認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

夜も昼も「夢」を消すのがレビー小体型認知症治療の第一歩(後) ~レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(7)~

今回も引き続き睡眠障害を抱えている認知症の方や認知症の疑いのある高齢者に対して、当院では実際にどのような投薬治療をしているのかについてお伝えしていきます。

 

良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)のために使用している薬

前回までに「意識の変容」の「元凶」である「夢」を消してくれる薬として抑肝散、ラメルテオン(ロゼレム®)、スボレキサント(ベルソムラ®)、酸棗仁湯(サンソウニントウ)をご紹介しました。

今回はその続きになります。

 

クロルプロマジン(ウィンタミン®、コントミン®)」

この薬は約70年前にフランスの外科医が精神科治療での効果を発見した非常に古い薬になります。

通常は統合失調症、躁病、神経症による不安・緊張・抑うつ、悪心・嘔吐、しゃっくり、催眠・鎮静・鎮痛剤の効力増強などに用いられます。

作用機序としては、脳内の神経伝達物質である主にドーパミンの受容体を遮断することで、幻覚や妄想、概念の統合障害、躁状態、強い不安感や緊張感などを安定させたり、悪心・嘔吐を改善させるとされています。

ただその他にもいわゆる「前頭葉の機能を整える」作用があります。

前頭葉には脳の他の部位が勝手に暴走して働かないように、抑制してコントロールする機能があります。

そのため前頭葉の抑制がとれてしまうと、色々なことを我慢して理性的にふるまうことが難しくなり、怒りっぽくなったり、他人のことなど関係なく自分勝手な言動を繰り返すようになったりするので、周りにいる人たちは本当に困ってしまいます。

クロルプロマジンは幻覚や妄想、不安感などに加えてこのような前頭葉症状も軽減してくれるので、当院の認知症治療においては欠かせない中核薬の1つにもなっているほどです。

 

一方、この薬の主な副作用としてはパーキンソン症状や口渇、鼻閉、便秘、倦怠感などがあります。

ただ精神科領域において用いる場合の常用量としては、通常1日50〜450mgであるのに対して当院では就寝前に2mg程度から開始し、経過を見ながら2mg単位で微調節していくことがほとんどですので上記のような副作用が大きく出ることは少ないのですが、出たとしても初期の段階ですぐに対応することができます。

他の薬と同じなのですが、微量で開始して薬効のメリットとデメリットを見極めながら投薬量を微調節し「ちょうどいい」加減を見つけていくわけです。

認知症治療においては、特にレビー小体型認知症の方が持ち合わせていやすい「薬の過敏性」を常に念頭に置き、注意深く症状の変化を見極めながら少量で開始した薬の微調節を重ねていく、というのが非常に大切になります。

 

また、この薬はその方に適量以上投与すると、筋肉のこわばりや小刻み歩行、バランス不良などのいわゆるパーキンソン症状を出しやすいのですが、少量投与では逆にパーキンソン症状を改善させてしまうことも少なくありません。

パーキンソン症状は脳の「大脳基底核」という部位がうまく機能しないと出現しやすいことが分かっていますが、実はこの大脳基底核は大脳皮質の特に前頭葉に制御されており(大脳皮質—大脳基底核ループ)、前頭葉の機能が落ちると大脳基底核の働きにも影響が出てパーキンソン症状を出現させると考えられています。

クロルプロマジンには前頭葉の機能を整える作用があることについては前述した通りですので、前頭葉の機能低下によって出現していたパーキンソン症状については、この薬の投与によって改善しているものと考えています。

 

前置きが長くなってしまいましたが、この薬には催眠・鎮静・鎮痛剤の効力増強というものがあります。

つまり就寝前に内服することで眠気を促す作用もあるのです。

したがって上記のような効果を期待するとともに、レビー小体型認知症では特に睡眠時に様々な症状を合併していることが多いので、睡眠の質を改善させる目的でもこの薬を使用することが多いのです。

そのため、もちろん認知症の症状に応じて朝・昼食後などの日中に使用してもらうこともありますが、基本的に就寝前の使用から開始する場合がほとんどになっています。

 

「ゾニサミド(エクセグラン®)」

「意識の変容」がなぜ起こるのかはまだ明らかになってはいませんが、実は「てんかん」の一種ではないかと思われるフシがあります。

特にレビー小体型認知症でよく見られる、割と覚醒度の切り替わりがはっきりしているような「意識の変容」では「てんかん」の要素が強い印象があるのです。

なぜなら、この症状の治療に抗てんかん薬であるゾニサミドの投与が著効することが多いからです。

ちなみにゾニサミドは元々抗てんかん薬ですが、てんかん発作を起こしたパーキンソン病患者さんにこの薬を投与したところ、てんかん発作が抑えられるとともにパーキンソン病症状も著明に改善されることが偶然に発見され、臨床的には抗パーキンソン病薬としても使われるようになっています。

また面白いことにゾニサミドは、日中の意識消失発作を抑えて「意識の変容」を軽減させる効果がある一方、眠気を誘発させる効果もあって作用時間も比較的長いため、就寝前に投与することが多くなっています。

そのためスムースな入眠に加えて、朝起きた後はしっかり覚醒度が保たれるという効果も期待できますので、ゾニサミドは次項でお話しする良質な睡眠を得ることと体内時計を整えるアプローチにもなるのです。

そして夜しっかり寝て日中はしっかり起きるという生活リズムの確立を促してくれます。

したがってゾニサミドは明らかな「意識の変容」が出現しやすく、睡眠障害やパーキンソン症状も合併していることが多いレビー小体型認知症にとても適した薬だと言えます。

ただレビー小体型認知症の方は「薬剤過敏性」を有していることが多いため、投与量は微量(2~5mg程度)から開始して症状の経過を見ながら投薬量を微調節していく場合がほとんどになっています。

 

「クロナゼパム(リボトリール®、ランドセン®)」

クロナゼパムもゾニサミドと同じく抗てんかん薬ですが、精神・神経系の病気にも応用されています。

この薬には脳神経の興奮を抑えることで、てんかん発作(けいれん、意識消失など)を起こりにくくする作用があるのですが、同時に精神・神経系の興奮による症状も抑えてくれます。

例えば、精神運動発作や自律神経発作、不随意運動(自分の意志とは関係ない身体の動きや震え)、ムズムズ脚症候群(脚がムズムズして不快な感じあり動かさずにいられない症状で夜間に出やすい)、不安神経症パニック障害なども含めた不安障害、躁病やうつ病、さらに鎮痛補助薬として神経痛などの治療に使用されることもあります。

またクロナゼパムは、原因がないのに不眠となる「原発性不眠」ではなく、何らかの原因によって不眠が引き起こされる「二次性不眠」に対して効果があるとされています。

つまり「二次性不眠」は原因となる症状を軽減させれば、不眠を改善できるということになります。

そのためクロナゼパムには神経の興奮を抑えて神経痛やしびれ、強い不安、不随意運動、レム睡眠行動障害などを改善させる作用があるので、それらが併発しているような睡眠障害に対して効果が期待できるのです。

当院ではこれらの睡眠時の症状に対してまずは抑肝散を使用していますが、それでも改善が難しい場合はクロナゼパムの使用を開始します。

ただ使用を開始する量としては、やはり「薬剤過敏性」があることを念頭に置き、1日の常用量は2~6mgですが、当院では0.1mgから開始する場合がほとんどです。

副作用としては眠気、倦怠感、頭痛、集中力低下、体重変動、いらいら、ふらつき、脱力感、失禁などが挙げられており、症状の経過を見ながら投薬量を微調節していきます。

 

当院で良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)のために使用している薬は以上になります。

ただ薬を使う前に生活習慣の改善によって、良質な睡眠習慣を持つことができる場合もあります。

本来であれば薬を使う前に取り組んでほしいのが生活習慣の改善になりますので、次回からは良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)のためにはどのような生活習慣が望ましいのかについてお話しします。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

にほんブログ村 介護ブログ 認知症へ
にほんブログ村

↑↑ 応援クリックお願いいたします

f:id:kotobukireha:20190702092414j:plain