認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症治療と薬剤性パーキンソニズム

前回は、薬の副作用で生じる薬剤性パーキンソニズムは頻繁に遭遇するものであり、投薬治療においてはいかに薬剤性パーキンソニズムを生じさせないようにするかが常に大きな課題になっているというお話をしました。

今回は「認知症治療と薬剤性パーキンソニズム」についてお話しします。

 

薬の副作用としてパーキンソン症状が現れるものを薬剤性パーキンソニズムと言います。

実は薬剤性パーキンソニズムを引き起こす薬はたくさんあります。

主要なものとしては降圧剤、向精神薬抗うつ剤、抗認知症薬、消化器系薬剤などがありますが、これらにはドーパミン拮抗作用があります。

パーキンソン病神経伝達物質ドーパミンの作用が低下することで発症しますが、これらの薬剤が持つドーパミン拮抗作用によってドーパミンの作用が弱められることでパーキンソン症状が生じてしまうのです。

そのため、もし処方薬の内服によってこれらの症状が出現してきた場合には薬を一旦中止し、すぐに主治医や薬剤師に連絡するよう定められています。

 

出現しやすい具体的なパーキンソン症状としては「動作が遅くなった(動作緩慢)」、「手足が固くなった(固縮)」、「手が震えるようになった(安静時振戦)」、「歩幅が狭くなった・すり足になった(小刻み歩行)」、「一歩目が出なくなった(すくみ足)」、「ふらつくようになった・転びやすくなった(姿勢反射障害)」、「声が小さくなった(小声症)」、「表情が少なくなった(仮面様顔貌)」、「ムセやすくなった(嚥下機能低下)」などがあります。

(詳しくはこちらの記事もご参照ください。→「認知症とパーキンソニズム」記事一覧のリンク先:

https://kotobukireha.hatenablog.com/archive/category/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E3%81%A8%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0

 

認知症治療によく使われる向精神薬や抗認知症薬の中には、薬剤性パーキンソニズムを生じさせてしまうようなものが少なくありません。

そのため認知症治療を進めていく上では、認知症症状の軽減を目指しながら、いかに薬剤性パーキンソニズムを出現させないようにするかが大きな課題になっています。

なぜなら薬剤性パーキンソニズムによって患者さんのADL(日常生活活動)能力を低下させてしまいかねず、さらには「転倒」や「誤嚥」によってQOL(人生の質・生きがい)や生命予後(寿命)までも大きく左右しかねないからです。

怖い話ですが、実際に薬剤性パーキンソニズムによって歩行バランスが悪くなって転倒し、大腿骨頚部骨折で入院したことがきっかけでさらに認知症が進行してしまい、寝たきりになったというケースが少なくないのです。

また薬剤性パーキンソニズムによって嚥下機能が低下し、誤嚥性肺炎を起こして入院したら、禁食になって胃ろう造設となり、寝たきりになってしまったというケースもありました。

認知症の治療をしたらかえって悪くなってしまったというのですから元も子もありません。

したがって、投薬治療を進めていく上で薬剤性パーキンソニズムを起こさないようにするのと同時に、その兆候があったらできるだけ早く察知して適切な対応をとるということが非常に大事になるのですが、実際は医療従事者でも見落としてしまうことが少なくありません。

 

一般的に認知症の投薬治療においては「精神症状を抑える薬を使うと身体の動きが悪くなり、身体症状を改善させる薬を使うと精神症状が悪くなる」という傾向があります。

以前もお話ししたことがありますが、認知症治療に用いる薬の「薬効」は、精神症状と身体症状においては完全に「シーソー関係」にあるのです。

つまり精神症状を抑える薬を使うと薬剤性パーキンソニズムを起こしやすいということです。

そのため特に認知症治療においては、使用した薬の効能と副作用を注意深く見極めながら薬の微調整を行っていかなくてはなりません。

そして薬の微調節をしていく上で目安になるのが、精神面の変化はもちろん、動作的にはパーキンソン症状がどのように変化したかということになるのです。

 

ただ認知症の投薬治療においてはさらにやっかいなことがあります。

それは認知症患者さんの多くが「薬の過敏性」を持っているということです。

「薬の過敏性がある」というのは、それぞれの薬には必ず常用量というものが定められていますが、その常用量では「効きすぎて」しまったり、かえって「副作用の方が大きく出やすい」ということです。

そのため認知症の方に対して投薬治療を開始する際は、薬によっては「常用量よりもずっと少ない量(薬によっては常用量の1/10くらい)」から開始し、経過を見ながら微調節を重ねていくことがほどんどなのです。

そうでないと薬剤性パーキンソニズムや不穏、不眠、過鎮静になるといった副作用が出現しやすく、一旦そのような状態になると引き戻すまでに時間がかかったり、場合によっては改善しないこともあるのです。

そのため特に「薬の過敏性」が強い症例の場合には、薬によっては1mg単位で調整するなど細心の注意を払いながら微調節しています。

 

ちなみに「薬の過敏性」がある疾患としては「レビー小体型認知症」が有名ですが、前述したように実はその他の認知症疾患でも薬に過敏な方が非常に多くいらっしゃいます。

それは「そもそも認知症に移行しやすいASD自閉症スペクトラム障害)やADHD注意欠陥多動性障害)気質を有する人は薬剤過敏性を持っていることが多い」からだと思われます。

そのため認知症の投薬治療を開始する際は、患者さんに「薬の過敏性がある」ことを前提にして処方を行わざるを得ないのです。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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