認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

便秘になるとボーっとなって認知症症状が悪化する(後) ~レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(10)~

前回から、レビー小体型認知症の治療にとって中核となる「意識の変容」に対する治療の主要なアプローチ方法として③毎日から1日おきの定期的な排便習慣の確立(便秘の治療)についてお話ししていますが、今回はその続きになります。

 

2日出なかったら「イエローカード」、3日出なかったら「レッドカード」

繰り返しになりますが、「便秘」は間違いなく認知症の症状やパーキンソン症状を悪化させるものであり、特に「意識の変容」を悪化させる大きな要因になるため、「レビー小体型認知症」の治療においては「便秘の治療」が最優先されます。

そのため治療においては適切な排便コントロールが不可欠になるのですが、実際どの位の頻度で便通があれば良いのでしょうか。

当院では、本来であれば「定期的に毎日、少なくとも2日に1回」一定量の便通があるのが望ましいとお話ししています。

そのことを本人とご家族へ分かりやすく伝えるため、特に「2日出なかったらイエローカード、3日出なかったらレッドカード」と指導したりもしています。

2~3日以上便通がないと、認知症の症状やパーキンソン症状が明らかに悪化してしまうからです。

 

そのためにはまず現状の排便量や形状、頻度などについて確認していかなくてはなりませんが、その確認と報告が本人にとって難しいということも少なくありません。

そんな場合には、ご家族や介護・医療スタッフなどの協力を得て、しっかり便通の状況を把握できるように努めます。

それでもし便秘傾向があることが分かったら、すぐに便秘薬を使ってでも定期的な排便を目指してもらいます。

ただ便秘薬については、いくつか種類がある中でどの薬が効きやすいのか、どの位の量が適しているのかなどについては、使ってみないと分からないというのが実際のところです。

そのためやはり必要に応じてご家族や介護スタッフの協力も得て、内服と便通の状況を確認しながら、内服量や薬の変更を検討するなど、便通の経過を見ながら本人に適した便秘薬や分量を探っていくことになります。

ただ毎日から少なくとも2日に1度の便通を目指していきたいので、主治医の指示のもと臨機応変に本人やご家族に便秘薬の調節をお願いすることも頻繁に行っています。

そして最悪3日便通がなかったら、できればすぐに「浣腸」するようお願いしています。

ちなみに便秘薬については2~3日排便がなかったら利用するのではなく、できれば毎日決まった量を内服していくことを目指します。

あくまで毎日から隔日での排便習慣を目指したいからです。

 

また排便量についてもしっかり確認するようにしています。

10年以上前になりますが、パーキンソン病で通院されている方が、便通についてはいつも「出ている」というのでそれを信用していたところ、イレウスを起こして人工肛門を造設することになってしまったことがありました。

実際のところ毎日もしくは1日おきに便は「出ていた」そうなのですが、毎回量が「ちょっと」しか出ておらず、それがどんどん溜って腸が塞がりイレウスになってしまったのです。

その失敗以来、患者さんには便通の頻度だけでなく排便量についてもしっかり確認するようにしています。

 

好ましい便の性状と量は?

便の性状についても、たとえ下痢であってもとにかく排便させることを優先さます。

「便秘」でいるよりは下痢でも排便する方が、はるかに身体的・精神的に好ましいと言えるからです。

とは言っても下痢になると本人もつらいですし、介護が必要な場合では負担がとても大きくなってしまいます。

ではどのような性状の便が好ましいと言えるのでしょうか。

便の状態を判断する基準として医療場面で広く使用されているものに「ブリストルスケール」というものがあります。

これは1997年に英国ブリストル大学の ヒートン教授によって発表されたスケールで、便の形状・色・大きさなどによって便の性状が7段階に分けられています。

消化器管の通過時間が長い方から始まって「1」から「7」段階まで分けられており、「1」が非常に遅くて約100時間、「7」が非常に早くて約10時間とされており、「1」~「2」が便秘傾向、「3」~「5」が正常な便、「6」~「7」が下痢傾向とされています。

以下が「ブリストルスケール」の「1」~「7」までの便の性状になります。

 

ブリストルスケール>

1:コロコロ便:硬くてコロコロのウサギのような便

2:硬い便:ソーセージ状であるが硬い便

3:やや硬い便:表面にひび割れのあるソーセージ状の便

4:正常便:表面が滑らかで軟らかいソーセージ状・蛇のようなとぐろを巻く便

5:やや軟らかい便:はっきりとしたしわのある軟らかい半分固形の便

6:泥状便:境界がほぐれて、ふにゃふにゃで不定型の便

7:水様便:水っぽく、固形物をあまり含まない液体状の便

 

このスケールでいうと「3」~「5」の性状の便が好ましいと言えます。

便の硬さは、主に便に含まれる水分量と消化器を通過する時間によって変わりますので、摂取する食べ物や水分量、消化器の蠕動運動の状態によって変化することになります。

また便の量については、1日1回の排便だとすると、1回に150~200g(バナナ1.5本~2本分ぐらい)の量が目安になるそうです。

便の量についても、便の原料となる食物繊維が、摂取する食べ物にどれだけ含まれるかによって変わってきますので、食事習慣が大きく関わってくると言えます。

 

排便習慣と便の性状を整える便秘薬と生活習慣

ちなみに便秘薬には「緩下剤」と「刺激性下剤」があります。

「緩下剤」には酸化マグネシウムがあり、大腸における水分の吸収を抑制して便に含まれる水分量を増やし、便を軟らかくする作用があります。

「刺激性下剤」にはセンナやダイオウ、ピコスルファートナトリウム、ビサコジルなどがあり、大腸の蠕動運動を促進させて便が消化管を通過する時間を短くし、便を軟らかくするとともに排泄を促す作用があります。

これらを使い分けて毎日から隔日での排便を目指すとともに便の性状を整えていくのです。

 

また便秘薬に頼る前にもできることはたくさんあります。

食事はもちろん、生活リズムや普段の姿勢、運動などの生活習慣によって便通は大きく影響を受けるからです。

食事では、まず便の材料となるとともに腸の蠕動運動を促す食物繊維が多い食品を摂るよう心掛けます。

毎日決まった時間に食事を摂ったり、身体を動かしたり、就寝することも大切になります。

そうすることで身体のリズムができて排便のリズムも整ってくることが多いからです。

特に朝は排便しやすい時なので、朝食前後に排便するという方も多いと思います。

そのため朝起きてすぐにコップ1杯の水を飲むと、大腸反射が誘発されてさらに排便されやすくなるので有効だと言えます。

 

また普段の姿勢も大切です。

やはり背筋が伸びた姿勢で過ごすことが便通にとっても好ましいと言えます。

猫背だったり背中が曲がった姿勢で座っている時間が長かったりすると、腹圧が下がって腸の中の便を押し下げにくくなるからです。

運動習慣を持つことも大切です。

ウォーキングでもランニングでも良いのですが、軽く汗ばむくらいの運動をすると、繰り返し腸が揺さぶられたり重力で腸が下方へ引っ張られたりします。

このような物理的な刺激が腸に加わるとともに、腹筋が使われることで腹圧も上がったり下がったりするので排便が促されるのです。

 

最近よく言われる「腸活」も大切です。

いわゆる腸の「善玉菌」が喜ぶような食べ物や、乳酸菌などが多く含まれる発酵食品を日常的に摂取することで腸内フローラを良好に保ち、便の性状も量も好ましい状態になります。

「腸活」については、以前も何回かご紹介しましたので是非そちらもご参照ください。(過去記事「認知症と『腸活』」一覧)

 

腸と脳は密接に関連しています。

セロトニンドーパミンといった脳の活動に欠かせないホルモンの大部分を、実は腸内細菌が産生しているというのが一例になりますが、腸の健康が脳の健康に直結していると言えます。

そのため認知症を伴う神経変性疾患にとって「便秘」はまさに「大敵」だと言えます。

特にレビー小体型認知症の「意識の変容」の治療にとって「便秘」は真っ先に解消しなければならない症状になります。

もちろん認知症の予防にとっても「便秘」は「大敵」です。

誰でもしっかりした排便があった時には、とても心地良い感じがするものです。

みんなで「便秘」のない排便習慣を持って、腸も頭もスッキリさせましょう。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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