認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症治療薬の副作用について

前回は認知症治療によく使われる向精神薬認知症治療薬の中には、薬剤性パーキンソニズムを生じさせてしまうようなものが少なくないというお話をしました。

そこで今回は認知症治療に多用されている抗認知症薬の副作用についてお話ししたいと思います。

 

現在、日本では認知症治療薬としてドネペジル塩酸塩(アリセプト等)、ガランタミン臭化水素酸塩(レミニール)、リバスチグミンパッチ(イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)、メマンチン塩酸塩(メマリー)の4種類の薬が処方箋薬として認可されています。

適応疾患としては4つとも「アルツハイマー認知症」であり、ドネペジル塩酸塩のみ「レビー小体型認知症」にも適応が拡げられましたが、その他の認知症疾患については有効性が認められていないとされています。

そのため「アルツハイマー認知症」などとしっかり診断を受けた場合にのみ処方される薬になります。

この4種類の認知症治療薬は作用機序が異なるため、病期や症状に合わせて適切に使用すれば認知症症状の進行を一定期間遅らせたり、症状を改善させることが可能です。

ただやはり「薬」ですので、どうしても副作用があります。

特にこれらの認知症治療薬の副作用には看過できないものが多く、その副作用のためにかえって症状が悪化してしまったというケースも少なからず経験しています。

以下にそれぞれの薬の副作用について整理してみます。

 

まずは認知症治療薬として一番有名なドネペジル塩酸塩の副作用についてです。

出現する主な副作用としては(1)消化器症状(2)循環器症状(3)精神症状(4)パーキンソン症状の4つが挙げられます。

ドネペジル塩酸塩は神経伝達物資の働きを抑制するアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるため、コリン系神経に作用する性質があります。

そしてこのコリン作動性作用によって様々な副作用が起こると考えられています。

コリン作動性作用があると胃酸分泌や消化管運動を促進させたり、迷走神経を刺激して徐脈や不整脈を起こしたり、精神神経系の活動を亢進させて興奮しやすくさせたり、線条体のコリン系神経を亢進させてパーキンソン症状を引き起こしたりするのです。

出現する具体的な症状は以下のようなものになります。

(1)消化器症状で多いのは吐き気や嘔吐、食欲低下、下痢などです。

(2)循環器症状では徐脈や不整脈心不全の症状を出現させることがあります。怖い話ですが、過去にはドネペジル塩酸塩の副作用であることが分からずにペースメーカーの植込み術をされてしまった方がいらっしゃいました。

(3)精神症状としては易怒性、攻撃性、暴言、興奮などが報告されています。実際にドネペジル塩酸塩のために不機嫌で怒りっぽくなっており、薬を減量・中止するだけで穏やかになる症例を数多く経験しています。

(4)パーキンソン症状も出現しやすいです。ドネペジル塩酸塩を長期内服しており、表情が乏しく、歩行がすり足でバランスも悪くなっているような方が薬を減量・中止するだけで、表情がはっきりして動作も素早くなった症例を数多く経験しています。

前回もお話ししましたが、多くの認知症患者さんが「薬の過敏性」を有しています。

そのため当院で患者さんにドネペジル塩酸塩を使用する場合には、定められた常用量通りに処方することはまずありません。

「薬の過敏性」のある方にそのような量を処方してしまったら、上記のような副作用が高い確率で出現してしまうからです。

したがって、その方の病期や症状、体質に合った量(100人いたら100通り!)というものがあるので、それを探りながら投薬量を微調整していくことになります。

 

次のガランタミン臭化水素酸塩の副作用についてですが、ドネペジル塩酸塩と同じくコリン作動性作用を有しており、出現しやすい副作用も同じようなものになるため省略いたします。

 

次はリバスチグミンパッチの副作用についてです。

リバスチグミンパッチは丸い貼り薬なので、なかなか薬を内服できない患者さんにも使いやすく、脳全体の血流を上げる効果も期待できるため、当院では多くの方に使用しています。

また身体のどこかに貼ってあれさえすれば、その間ずっと経皮的に薬の成分が吸収され続けるという利点があります。

その反面、副作用で一番多いのが皮膚症状になっています。

皮膚に赤みや痒みが出たり、ひどいと真っ赤にかぶれてしまう方もいらっしゃるほどです。

皮膚症状が軽い場合は、塗り薬を使いながら何とか使用しますが、どうしてもダメな場合は内服薬のガランタミン臭化水素酸塩などへ切り替えることもあります。

ただ最近リバスチグミンのパッチ基剤をかぶれにくいものへ切り替えてくれたので、皮膚症状が出にくくなってきました。

その他の副作用についてはリバスチグミンパッチもドネペジル塩酸塩やガランタミン臭化水素酸塩と同様にコリン作動性作用を持っており、出現しやすい副作用も同じようなものになるため省略いたします。

 

最後はメマンチン塩酸塩の副作用についてです。

この薬はNMDA受容体拮抗作用により受容体内のカルシウムイオン流入を抑え、グルタミン酸受容体のひとつであるNMDA受容体の活性を抑える新しいタイプの認知症治療薬であるとされています。

副作用として多いのが活気がなくなったり、過鎮静になるというものです。

しかし一方で興奮、攻撃性を強めるといった副作用も見られます。

またパーキンソン症状を増悪させて歩行がおぼつかなくなることはもちろん、動作が緩慢になったり、無動状態になってあたかも座ったまま固まってしまったようになったり、斜め徴候(立位や座位で身体が斜めに傾いたままで修正しない)や首下がり(頭が下に垂れてしまって自分で頭を上げるのが難しい)などを引き起こすこともあります。

これはメマンチン塩酸塩の構造が抗パーキンソン薬であるアマンタジンとよく似た構造をしており、ドーパミンの作用に影響を与えるからではないかと考えられています。

 

以上になりますが、そもそも認知症治療薬は認知症症状のある方に投与されるものなので、出現している症状が果たして薬の副作用によるものなのか、認知症が進行して出現してきたのかを見分けるのが難しい場合が少なくありません。

もちろん認知症のご本人に症状の変化について確認することもなかなか難しいと思います。

そのため認知症治療薬を開始したり、増量した時には特に、周囲にいる家族や介護スタッフなどが上記のような副作用が出ていないか注意深く見守っていく必要があるのです。

そしてもし薬の副作用が疑われるような場合には、主治医に相談のうえ薬の減量・中止をして経過観察することも是非検討してみてください。

 

ちなみにフランスでは2018年に上記した4種類の認知症治療薬が医療保険の適応から外されました。

理由としては「副作用の割に効果が高くなく、薬の有用性が不十分」と判断されたからだそうです。

やはり認知症治療薬の効果は限定的であり、上記のような看過できない副作用があるからでしょう。

そのため認知症治療薬の使用にあたっては、医療者側はもちろん患者さん側からも薬の効能と副作用については慎重に見極めていかなければならないと思っています。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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