認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

夜も昼も「夢」を消すのがレビー小体型認知症治療の第一歩(中) ~レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(6)~

前回から実際に睡眠障害を抱えている認知症の方や認知症の疑いのある高齢者に対し、当院ではどのような投薬治療をしているのかをお伝えしていますが、今回はその続きになります。

 

良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)のために使用している薬

前回は「意識の変容」の「元凶」である「夢」を消してくれる第一選択薬として抑肝散を使っているというお話をしました。

その他の薬については以下の通りです。

 

「ラメルテオン(ロゼレム®)」

ラメルテオンは「メラトニン受容体作動薬」に分類される新しいタイプの睡眠薬になります。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬のような古いタイプの睡眠薬は、覚醒に働いている神経活動を抑えることでいわば強制的に眠気を促していきますが、その作用の強さに比例するように看過できない副作用があるということを過去記事「『睡眠薬』を長年使用していると『認知症』になりやすくなる!?」でもお話ししました。

具体的には、覚醒度を強制的に下げる作用によって「意識の変容」やそれをベースにした他の認知症症状を増悪させてしまったり、筋弛緩作用もあることから動作が不安定になって転倒のリスクも高めてしまうということでした。

それに対してラメルテオンは、体内時計を整える「メラトニン」というホルモンに作用して自然な眠気を促す睡眠薬になります。

メラトニン」は体内の中で生理的に濃度が変動するホルモンで、夜間に増加して明け方に減少していく性質があります。

そのためラメルテオンはこの体内時計を整える「メラトニン」に作用することで、間接的に睡眠を促してくれるのです。

したがってメリットとしては、体内時計を整える効果があること、自然な眠気を強くするので依存性や副作用が少ないことが挙げられます。

一方デメリットとしては、体内時計を整える「メラトニン」を介して眠気を促すため、人によって効果が異なり入眠作用が不十分になる場合があること、体内時計を整えるまでに一定の期間を要する場合があり、効果が出るまでに日数を要する場合があることが挙げられます。

 

このような特徴のある睡眠薬ですが、レビー小体型認知症の方では「薬剤過敏性」を持ち合わせている方が多いため、常用量が8mgのところを1~2mgから開始して様子を見ていくことがほとんどになります。

「そんなに少ない量で本当に効果があるのか?」と思うのですが、実際に著効する例も少なくないので驚かされます。

最近受診されたレビー小体型認知症の患者さんは、就寝前に抑肝散とラメルテオン2mgを内服するようになったら、夜しっかり眠れるようになって朝自分から起きるようになったそうです。

そして寝起きがスッキリするとともに、それまでは起きかけに寝ぼけて変なことを言ったり、幻視が見えて騒いでいたけれどそういうことがなくなりましたとご家族が喜んでいました。

本人からも「まだ幻視は見えるけど減った。それに見えても気にしなくなった。知らん顔してる」というお話が聞かれました。

これはおそらく睡眠の質が上がって「意識の変容」が軽減したことで、寝起きでも覚醒度が高い水準で保たれやすくなり、幻視や妄想も軽減されたのではないかと思われます。

 

ちなみに治療がうまくいって幻視の症状が改善してくると、見える人や動物、虫などの数や出現する頻度が減るとともに、影が薄くなったり、それが「幻視だ」と本人が認識できるようになってきます。

ただ投薬治療によって幻視を「全部消す」ことは難しく、そこを目指そうとするとどうしても薬を増やしていかねばならず、それに伴って薬の副作用が出やすくなってしまいます。

そこで多少幻視が見えていたとしても、本人がそれを「幻視だ」と分かって「気にしない」ようになれば、治療を進めていく上でとても助かるのです。

そのためある程度「幻視」が軽減して本人が「気にならなく」なったら、幻視に対する治療の「落としどころ」を本人と相談し、それ以上「深追いしない」ことが大切になります。

本当に薬を増やしていくと「ろくなことがない」からです。

 

「スボレキサント(ベルソムラ®)」

スボレキサントは「オレキシン受容体拮抗薬」に分類される新しいタイプの睡眠薬になります。

スボレキサントはラメルテオンと同じように、睡眠と覚醒に関わる生理的な物質に働きかけることで睡眠を促す作用があります。

スボレキサントが働きかける物質は「オレキシン」になります。

オレキシン」は体内の中で生理的に濃度が変動するホルモンで、日中は増加して夜間は減少しています。

この覚醒の維持に作用する「オレキシン」の働きをスボレキサントがブロックすることで、睡眠が促されるのです。

そのためスボレキサントは「オレキシン」を介して間接的に睡眠を促す薬だと言えます。

したがってメリットとしては、自然な眠気を強くするので依存性や副作用が少ないことが挙げられます。

一方デメリットとしては、人によって効果が異なり入眠作用が不十分になる場合があること、効果が出るまでに日数を要する場合があることが挙げられます。

このようにラメルテオンと同じような特徴を持つ薬ですが、ただ当院ではスボレキサントを使う方はそれほど多くありません。

不眠や睡眠障害に対して、まずはラメルテオンで調節していくことがほとんどであり、それで調節できてしまうことが多いからです。

今のところスボレキサントを選択するのは、本人が他の睡眠薬を常用されており他の薬に切り替えていきたい時や上記の睡眠薬の効果がいまひとつの時などになります。

 

酸棗仁湯(サンソウニントウ)」

心身が疲労している人の不眠の改善によく用いられる漢方薬です。

神経症自律神経失調症による不眠の治療などで使用されます。

不眠のタイプとしては特に覚醒と睡眠のリズムが乱れて、夜間目が冴えて眠れない、夢見が多い、熟睡感がないといった症状や抑うつ、不安、焦燥感などの精神状態を伴うことで不眠になっているような場合に適しているようです。

薬に含まれる様々な成分が神経の高ぶりを鎮めて、熟睡できるようにいざなってくれる漢方薬だと言えます。

ちなみに当院では睡眠に対してはもちろん、イライラや易怒性、便秘といったその他の認知症症状に対しても漢方薬を用いることが多くなっています。

漢方薬は「薬剤過敏性」にも反応しにくいために常用量で使用できるものが多く、比較的副作用も少ないという特徴もあるので、認知症疾患のある高齢者にも使いやすいからです。

また睡眠薬の効き目には個人差が多く、実際に使ってみないと効果が分からないというのが本当のところですが、「薬剤過敏性」があって特に症状を波打たせたくないような方に対しては、副作用が少ない漢方薬は安心して試すことができるのでとても重宝しています。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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