前回は、レビー小体型認知症の症状と治療にとっては「意識の変容」がまさに中核になるというお話をしました。
今回から「意識の変容」の具体的な治療方法についてお話ししようと思います。
「意識の変容」の治療について
レビー小体型認知症の治療にとって中核となる「意識の変容」の治療ですが、主要なものについて大きく分けると以下の3つのアプローチ方法があります。
①「意識の変容」そのものに対する投薬治療
②良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)
③毎日から1日おきの定期的な排便習慣の確立(便秘の治療)
それぞれについて順次お話ししていきますが、今回は①「意識の変容」そのものに対する投薬治療についてご説明します。
①「意識の変容」そのものに対する投薬治療
当院において「意識の変容」に対する治療でよく使われている薬は、
・ゾニサミド(エクセグラン®)
・アマンタジン塩酸塩(シンメトレル®)
・リバスチグミン(イクセロンパッチ®・リバスタッチ®)
・シチコリン
の4種類になります。
<ゾニサミド(エクセグラン®)>
「意識の変容」がなぜ起こるのかはまだ明らかになってはいませんが、実は「てんかん」の一種ではないかと思われるフシがあります。
特にレビー小体型認知症でよく見られる、割と覚醒度の切り替わりがはっきりしているような「意識の変容」では「てんかん」の要素が強い印象があるのです。
なぜなら、この症状の治療に抗てんかん薬であるゾニサミドの投与が著効することが多いからです。
ちなみにゾニサミドは元々抗てんかん薬ですが、てんかん発作を起こしたパーキンソン病患者さんにこの薬を投与したところ、てんかん発作が抑えられるとともにパーキンソン病症状も著明に改善されることが偶然に発見され、臨床的には抗パーキンソン病薬としても使われるようになっています。
また面白いことにゾニサミドは、日中の意識消失発作を抑えて「意識の変容」を軽減させる効果がある一方、眠気を誘発させる効果もあって作用時間も比較的長いため、就寝前に投与することが多くなっています。
そのためスムースな入眠に加えて、朝起きた後はしっかり覚醒度が保たれるという効果も期待できますので、ゾニサミドは次項でお話しする良質な睡眠を得ることと体内時計を整えるアプローチにもなるのです。
そして夜しっかり寝て日中はしっかり起きるという生活リズムの確立を促してくれます。
したがってゾニサミドは明らかな「意識の変容」が出現しやすく、睡眠障害やパーキンソン症状も合併していることが多いレビー小体型認知症にとても適した薬だと言えます。
ただレビー小体型認知症の方は「薬剤過敏性」を有していることが多いため、投与量は微量(3~5mg程度)から開始して症状の経過を見ながら調整していくことがほとんどです。
<アマンタジン塩酸塩(シンメトレル®)>
アマンタジン塩酸塩は抗パーキンソン病薬ですが、やる気・意欲にも関わるドーパミンとノルアドレナリンそして両者の働きをコントロールするセロトニンにも作用するため、意欲・自発性低下に対して効果があります。
ちなみにアマンタジン塩酸塩はもともと抗ウイルス剤として米国で開発されたものでA型インフルエンザに対して使用されていたのですが、パーキンソン病への効果が発見されたきっかけはゾニサミドと同じく偶然でした。
パーキンソン病患者さんに対してインフルエンザ治療のためにアマンタジン塩酸塩を使用したところ、パーキンソン症状にも改善が認められたのです。
このアマンタジン塩酸塩は、スイッチが切り替わるような明らかな「意識の変容」に対してではなく、全体的にボーッとして覚醒度やトーンが下がっているような場合にやはり微量(2~3mg)から使うことが多くなっています。
また投与のタイミングとしては、日中覚醒してシャキッとしてもらいたいので朝食後と昼食後に加えることが多いです。
当院でアセトアミノフェンが「意識の変容」に効果があると分かったのはごく最近のことです。
この効果は患者さんから教わりました。
腰痛があるレビー小体型認知症の方に「痛み止め」として処方したところ、日中の覚醒度が上がってシャキッとなったのです。
この方には「意識の変容」に付随してなかなか軽快しない妄想の症状がありましたが、「意識の変容」が軽快するとともにやっかいな妄想もほとんどなくなって「穏やか」になってしまいました。
「もしかしてアセトアミノフェンの効果なのでは?」と考えて「意識の変容」がある他の患者さんにも投与したところ、やはり「意識の変容」が改善されてハッキリする方が多いということが分かったのです。
「意識の変容」を改善させる作用機序は明らかではありませんが、アセトアミノフェンは血液脳関門( blood-brain barrier, BBB)を通過しやすい性質があるので、脳神経に対して何かしら作用しているのだと思われます。
またありがたいことにアセトアミノフェンは比較的副作用が少なく安全性が高い薬だと言われており、高齢者にも使いやすいという利点があります。
さらに「薬剤過敏性」にもあまり影響を受けない印象があり、常用量で使っても副作用が出たというケースは今のところ経験していません。
ただ作用時間が限られているため、日中通して覚醒度を高く保つためには、症状に合わせて朝・昼・夕食後などと分けて内服する必要があります。
またアセトアミノフェンは解熱剤でもあるため、感染症などにかかっても熱が上がらずに発見が遅れるという難点もあるかと思います。
<リバスチグミン(イクセロンパッチ®・リバスタッチ®)>
リバスチグミンコリンエステラ-ゼ阻害薬に分類されるアルツハイマー病に有効な抗認知症薬です。
神経伝達物質であるアセチルコリンを増加させて、アセチルコリン系の神経活動を高める働きをします。
また脳全体の血流を上げて覚醒度を上げる効果も期待できるため、当院では「意識の変容」のある多くの患者さんに使用しています。
ある患者さんはパッチを貼った瞬間から「意識がシャッキリする」と話されます。
貼った瞬間とは言わなくても、この薬剤が効く方では貼った数十分後には覚醒度が上がってくるようです。
このリバスチグミンは丸い貼り薬なので、なかなか薬を内服できない患者さんにも使いやすく、身体のどこかに貼ってあれさえすれば、その間ずっと経皮的に薬の成分が吸収され続けるという利点があります。
そして有効成分が皮膚からゆっくり吸収され、血中濃度が長時間一定に保たれるのですが、血中濃度の急激な上昇が抑えられるため、他の抗認知症内服薬で出やすい消化器症状(吐き気や嘔吐)の軽減が期待できる薬剤になっています。
その反面、副作用で一番多いのが使用部位の皮膚症状です。
赤くなったり、かゆくなることがよくあります。
そのため同一箇所に貼り続けずに、毎回貼る場所を変えることが大切になります。
<シチコリン>
上記の3つは内服薬でしたが、これは主に点滴静脈内注射で使用する薬になります。
適応する症状としては頭部外傷や脳手術に伴う意識障害や脳梗塞急性期意識障害で、1回~数回に分けて1日1000mgを目安に2~4週間毎日使用するとされています。
このシチコリンを「意識の変容」によって覚醒度が下がっている方に注射すると、効く方ではたちまち「覚醒」してスッキリした顔になり、言動もハッキリします。
このようにシチコリンは即効性があるというのが利点なのですが、一方で効果が長続きしないこと、「意識の変容」に対する治療で使用する場合は保険適応外なので自費になってしまうこと、注射なので医療機関で打ってもらわなければならず日常的に使用するのが難しいことなどが難点だと言えます。
当院では1回1000mgを1週間から2週間に1回使用して、覚醒度の「底上げ」を図っている方が数人いらっしゃいます。
シチコリンに対する「薬剤過敏性」についても、今までに副作用が出て問題になった方はいませんでしたので、当院では常用量の1000mgを投与量の基準にしております。
「意識の変容」そのものに対する投薬治療については以上になります。
次回は②良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)についてお話しします。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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