認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「パーキンソン症状」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例(その2)

前回に引き続き今回も「パーキンソン症状」を主訴に受診された発達障害」傾向のある症例についてお話しします。

 

2番目の症例は「ふらつき」と「もの忘れ」があることを心配して家族に連れて来られた70代の女性です。

屋外独歩は自立しているけれども、階段の上り下りをすると家族から「見ているこちらが怖い」と言われるくらいバランスが悪くなっていると。

また忘れっぽさも出てきて「通帳がない!」などと夫を責めるようなことか出てきたので当院受診に至りました。

 

以下が初診時の問診内容です。

・昔に比べると動作が遅くなって姿勢が前かがみになってきた。

・もの忘れが出てきて、物の名前や日付などが出て来なくなった。

・「通帳がない」と言って夫を責めていたので、長男が一緒に銀行へ行って残高が変わってないことを確認した。しかしその後また夫を責めていることがあった。

・長女によると半年前、約束もしていないのに本人から「今日は何時に来るの?」と言われ「約束してないよね」と答えると「あ~ごめんごめん」というようなことがあった。

・本人は元々強い性格で怒りっぽく、思い込んだら命がけという感じだったが、最近その傾向が強くなってきた。

・寝ている時イビキをすごくかいている。

・食欲はある。甘い物が好き。

・部屋をだんだん片づけられなくなってきた。

・週3回パートで掃除の仕事を続けている。

 

次に初診時に行った主なテスト結果と所見を以下にまとめます。

・指を順番に曲げ伸ばしする(指数え)テスト:両手指とも拙劣。両側ともわずかな鏡像運動が出現。

・指節運動失行テスト:両手指とも明らかに拙劣で模倣できないものもある。両側とも顕著な鏡像運動が出現。

・固縮:右優位に両側とも陽性。

・右斜め徴候:陽性。

・マイヤーソン徴候:陽性。

・姿勢反射障害:後方優位に前後で障害。後方突進があり、支えないと転倒していた。

・改訂長谷川式簡易知能評価スケール:22/30点(数字逆唱は3桁のみ正答、3単語の遅延再生はヒントで2つのみ正答、5つの物品記銘で4つ正答、野菜の名前列挙は8個)

・10時10分の時計描画テスト:中心から10時と11時に向かって矢印の針を2本描き、文字盤の数字は10時の位置に「10」と書いただけで終了。

・小字症(字を書いているとだんだん小さくなる症状):陽性。

 

これらの結果から認知症を伴うパーキンソン病(PDD)が疑われたため、頭部MRI検査と脳血流シンチ検査(SPECT)、MIBG心筋シンチ検査(パーキンソン病レビー小体型認知症などで陽性になる)、DATスキャン検査(パーキンソン病レビー小体型認知症、大脳皮質基底核症候群、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症などで陽性になる)を実施しました。

すると以下のような結果になりました。

・頭部MRI検査:両側海馬の萎縮。

・脳SPECT検査:両側後部帯状回の血流低下。

・MIBG心筋シンチ検査:陰性。

・DATスキャン検査:陰性。

これによりパーキンソン病関連疾患や大脳皮質基底核症候群などの神経変性疾患は否定され、問診や口頭でのテスト、各種画像検査の結果から「アルツハイマー病」の診断となりました。

 

ただアルツハイマー病では「パーキンソン症状」は出現しません。

出現するとしても、それは病状が進んだ中期以降であり、この方のように海馬の萎縮が軽度で、訂長谷川式簡易知能評価スケールの得点も22点、現在もパートで掃除の仕事を続けていることなどから判断すると、まだアルツハイマー病の初期であると考えられます。

しかし固縮や右斜め徴候、マイヤーソン徴候、小字症が陽性で、後ろに軽く押されただけで後方に転倒しかねないほどの強い姿勢反射障害があるなど、この方には明らかなパーキンソン症状があります。

その疑問を解くカギが指節運動失行テストで顕著に認められた「鏡像運動」と、問診で家族から得られた「元々強い性格で怒りっぽく、思い込んだら命がけという感じだった」という情報ではないかと思います。

つまり「鏡像運動」が認められることから元々「発達障害」の傾向があることが疑われ、そして元々の性格についてもASD(自閉症スペクトラム障害)特性を匂わせるものです。

そのため以前もお話ししたように「ASDの方はパーキンソン症状を合併しやすい」(過去記事「ASD(自閉症スペクトラム障害)とパーキンソン症状」もご参照ください。リンク先:https://kotobukireha.hatenablog.com/entry/2019/12/20/055912)ので、この方が合併しているパーキンソン症状はASD由来のものではないかと考えられました。

 

治療としては、アルツハイマー病の初期であることから、アルツハイマー病の治療薬の1つで脳の血流を上げる効果もある「リバスチグミン」4.5mgを1日1枚と「すごいイビキがある」ということから睡眠の質を上げる効果のある「抑肝散」2.5gを就寝前に処方しました。

睡眠の質を上げると日中の覚醒度も上がりやすくなるとともに睡眠中にドーパミンが補充されやすくなり、パーキンソン症状の改善も期待できるからです。

また「リバスチグミン」で脳全体の血流が上がると心身ともに活動がスムースになり、これによってもパーキンソン症状の改善が期待できます。

さらに前頭葉機能を整える効果があるサプリメントの「フェルラ酸」もお勧めしました。

すると姿勢反射障害が改善されて立位動作の安定感が増し、もの忘れ症状の改善はありませんが、少なくとも進行している様子はなく、初診から約半年たった現在もパートで掃除の仕事を続けられています。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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