前回まで「パーキンソン症状」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例を3ケースご紹介しました。
今回は「パーキンソン症状」を生じさせる疾患や原因について整理してみたいと思います。
「パーキンソン症状」は「パーキンソニズム」とも呼ばれます。
そしてパーキンソン病によく似た運動症候(パーキンソン症状・パーキンソニズム)を呈する疾患群のことを「パーキンソン症候群」と呼んでいます。
パーキンソン症状を生じさせる疾患や原因には一次性と二次性があり、パーキンソン病ではない神経変性疾患でパーキンソン症状が生じるものを一次性パーキンソン症候群、別の原因疾患によって二次的にパーキンソン症状が生ずるものを二次性パーキンソン症候群として分類することがあります。
以下がその一覧になりますが、パーキンソン症状を生じさせる疾患・原因は非常にたくさんあります。
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【一次性,二次性にパーキンソニズムを生じる疾患・原因】
一次性パーキンソニズム(変性疾患)
1.Parkinson病
2.びまん性Lewy小体病
3.多系統萎縮症(線条体黒質変性症,オリーブ橋小脳変性症の一部,Shy-Drager症候群の一部)
4.進行性核上性麻痺
5.大脳皮質基底核萎縮症
7.parkinsonism-dementia complex of Guam
8.Alzheimer病の一部
9.固縮型Huntington病
10.Hallervorden-Spatz病
11.その他
二次性パーキンソニズム
12.脳血管障害性パーキンソニズム
lacunar state
Binswanger型白質脳症
13.薬剤性パーキンソニズム
ブチロフェノン系(ハロペリドール,モペロンほか)
ベンザミド系(スルピリド,チアプリド,クレボプラミド,メトクロプラミド)
非定型的抗精神病薬(オランザピン,リスペリドン,ペロスピロン,アリピプラゾール,クエチアピン,ピモジドほか)
選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)(フルボキサチン,パロキセチン)
セロトニン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬(SNRI)(ルミナシプラン)
14.外傷性パーキンソニズム
16.マンガン中毒症
17.MPTP(1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropy-ridin)誘発性パーキンソニズム
18.一酸化炭素中毒
19.腫瘍性パーキンソニズム
20.正常圧水頭症
21.Creutzfeldt-Jacob病
22.その他
(厚生省特定疾患神経変性疾患調査研究班1995年度研究白書による)
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これはひと昔前の疾患分類に基づく病名も含まれいるため、現在のものとは一部異なりますが、それでもパーキンソン症状を生じさせる疾患や原因が多岐にわたっていることが分かると思います。
これらの中でも臨床的によく遭遇する疾患・原因としては、脳血管性パーキンソニズム、薬剤性パーキンソニズム、大脳皮質基底核症候群、進行性核上性麻痺そして前回までにお話ししたASD(自閉症スペクトラム障害)などが挙げられます。
特に薬の副作用で生じる薬剤性パーキンソニズムは最も遭遇するものであり、投薬治療においてはいかに薬剤性パーキンソニズムを生じさせないようにするかが常に大きな課題になっています。
また脳血管性パーキンソニズムや大脳皮質基底核症候群、進行性核上性麻痺などは認知機能の低下を合併しやすい認知症疾患でもありますし、ASDは加齢とともに認知症へ移行するリスクが高い気質なので認知症診療の中では日常的に経験しています。
さて一口に「パーキンソン症状」と言っても、以前お話ししたようにその症状は非常に多彩です。
「パーキンソン症状」について詳しくは過去記事「②パーキンソニズム(パーキンソン症状)がある【認知症チェックリスト】(前)(中)(後)」(「認知症とパーキンソニズム」記事一覧リンク先:https://kotobukireha.hatenablog.com/archive/category/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E3%81%A8%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0)も是非ご参照ください。
このように多彩なパーキンソン症状ですが、疾患や原因によって典型的な特徴があったりしますので、ここではそれらをいくつかご紹介します。
まず脳血管性パーキンソニズムについてですが、これは陳旧性の多発性微小脳梗塞などが原因で起こります。
特に大脳基底核に細かい梗塞巣が散在していたり虚血性変化があると出現しやすくなります。
特徴的な脳血管性パーキンソニズムとしては両足を左右に開いたワイドベースでの立位姿勢や小刻み歩行が挙げられます。
前後のバランスが悪い(姿勢反射障害)方が多く、歩行時にはワイドベースになって左右への重心移動がスムースに行えないために、足がなかなか前に出せないすくみ足やチョコチョコとした小刻み歩行になりやすいのです。
一方パーキンソン病でよく観察される小刻み歩行は、左右の足の幅が広がっておらず、やや膝を曲げた中腰姿勢のまま、お能の歩きのようにすり足で頭の上下動が少ないのが特徴なので、同じ小刻み歩行でも歩容が大きく異なっています。
次に大脳皮質基底核症候群(CBS)で観察されるパーキンソン症状ですが、何よりも症状の「左右差が大きい」というのが特徴になります。
どちらか一方の手足に症状が強く出ており、脳血管障害がないのにも関わらず、あたかも片麻痺のように一方の手足が硬く強張っていたり、自分の意志に反して変な動きをしたり(不随意運動・他人の手徴候)、震えたり(安静時振戦)していることがあります。
またパーキンソン症状ではありませんが、手指の模倣ができなかったりや道具をうまく使えなかったりする「失行」があったり、後ろで両手を組んでもらうと他人の手を掴んでいるような感じがする「エイリアンハンド徴候」があったりもします。
さらに進行とともに認知機能の低下が認められることが多く、CBSは前頭側頭葉変性症(FTLD)に分類されています。
そのことに関連していると思われますが、元々ASD(自閉症スペクトラム障害)気質がある方が多い印象もあります。
次に進行性核上性麻痺(PSP)で観察されるパーキンソン症状ですが、特徴的なのは「姿勢反射障害が強い」ということでしょう。
そのためバランスが悪く「転倒を繰り返している」というエピソードがあれば疑われます。
またタイプにもよりますが球麻痺症状によって嚥下機能の低下(飲み込みが悪くなってムセやすくなる)が出てくることも少なくありません。
首周りの固縮が強く、首の動きが悪くなっている方もいます。
またパーキンソン症状ではありませんが、核上性麻痺によって眼球の上下転運動が障害されていることも典型的な症状になります。
さらにPSPも進行とともに認知機能の低下が認められることが多く、CBS同様に前頭側頭葉変性症(FTLD)に分類されています。
そしてやはり元々ASD気質を有している方が多い印象があります。
最後にASDで観察されるパーキンソン症状ですが、しっかり観察しないと気づかれないほど軽微な場合が多いです。
よく経験するのは、歩行時にどちらかの手振りが小さくなっていたりして、そちら側の手首固化徴候を増強法を使って調べると軽微な固縮が認められたリします。
またすり足だったり、特徴的な歩き方をする方も少なくありません。
さらに表情の変化が乏しくて瞬目も少なく、目がギョロっとしているような「仮面様顔貌」が認められることもあります。
また話し声が小さくて抑揚が乏しくなっている方もいます。
以上になりますが、診療場面ではこのようなパーキンソン症状の特徴を見極めながら、ある程度診断に目星をつけて必要な画像検査などを行っていきます。
次回は、今回あまり触れられなかった薬剤性パーキンソニズムについてお話ししようと思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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