前回はASD(自閉症スペクトラム障害)特性があると軽度のパーキンソン症状を合併しやすいというお話をしました。
今回は明らかなパーキンソン症状があるので各種画像検査を実施したけれども異常所見が認められず、実は神経変性疾患によってではなくASDによるパーキンソン症状だったという実際の症例についてお話しします。
初めの症例は50代後半の男性で妻と2人暮らしで会社の顧問をしており、海外赴任歴が長く、最近までに国内外含めて奥さんと2人で趣味のマラソンを100回以上完走されているという活動的な方です。
最近帰国されてから急に「ふらつく」ようになり、呂律も怪しくなった時期があったとのこと。
それで脳ドックを受けたり、三半規管の症状を疑って精密検査を受けたりしたけれども問題がなく、知り合いの医師より神経難病の疑いもあるからと神経内科の受診を勧められ、当院受診に至りました。
以下が初診時の問診内容です。
・初めに「ふらつき」が出た時はまっすぐ歩くのも難しかった。
・当時は呂律も怪しかった。
・色々検査をしても問題なかったので、運動しすぎによるビタミンB1欠乏症でも同じような症状が出るという医師の言うことを聞いてビタミンB1のサプリを摂るようにした。
・しばらくしたら呂律不良は完治した。
・「ふらつき」も改善して平らなところは不自由なく走れるようになったが、下りがまだ怖い。
・手の震えはないが、小さい字が書きにくくなった。
次に初診時に行った主なテスト結果と所見を以下にまとめます。
・固縮:右側優位に両側とも陽性。
・マイヤーソン徴候:陽性。
・歩行:歩行時右手を振らない。軽度すり足あり。
・姿勢反射テスト:後方優位に前後で軽度障害。
これらの結果からパーキンソン症状を呈する神経変性疾患が強く疑われたため、頭部MRI検査や脳血流シンチ検査(SPECT)、MIBG心筋シンチ検査(パーキンソン病やレビー小体型認知症などで陽性になる)、DATスキャン検査(パーキンソン病、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核症候群、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症などで陽性になる)を実施しました。
すると以下のような結果になりました。
・脳SPECT検査:両側後部帯状回の血流低下。
・MIBG心筋シンチ検査:陰性。
・DATスキャン検査:陰性。
これによりパーキンソン病関連疾患や大脳皮質基底核症候群などの神経変性疾患は否定され、頭部MRI検査と脳SPECT検査の結果からは「初期のアルツハイマー病」が疑われました。
ただ初期のアルツハイマー病ではパーキンソン症状は合併しないため、追加で「発達障害」の検査を実施したところ、以下のような結果になりました。
・成人期ASD検査:境界域。
・成人期ADHD検査:ADD(多動性障害)が強境界域。
これによりADD優位にASDの特性を合併しているタイプであり、それによりパーキンソン症状が出現していると考えられました。
そして初診時の検査結果でも認められた主要なパーキンソン症状の1つでもある姿勢反射障害が、そもそもの「ふらつき」の原因である可能性が高いと判断しました。
ちなみに「ふらつき感」で受診された方が、検査をしてみたら実はパーキンソン病の初期だったということが少なくありません。
パーキンソン症状による姿勢反射障害があると、歩行時に「ふらつき」を自覚したり「フワフワする」などと訴える方がとても多いのです。
特に後方優位に前後のバランスが悪くなっていることが多く、それが立位動作時や歩行時に「ふらつき」や「フワフワ感」として表現されるようです。
また階段昇降の特に「下りが怖くなった」と訴える方も多く、階段を使う時は必ず手すりを使うであるとか、そもそも階段を使わなくなったという方もいらっしゃいます。
この症例の方も初診時に「平らなところは不自由なく走れるようになったが、下りがまだ怖い」と言っていましたが、これは軽度の姿勢反射障害によるものなのだったのでしょう。
治療としては、アルツハイマー病の初期であることも疑われるため、脳の血流を上げる効果もある「リバスチグミン」4.5mgを毎日1枚のみ処方するとともに前頭葉機能を整える効果がある「フェルラ酸」をお勧めしました。
するとすぐには効果が出ませんでしたが、初診から3か月後に本人から「ふらつき感が改善して良いようです」と聞かれるようになり、投薬内容はそのままで良い状態が維持されています。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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