位、長いものだと月単位で起こる方もいて、様々なスパンで起こります。
「意識の変容」の症状が強いと診察中に急に「落ちる」ように頭が下がって眠ったようになり、しばらくすると「ハッ」と目を覚ますといったことを繰り返したりします。
また会話中に目は閉じなくても急に「意識が飛んで」しまったようになって反応が悪くなったり、「心ここにあらず」の状態になって回答がチグハグになったりします。
その他よく見られる例としては、高齢者の方がテレビを観ていても「ボーッ」として観ているのか観ていないのか分からなくなっていたり、みんなと会話している時に話しかけても何の反応もなくなって「ねぇ、どうしたの?」などと肩を叩いたりすると「ハッ」と我に返るなどが挙げられます。
これらは「意識の変容」によって覚醒度が急に落ちたり、元に戻ったりすることで起こるのです。
診察中に「意識の変容」の症状があるかどうかという視点で患者さんを観察していると、あたかも覚醒のスイッチが「パチンッ」と切れたり入ったりして瞬間的に覚醒度が変動するのが分かることもあるほどです。
しかし一般的には「意識の変容」の症状は、特に意識していないと本人だけではなく周りにいる方にも「気づかれにくい」症状であり、見過ごされやすいというのがやっかいな点だと思われます。
この「意識の変容」が起こりやすい認知症疾患としては「レビー小体型認知症」が有名です。
「レビー小体型認知症」は日本で2番目に多いとされる認知症疾患ですが、幻覚やパーキンソン症状などとともに覚醒度が波打つ「意識の変容」が主要な症状の一つになっており診断基準にも含まれています。
しかし実は「レビー小体型認知症」に限らず他の認知症疾患においても「意識の変容」が合併することが少なくありません。
それにも関わらずこの「意識の変容」の症状についてはもちろん、この症状が認知症疾患で高頻度に合併することについてもあまり知られていません。
先ほどもお話ししましたが「意識の変容」があっても「気づかれにくい」ことがその一番の理由だと思われます。
実は「意識の変容」がある方に、覚醒度が落ちた状態になることについて聞いてみると「眠くなる」と表現する方がほとんどなので、もちろん症状の自覚もありません。
しかも周りにいる人からも「傾眠」状態でただ眠いだけだと見られがちなので、まさか「意識の変容」によって病的に「覚醒度が落ちている」ためだとは思われないのでしょう。
「意識の変容」によって覚醒度が落ちていると、様々な認知症症状も前景化しやすくなります。
覚醒度が落ちていると、それに伴って本来できるはずの知覚や認知、判断、思考も妨げられるからです。
そもそも覚醒度が落ちている時に何かをしたり、言われたとしても、本人は覚えていないということが起こり、それがしばしば「もの忘れ」と表現されるのです。
これは単なる記憶障害による「もの忘れ」ではなく、覚醒度の低下による認知機能低下によって起こる「もの忘れ様」の症状だと言えるでしょう。
ちなみに知覚や認知、判断力、思考力が低下すると「幻覚」や「妄想」も起こりやすくなったり、理性的な言動が難しくなってイライラして怒りっぽくなるといった「前頭葉症状」も顕著化しかねません。
つまり「意識の変容」があると、あらゆる認知症の症状を増強させたり、まだ出現していない症状まで引き出しかねないのです。
そのため「意識の変容」がある場合には、それをいかに治療するかが「認知症治療の第一歩」にもなるのですが、それには投薬治療だけでなく生活習慣の改善が欠かせません。
そして「意識の変容」を増強させてしまう主要な要因として「便秘」と「睡眠不足」がまず挙げられるため、これらをいかに改善させるかが「治療のカギ」になるということについては、以前お話しした通りです。
「認知症」と「意識の変容」の関係については、過去の記事もご参照いただければ幸いです。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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