認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

ASD(自閉症スペクトラム障害)とパーキンソン症状

以前ご紹介した「認知症チェックリスト」の項目にもあるように、多くの認知症疾患で「パーキンソン症状」が合併します。

そのため認知症外来においては、軽微なパーキンソン症状であってもいかに見つけることができるかが非常に大事なのです。

そのため当院では認知症外来初診時に問診や神経学的検査、動作観察や書字検査などを通じて患者さんの症状や所見を把握していきますが、「パーキンソン症状があるかどうか」を見極めることも大きな目的の1つになっています。

ただ実際には、わざわざ細かい検査などをしなくても、すぐに「パーキンソン症状がある」と判断できることも少なくありません。

診察室に入室される患者さんの歩き方や姿勢、顔の表情、手足の動き、声、問診票の文字などを見聞きするだけでも、パーキンソン症状があるかどうかを読み取れるからです。

 

まず入室時の歩き方を見れば、すり足や小刻み、すくみ足、突進傾向や後方重心、ふらつき感、動作緩慢、手振りの有無や左右差などがあるかどうかがすぐに分かります。

すり足で小刻み、すくみ足があれば、入室する前の「歩く足音」で分かることもあります。

立位や座位時の姿勢を見れば、左右に身体が傾いたまま固まっていたり(斜め徴候)、体幹が前屈していないか、首が前に垂れて(首下がり)いないかが分かります。

また動作時や静止時に手足が勝手に動く様子(不随意運動)がないかどうか、手足が細かく震える安静時振戦がないかどうかも確認できます。

顔を見れば、表情の変化が乏しかったり(仮面様顔貌)、瞬目が少なく目が大きく開いていて、顔のシワが少なく年齢より若く見えたり、脂で顔がテカテカして(脂漏性顔貌)いないかどうかを確認できます。

話し声からは、声が小さくて抑揚がなくなっていないかが分かります。

問診票の文字からは、字が小さくなったり(小字症)、ミミズが這ったような字になっていないかどうかを確認できます。

このような視点で患者さんを観察すれば、特別な検査などしなくても、本当に軽微なものでない限りパーキンソン症状があるかどうかを一目で判断することも可能です。

また、このような見た目からパーキンソン症状の有無を判断できない場合は、患者さんの手首を他動的に動かした時に抵抗感がある(手首固化徴候)かどうかを確認します。

もし抵抗感が感じられれば、代表的なパーキンソン症状の1つである「固縮」があると判断できます。

さらに手首を動かしている側と反対側の手を患者さん自身で上下に動かしてもらいながら、「1・2・1・2」などと声を出してもらうと固縮が出現しやすくなる増強法を利用すれば、軽微な症状でも感知することができます。

 

このように認知症外来においては、どんなに軽微なパーキンソン症状も見逃さないように診察を進めていきますが、もしパーキンソン症状を認める場合には何かしらの神経変性疾患があることを疑い、頭部MRI検査や脳血流シンチ検査(SPECT)、MIBG心筋シンチ検査、DATスキャン検査などの各種画像検査の実施をお願いします。

そしてこれらの結果を受けて多くの場合は「診断」に至るわけですが、実は明らかなパーキンソン症状があるにも関わらず、どの検査結果でも明らかな異常を認めない、といったケースが散見されるのです。

そしてそういった場合には、大抵その方にASD(自閉症スペクトラム障害)の特性があるということが分かってきたのです。

つまりASDの特性があると軽いパーキンソン症状を合併しやすいのです。

そのためASD特性のある方は、そのパーキンソン症状のためにギョロッとした爬虫類系の顔つきになっていたり、歩行時の手振りが減ったり左右差があったりします。

また、すり足やペタペタ歩きをするなど独特な歩き方をする方もいたりして、足音で「その人だ」と分かったりします。

政治家などの有名人の中にも何人か「もしかして」という方がいますが、皆さんの周りにもきっと心当たりの方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 

ASD特性のある方になぜパーキンソン症状が合併するのか理由ははっきりしませんが、ASDでは前頭葉機能が少し低下しているので、そのことと関係しているのではないかと思われます。

パーキンソン症状は脳の「大脳基底核」という部位がうまく機能しないと出現しやすいことが分かっていますが、実はこの大脳基底核は大脳皮質の特に前頭葉に制御されており(大脳皮質—大脳基底核ループ)、前頭葉の機能が落ちると大脳基底核の働きにも影響が出てパーキンソン症状を出現させるのではないかと思われるからです。

以上になりますが、パーキンソン症状については過去記事「②パーキンソニズム(パーキンソン症状)がある【認知症チェックリスト】(前)(中)(後)」(「認知症とパーキンソニズム」記事一覧リンク先:https://kotobukireha.hatenablog.com/archive/category/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E3%81%A8%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0)も是非ご参照ください。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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