認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(1)

レビー小体型認知症認知症症状の宝庫

前回は認知症最も多いアルツハイマー認知症の診断についてお話しました。

今回からアルツハイマー認知症に次いで多いレビー小体型認知症についてお話ししていきますが、レビー小体型認知症で現れる認知症症状は実に多彩です。

いわばレビー小体型認知症認知症症状の宝庫だと言えます。

そしてこれら認知症症状は、レビー小体型認知症でない認知症疾患においても認められるものが多いため、レビー小体型認知症の症状や治療について理解することは「認知症」全体を理解するうえでとても役に立つと思われます。

そこで今回から何回かに渡ってレビー小体型認知症の診療について詳しくお話ししていこうと思います。

 

レビー小体型認知症は早期診断・治療開始が特に大事

レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodys;DLB)は日本人の小阪憲司先生による1976年以降の一連の研究報告によって国際的に知られるようになった認知症です。

レビー小体型認知症認知症疾患全体の2割ほどを占めるという報告もあるため、決して少なくない疾患なのですが、初期から幻覚や妄想といった様々な精神症状を起こすことが多く、パーキンソン症状や自律神経障害も出現しやいことから、ケアが大変になりやすい傾向があります。

そのためやっかいな症状や病状が進行してしまう前に、できるだけ早期に診断し、適切な治療が開始されることが特に重要な疾患だと言えます。

しかし実際にはちゃんと診断されていなかったり、診断されていたとしても適切な治療がなされていないというケースが少なくないのが現状です。

 

「薬剤過敏性」もあるため、きめの細かい対応が必要

レビー小体型認知症は一般的に治療やコントロールが難しい認知症疾患だと言われています。

出現する精神症状に対して様々な向精神薬認知症治療薬などを組み合わせて対応していかなければならず、また出現する症状はまさに「100人いたら100通り」であり、薬の効き具合や効きやすい薬も個人差があるため、投薬治療にあたってはきめ細かい対応が求められるからです。

さらにレビー小体型認知症に対する治療のハードルを上げているのが「薬剤過敏性」です。

レビー小体型認知症の方は「薬剤過敏性」を有していることが多く、この特性は後述する「レビー小体型認知症の診断基準」にも含まれているほどです。

「薬剤過敏性」があると、少量の薬の量で「効きすぎて」しまったり、大きな「副作用」が出てしまったりして、薬の調整については定められた常用量が全く参考にならないことも少なくありません。

もちろん「薬の過敏性」の度合にも個人差があり、度合が強い方では本当に投薬調整に苦労します。

薬によっては常用量の1/10程度から開始し、1~2mg単位で薬の量を調整していくこともあります。

「本当にこんな量で効くのだろうか?」と思うような量でも、ピタッとやっかいな症状が消えてしまったり、何らかの事情で内服を中止したら症状が再燃してしまい「やっぱり効いてたんだ!」と改めて認識させられたりするので、今だに驚かされるほどです。

 

レビー小体型認知症の診断基準

ここでレビー小体型認知症の特徴ついて整理するために、2017年に出された診断基準を以下に引用してみます。

***************************************

レビー小体型認知症(DLB)の診断基準(2017)】

 

DLBの診断には,社会的あるいは職業的機能や,通常の日常活動に支障を来す程度の進行性の認知機能低下を意味する.認知症であることが必須である.初期には持続的で著明な記憶障害は認めなくてもよいが,通常進行とともに明らかになる.注意,遂行機能,視空間認知のテストによって著明な障害がしばしばみられる.

 

1.中核的特徴(最初の3つは典型的には早期から出現し、臨床経過を通して持続する) 

・注意や明暗さの著明な変化を伴う認知の変動 

・繰り返し出現する構築された具体的な幻視 

・認知機能の低下に先行することもあるレム期睡眠行動異常症

・特発性のパーキンソニズムの以下の症状のうち1つ以上:動作緩慢,寡動静止時振戦,筋強剛 

 

2.支持的特徴

抗精神病薬に対する重篤な過敏性;姿勢の不安定性;繰り返す転倒;失神または一過性の無反応状態のエピソード;高度の自律機能障害(便秘,起立性低血圧,尿失禁など);過眠; 

嗅覚鈍麻;幻視以外の幻覚;体系化された妄想;アパシー,不安,うつ 

 

3.指標的バイオマーカー 

・SPECTまたはPETで示される基底核におけるドパミントランスポーターの取り込み低下 

・MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下 

・睡眠ポリグラフ検査による筋緊張低下を伴わないレム睡眠の確認

 

4.支持的バイオマーカー 

・CTやMRIで側頭葉内側部が比較的保たれる 

・SPECT,PETによる後頭葉の活性低下を伴う全般性の取り込み低下(FDG-PETによりcingulate island signを認めることあり) 

・脳波上における後頭部の著明な余波活動

 

Probable DLBは、以下により診断される

a.2つ以上の中核的特徴が存在する 

または

b.1つの中核的特徴が存在し,1つ以上の指標的バイオマーカーが存在する 

 

Probable DLBは指標的バイオマーカーの存在のみで診断するべきではない

Possible DLBは,以下により診断される 

a.1つの中核的特徴が存在するが,指標的バイオマーカーの証拠を伴わない 

または 

b.1つ以上の指標的バイオマーカーが存在するが,中核的特徴が存在しない 

 

DLBの診断の可能性が低い 

a.臨床像の一部または全体を説明しうる、他の身体疾患や脳血管疾患を含む脳障害の存在(ただし,これらはDLBの診断を除外せず,臨床像を説明する複数の病理を示しているかもしれない) 

b.重篤認知症の時期になって初めてパーキンソンニズムが出現した場合

 

DLBは認知症がパーキンソニズムの前か同時に出現したときに診断されるべきである.PDDは,明らかなParkinson病の経過中に起こった認知症を記載するために用いられるべきである.実際の場では,その臨床的状況に最も適した用語が用いられるべきで,Lewy小体病(Lewy Body Disease)といった総称がしばしば役立つ、DLBとPDDの区別が必要な研究では,認知症の発症がパーキンソニズム発症の1年以内の場合DLBとする”1年ルール"を用いることが推奨される.

 

(McKeith IG,Boeve BF,Dickson DW,et al.Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies:Fourth consensus report of the DLB Consortium.Neurology.2017:89:1-13.) 

***************************************

 

レビー小体型認知症で最も中核となる症状は「意識の変容」

上記の診断基準にある通り、レビー小体型認知症の中核症状として

・注意や明暗さの著明な変化を伴う認知の変動 ⇒「意識の変容」

・繰り返し出現する構築された具体的な幻視 ⇒「幻視」

・認知機能の低下に先行することもあるレム期睡眠行動異常症⇒「レム睡眠行動障害」

・特発性のパーキンソニズムの以下の症状のうち1つ以上:動作緩慢,寡動静止時振戦,筋強剛⇒「パーキンソン症状」

の4つが挙げられています。

これらの中でもレビー小体型認知症で最も中核となる症状が「意識の変容」です。

レビー小体型認知症では、「意識の変容」が「必ず」合併しているといっても過言ではありません。

「意識の変容」とは、頭がはっきりしている状態とボーッとしている状態が入れかわる症状のことを言います。

つまり日中起きているにも関わらず、覚醒度が高く保たれている状態と落ちている状態がコロコロと頻繁に入れ替わってしまうのです。

これが短いと秒単位で起こりますが、分単位や時間単位で起こることもあり、他のパーキンソン症状と併せて「日内変動」します。

もちろん日単位で変動して「日差変動」することもあります。

さらには長いと週単位で変動する場合もあり、その方によって症状の現れ方は実に様々です。

具体的な例としてよく挙げられるのが、みんなと会話をしている時に急にだまってボーっと一点を見つめて固まってしまい「ねえ、どうしたの?」と肩を叩かれたりすると「ハッと我に返る」というものです。

そんな時は意識の覚醒度が落ちていたと考えられます。

高齢の方がテレビを観ていてボーっとしており、他の人から見るとテレビを観ているのか観ていないのか分からなくなっていたり、ずっと座っているうちにうつろな目になってボーっとしてうつらうつらしていたりするのも、覚醒度が落ちて起こっていると考えられます。

一見眠そうに見えるので、眠くて傾眠状態になっているのだろうと思われがちですが、日中そのような状態が頻繁に見られる場合には「意識の変容」が起こっている可能性が高いと言えます。

 

「意識の変容」は他の認知症疾患でも頻繁に見られる

あまり知られていないと思いますが、実は「意識の変容」の症状はレビー小体型認知症に限らず、他の認知症疾患でも頻繁に出現します。

そのため「意識の変容」が見られる場合には何らかの認知症疾患が始まっている疑いがあると言えます。

ただレビー小体型認知症と他の認知症疾患で見られる「意識の変容」には若干違いがあります。

レビー小体型認知症における「意識の変容」はあたかもスイッチが切れたり入ったりするかのように、比較的はっきり起こることが多い印象があるのです。

しかし、そうはいっても「意識の変容」は周りの人からは気づかれにくいと思われます。

座って目を開いている状態のまま意識が落ちている場合や、何か作業をしている時に意識が落ちている場合も少なくないからです。

もちろん本人も気づいていないことがほとんどです。

診察中に急に会話のやり取りがチグハグになったり、発語や動作が止まってしまったりするので、私たちもこの「意識の変容」があることに気づくのですが、ただ初めから「この症状があるのかどうか」という視点で本人に接していないと見落とす可能性が高いと思われますので注意が必要です。

慣れてくれば比較的すぐに察知できるようになります。

ちなみに頻発している高齢者の自動車事故の原因の一つに、この「意識の変容」が隠れているのではないかと強く疑っています。

そのことについては過去記事「多発する高齢者の自動車事故。本当に認知症の症状はないの?(前)」「多発する高齢者の自動車事故。本当に認知症の症状はないの?(後)」もご参照ください。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

にほんブログ村 介護ブログ 認知症へ
にほんブログ村

↑↑ 応援クリックお願いいたします

f:id:kotobukireha:20190702092414j:plain