認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

便秘になるとボーっとなって認知症症状が悪化する(前) ~レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(9)~

前回までは「『睡眠不足』は『認知症』への第一歩!」と題して、認知症をはじめとする生活習慣病の予防にとっては、いかに「睡眠習慣」が大事であるかについてお話ししました。

今回からはまた「レビー小体型認知症を知れば『認知症』が理解しやすくなる」のお話に戻ります。

 

レビー小体型認知症の治療にとって中核となる「意識の変容」に対する治療の主要なアプローチ方法としては

①「意識の変容」そのものに対する投薬治療

②良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)

③毎日から1日おきの定期的な排便習慣の確立(便秘の治療)

の3つがあり、②良質な睡眠習慣の確立(睡眠障害の治療)まではお話ししました。

今回から③毎日から1日おきの定期的な排便習慣の確立(便秘の治療)についてお話しします。

 

「便秘」が「認知症」を悪化させる!?

「便秘」は「認知症」の方に合併することが非常に多い症状になります。

中でも「レビー小体型認知症」では「自律神経障害」が合併しやすく、その最たるものが「便秘」になっています。

実際に「レビー小体型認知症」では「もう1週間も便通がない」という方が珍しくありません。

やっかいなのは「便秘」があって3~4日も便が出ていなかったりすると、途端に動作や頭の回転が鈍くなり、ボーっとしたり、幻覚や妄想、易怒性などの困った症状が前景化しやすくなることです。

 

「便秘」になって「腸内細菌」がうまく調和して働けなくなると、人間の活動にとって大切な「ホルモン」や「短鎖脂肪酸」などが十分に生成されにくくなり、そのために身体的・精神的活動がスムースにいかなくなります。

さらに「便秘」によって腸内がいわゆる「悪玉菌」優位の状態になると、「腸管」や「血液脳関門」に隙間ができる「リーキーガット(腸管壁浸漏)」や「リーキーブレイン(血液脳関門浸漏)」が起こりやすくなります。

すると「悪玉菌」が作り出す物質や「未消化の食物」といった「有害物質」が、「リーキーガット」があるために「腸管」から漏れて血管内に侵入し、それが血流に乗って「血液脳関門」まで到達します。

しかし本来であれば「有害物質」は頑丈な「血液脳関門」を通ることができないのですが、「リーキーブレイン」があると「血液脳関門」を通り抜けて脳内に到達してしまうのです。

そしてこれらの「有害物質」が直接的に脳の炎症を引き起こし、そのために一層身体的・精神的活動が妨げられるのではないかと考えられています。

その他にも様々な要因が考えられるのですが、いずれにしても私どもは認知症患者さんが「便秘」になると、バランスや歩行・立位動作などにおいていわゆる「パーキンソン症状」が悪化したり、幻覚や妄想が悪化したり、怒りやすくなって不穏になったりなど、身体的・精神的な症状が一気に悪化するのを実際に何度も経験しています。

さらに、そういった方が毎日もしくは少なくとも2日に1度程度、お通じが出るようになって「便秘」が解消されると、それだけでボーっとしがちだった意識がはっきりしたり、不安定で緩慢だった動作が素早くなったり、妄想や幻覚・易怒性などの困った症状が改善されたりといったことをたびたび経験しているのです。

したがって「便秘」は間違いなく認知症の症状を悪化させるものであり、特に「意識の変容」を悪化させる主要な要因の一つであると確信しています。

 

「便秘」の治療が最優先

認知症」になってから「便秘」になったという方もいますが、圧倒的に「もともと便秘気味だった」という方が多くなっています。

「便秘」が「認知症」を引き起こす要因になっているのか、「認知症」になると「便秘」になりやすくなるのかは「定か」ではありませんが、臨床経験的には「どちらも正しい」と言えます。

そもそも「便秘」とは、日本内科学会の定義によると「3日以上出ない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」とされています。

1日1回、朝食後に便通があるのが理想的ですが、2日に1回でもしっかり排便していれば「便秘」とは言いませんし、毎日排便があっても、便が出にくかったり、量が少なすぎれば「便秘」と言えます。

実は「便秘」は「自律神経障害」の1つであり、「自律神経障害」は「パーキンソン症状」の1つになります。

レビー小体型認知症」に限らず「認知症」になると「便秘」になりやすくなるのは、認知症を伴う神経変性疾患の多くが初期から「自律神経障害」や「パーキンソン症状」を合併するからだと言えます。

特に「パーキンソン病」や「レビー小体型認知症」は「パーキンソン症状」と「自律神経障害」が高頻度で出現するため「便秘」になりやすいのです。

「パーキンソン症状」で歩行時に足が出なくなる「すくみ足」のように「腸もすくんでしまう」のです。

そして「便秘」になると、さらに身体的・精神的ともに「パーキンソン症状」が悪化してしまうというわけです。

そのため「レビー小体型認知症」の治療においては「便秘の治療」が「睡眠の治療」と同様に最優先されるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

にほんブログ村 介護ブログ 認知症へ
にほんブログ村

↑↑ 応援クリックお願いいたします

f:id:kotobukireha:20190702092414j:plain