認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(4)

レビー小体型認知症の治療にとって中核となる「意識の変容」に対する治療についてですが、主要なアプローチ方法として

①「意識の変容」そのものに対する投薬治療

②良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)

③毎日から1日おきの定期的な排便習慣の確立(便秘の治療)

の3つがあり、前回は①「意識の変容」そのものに対する投薬治療についてお話ししました。

今回は②良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)についてお話しします。

 

②良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)

「意識の変容」に対する治療では、睡眠へのアプローチは欠かせません。

「意識の変容」が強い方は、夜間しっかり眠れていないことがほとんどだからです。

「夜は眠れています」という方でも、睡眠時の状態を確認すると決して良質な睡眠でなかったりします。

どういうことかといえば、身体は確かに横になっているので見た目は眠っているし、本人も眠っているつもりだけれども、実際は睡眠が浅くて心身ともにしっかり休息できていなかったりするのです。

例えば夜中にトイレで何回も起きたり、頻繁に夢を見たり、イビキをかいたり、寝言を言ったり、自分の声で起きてしまったり、ひどいと夜中に起き出して行動してしまうなどといったことがあります。

そのような状態では睡眠の質が落ちていると考えられ、とてもしっかり「眠れている」とは言えません。

「意識の変容」がある方では、実際にこのような良質な睡眠を妨げてしまう症状を高頻度で持っています。

そうすると夜間、脳も身体も十分に休息できないので、当然翌日の覚醒度が落ちやすくなり「意識の変容」も起こりやすくなるのです。

 

レビー小体型認知症では夢をよく見る人が多い

レビー小体型認知症では夜間よく夢を見たり、イビキや寝言があるという方が非常に多くいらっしゃいます。

夢をよく見るという場合、夢の内容が誰かに追いかけられたり、戦っていたりするなど内容が怖くて嫌なものが多いようです。

それでうなされて大声を出してしまったり、手足が動いて隣で寝ている人を叩いてしまうということもあります。

夢の内容が怖いものではない場合、夢と現実との境が分からなくなるほど、内容がはっきりしていることもあります。

それで寝ているのにまるで会話をしているようにはっきりした寝言を言ったり、起き出して実際に行動してしまう方もいらっしゃいます。

先日は「朝方、仕事の迎えの車が来ているからと言って着替えて出かけようとしてしまう」方がいらして、「夢と現実の境が分からず、まるで夢の中で夢を見ているようだ」とお話しされていたのが印象的でした。

このような一連の症状がある場合は「レム睡眠行動障害」の可能性が非常に高くなります。

レム睡眠行動障害」とは、レム睡眠中に見る夢の内容通りに大声をあげたり、身体を動かしてしまう睡眠障害のことを言います。

夢をよく見るということは、たとえ眠っていたとしても実は大脳皮質は活動していて脳が休めていない状態であり、さらに寝言を言ったり身体を動かしてしまうと、睡眠中に補充されるはずの神経伝達物質の「ドーパミン」がさらに消費されてしまいます。

レビー小体型認知症では「ドーパミン」が減ることで身体動作や思考活動などがスムースにいかなくなりますが、その量がさらに減ってしまうために「意識の変容」はもちろん全体的な症状も悪化しやすくなるのです。

したがって夢をよく見たり「レム睡眠行動障害」が疑われる場合には、まず第一に睡眠状態を改善させる治療を始めて「夜はしっかり寝てもらう」ことを目指します。

 

認知症では「イビキをかく」方がとても多い

認知症外来で問診をすると「イビキをかく」という方が非常に多いことに驚きます。

若い時からイビキをかくという方から、最近イビキをかくようになったという方までいますが、「イビキ」と「認知症の発症」には間違いなく関連性があると思われます。

さらにイビキをかくだけでなく、途中で息が止まるという方は要注意です。

「イビキ」の病気として有名な「睡眠時無呼吸症候群」が疑われ、いくら眠ったとしても日常的に心身が十分に休息できない状態が続いていると考えられるからです。

そのため「睡眠時無呼吸症候群」が疑われる場合には、すぐに専門外来を受診した方が良いと思われます。

いずれにしても「イビキ」をかく方は、睡眠が浅い状態が続いていると考えられます。

睡眠が浅い状態では当然「夢を見やすく」なりますし「レム睡眠行動障害」も誘発されやすくなると思われます。

またアルツハイマー認知症の発症に関わる「アミロイドβ」は熟睡している時に脳から排出されることが知られています。

そのため睡眠の質も量も不十分な睡眠習慣が続くと、認知症の発症リスクを高めてしまうだけでなく、認知症をすでに発症している方でも病態を進行させやすくなるとともに、翌日の覚醒度が落ちることで他の認知症の症状を引き出したり増悪させてしまうことになりかねません。

したがって「イビキ」というのは決してあなどれない症状だと言えるのです。

 

レム睡眠行動障害」があると高率で認知症に移行しやすい

ちなみに夜間よく夢を見たり、イビキや寝言を言ったり、身体を動かしてしまうといった睡眠時の症状は、レビー小体型認知症の前駆症状として知られており、レビー小体型認知症を発症する10~15年前から始まっているという場合も少なくありません。

レム睡眠行動障害」があると「αシヌクレイノパチー」と呼ばれる疾患群を高率に発症することが報告されています。

「αシヌクレイノパチー」とは脳の特定の部位にαシヌクレインというタンパクが蓄積して発病する神経変性疾患のことで、パーキンソン病レビー小体型認知症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺などが含まれます。

驚くことに「レム睡眠行動障害」があると5年間で33%、10年間で76%、14年間で91%の症例がαシヌクレイノパチーを発症し、中でもパーキンソン病レビー小体型認知症に進展する頻度が高いという報告もあるため「レム睡眠行動障害」も決して軽視できない症状なのです。

逆にいえば、夢をよく見たり「レム睡眠行動障害」が疑われるような場合は、できるだけ早い時期に治療を開始して症状を抑えることができれば、レビー小体型認知症をはじめとする「αシヌクレイノパチー」の発症を先延ばししたり、予防できるかもしれないということです。

したがってレビー小体型認知症の治療やさらに予防にとっては、睡眠へのアプローチが不可欠なのです。

 

次回は、良質な睡眠習慣を確立するための投薬治療や生活習慣へのアプローチについてお話しします。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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