前回まで「もの忘れ」に間違われやすい「認知症」症状として「失語」と「意識の変容」を挙げてお話ししました。
実は今回の内容も前回のテーマの中に含めてお話ししようと思いましたが、今回お話しする症状は「認知症」になってから出現するというより、どちらかというと「発達障害」の症状として元々持ち合わせているといったケースが多いので、新たなテーマの中でお話しすることにしました。
以前から「発達障害」傾向の強い方が「認知症」に移行しやすいということは何度もお話ししてきました。
(以下が「認知症と発達障害について」の過去記事一覧のリンク先になります。
実は当院には「もの忘れ」を主訴にして高齢者の方だけでなく、若年層の方も少なからず受診されます。
一番若い方だと10代の方もいらっしゃいました。
そういった方々に共通していることは「発達障害傾向が強い」ということです。
そのため50代位までの方で「もの忘れ」を主訴に受診される方に対して、当院では必ず成人向けのASD(自閉症スペクトラム障害)検査とADHD(注意欠陥多動性障害)検査を実施しているのですが、少なくとも一方の検査において比較的高い確率で陽性もしくは境界域を示す結果が得られます。
これは「もの忘れ」が何かしらの「発達障害」の症状と関連して出現してきている、ということを示唆しているのだと思われます。
そしてその「発達障害」の症状とはADHDタイプに多い「注意障害」ではないかと考えています。
「注意障害」とは、簡単に言えば「注意力が低下すること」ですが、「注意障害」があると注意が散漫になるために落ち着いて物事に取り組むことが困難になり、日常生活に支障をきたしかねません。
この「注意障害」についてもう少し詳しくお話ししますと、「注意障害」の中には次のような種類があります。
注意力や集中力を持続させて一つのことを続けることが困難になる「持続的注意の障害」、多くの情報の中から、今必要な情報だけを選んで色々なことに反応することが困難になる「選択的注意の障害」、いくつかのことに同時に注意を向けながら行動することが困難になる「配分的注意の障害」、ひとつのことに注意を向けている時に、他の別のことに気付いて注意を切り替えることが困難になる「注意の転換の障害」の4つです。
そのため「注意機能」というのは、記憶や遂行機能、社会的行動といった他の認知機能を発揮するためのいわば「根幹」となる大事な機能であるとも言えます。
つまり「注意障害」があると「記憶」の過程で障害が起こり「もの忘れ」が起こりやすくなるということです。
もう少し詳しくお話しすると「記憶」の過程には、情報を覚えこむ「記銘」、記銘した情報を保存しておく「保持」、保持している情報を思い出す「想起」、そして記銘・保持していた情報を想起できなくなる「忘却」があります。
つまり「注意障害」があると、特にこの「記銘」の過程で情報を覚えこむことが障害されやすいということです。
人は何かを「覚えよう」とする時、その対象に「注意」を集中しなければなりません。
しかし「注意障害」があると、「覚えよう」とする対象を「選択」してその対象へ「注意」の向きを「転換」し、それを「持続」させておくことが困難になります。
いわば、その「場」にいても常に「注意」があちこちに飛んでしまって「心ここにあらず」の状態になってしまうのでしょう。
ただでさえ生きている人には五感を通じて常に多くの情報が入っており、それらに対して複数の「処理と対応」が意識的にも無意識的にも同時進行で行われています。
「注意障害」があると目に入ってくるもの、聞こえてくるもの、さらには「ふと」思い浮かんできたことなどにもさえ容易に「注意」の対象が移りやすくなってしまいます。
そのため何か作業をしていても「うわの空」になってミスが多くなりますし、人から言われたことや自分でやったことでさえも後から振り返ってみて「覚えてない」ということになりやすいのです。
若年層や中壮年層の方が「もの忘れ」を主訴にして受診されてくる場合、このような「注意障害」をベースに持っているケースが非常に多いのです。
そして、そういった方の多くが「今まで仕事や日常生活で特に問題なかったのに、ここ数か月で急に『もの忘れ』が出てきて生活にも支障が出てきた」などとと訴えられます。
つまり元々「おっちょこちょい」で「うっかり」したような間違いはあったとしても、ここ最近は「全く記憶にない」ことが出てきて「これはただごとじゃない」と思って受診されてくるのです。
そして徐々に「もの忘れ」が出てきたのではなく、比較的短期間で「急に」症状が出てきたというのも共通しています。
これにも理由があるのですが、それについては次回お話しすることにします。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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