認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「意識の変容」と「高齢者てんかん」の類似性(1)~「認知症」と「てんかん」~

「意識の変容」と「てんかん」は密接に関連している!?

前回までは、レビー小体型認知症の中核的な症状である「意識の変容」についてお話ししてきました。

ただ確かにレビー小体型認知症は「意識の変容」を合併しやすいのですが、経験的に「意識の変容」はレビー小体型認知症に限らず、認知症全般で合併しやすい症状だと言えます。

以前もお話しした通り「意識の変容」がなぜ起こるのかはまだ明らかになってはいませんが、実は「てんかん」の一種ではないかと思われるフシがあります。

特にレビー小体型認知症でよく見られる、覚醒度の切り替わりが割とはっきりしているような「意識の変容」では「てんかん」の要素が強い印象があります。

というのも「意識の変容」の治療において、ゾニサミドなどの抗てんかん薬を少量投与すると著効することが多いからです。

そのため「意識の変容」と「てんかん」は密接に関連しているのではないかと、以前から考えてきましたが、実は最近そのことを裏付けるような文献や研究報告があることが分かりました。

そこで今回から、それらを一部ご紹介しながら私見を述べていこうと思います。

まずは「高齢者てんかん」の第一人者とされる久保田裕一医師の著書「『高齢者てんかん』のすべて」を参考に、高齢者に多い「てんかん」の特徴についてご紹介いたします。

 

高齢になってから発症する「高齢者てんかん

子供の時から発症している「てんかん」に対して、高齢になってから発症する「てんかん」があるそうです。

子供の時から「てんかん」だった訳ではなく、脳血管障害や頭部外傷の後遺症で起こる「てんかん」でもありません。

あくまで加齢に伴って起こる「てんかん」であり、これは「高齢者てんかん」と呼ばれています。

「高齢者てんかん」は早いと50歳過ぎから発症しますが、主に65歳以上で発症するとされています。

65歳以上の発症率は2%に近いとされていますが、実はもっと多いのではないかと考えられています。

アメリカの最近のてんかん専門誌においては、「65歳以上の有病率は6%」という驚くべきデータが発表されていたり、日本でも「介護保険・施設入所者762名のてんかん有病率が6.8%」という報告(2011年日本てんかん学会)があるからです。

またアメリカでは老人介護施設入居者の10人に1人が抗てんかん薬を服用していたり、アルツハイマー認知症患者の3分の1が「高齢者てんかん」を併発しているというデータもあるそうです。

そのため高齢者に「てんかん」が多いことはアメリカの医療界では一般的になっているそうですが、日本では「高齢者てんかん」はあまり知られいないというのが実情だというのです。

その最大の理由が「高齢者てんかん」は「静かな発作」が大きな特徴であるからだとされています。

そのため発作を起こしても、本人も含めて周囲からなかなか気づかれにくいというのです。

 

「高齢者てんかん」は認知症と間違えられやすい

てんかん発作」というと「全身性に痙攣して失神する」という大きな発作を想像する方が多いと思いますが、実はそうならない「てんかん発作」もたくさんあるのです。

てんかん」は何らかの原因で脳内の情報伝達システムが異常をきたして起こす病気ですが、いくつかの型があり、その発作の症状も様々だというのです。

典型的な「高齢者てんかん」は、「突然」「不意に」始まります。

すると意識が途切れて動作が止まり、発作自体は数十秒から数分で終わりますが、その間は話し掛けても反応がありません。

そして発作が終わった後、数分から数時間、時には数十時間にわたって「ボーっと」した状態が続くというのです。

その間は何かを話しても筋が通らず、攻撃的になって暴言を吐くこともあります。

痙攣がない発作なので「てんかん」らしくなく、「ボーっと」して怒りっぽくなったり、その間の記憶がなくなったりするので「高齢者てんかん」は認知症と間違えられやすいのです。

医療機関でさえも認知症と間違えやすいそうです。

 

「高齢者てんかん」が認知症と間違われやすい理由

「高齢者てんかん」が認知症と間違われやすい理由を久保田医師は以下の6点に整理されています。

①発作中に「てんかん」らしい痙攣が起こりにくい。

②発作が起きても自覚や記憶がない。

③発作後にしばらく意識がもうろうとした状態が続き、ボーっとする。

④発作中や発作直後には、現在の時間や今いる場所が分からなくなる。

⑤怒りっぽくなったり攻撃的になるなど感情障害がある。

⑥昔のことはよく覚えているのに、最近の出来事を忘れる記憶障害がある。

 

「高齢者てんかん」による意識障害の特徴

さらに「高齢者てんかん」による意識障害の特徴についても以下の6点に整理されています。

①比較的、くつろいでいる時に起こりやすい

 高齢者てんかん意識障害の発作が起こりやすい時間帯や状況はよく分かっていないが、座ってテレビを見ている時や本を読んでいる時、パソコンをしている時、車を運転している時などが多いようです。

②動作は止まるが、あまり転倒しない

 特に初期の頃はそのまま動作を止めたり、立ち尽くしたりすることが多いようです。

③前兆を伴うことは少ない

 高齢者てんかんでは、他のてんかんと比較して前兆を伴うことが少なく、突然意識を失うことが多いようです。

④睡眠中に痙攣を起こすことがある

 睡眠中に唸り声を上げ、その後ボーっとしていたというようなこともある。

⑤意識や記憶の「ない状態」と「ある状態」が混在する

 てんかん発作で意識が消失した後は、数分から数十時間にわたって回復期がある。その時はボーっとしているので、その間の記憶や受け答えがはっきりしなかったり、動作が鈍くなったりします。高齢者てんかんの場合は、発作後の回復期が終われば、完全に正常な状態に戻ります。

⑥自動症を伴うことが多い

 高齢者てんかんで特に多く観察されるのは、口部自動症です。

 ただ、動きがあっても小さく目立たないことも多く、分かりにくい傾向がある。

 「唾を飲み込むように口元を動かす」「ガムを噛むように口元をクチャクチャと動かす」などと表現される。

 

これらの「高齢者てんかん」の症状を見ると、これまでお話ししてきた認知症になると合併しやすい「意識の変容」の症状そのものだと言えないでしょうか。

ではここで、以前お話しした内容と重複する部分もありますが、大切なことなので再度「意識の変容」について以下に整理してみます。

 

「意識の変容」の特徴と具体例

まずは「意識の変容」の特徴について挙げてみます。

・ボーッとしている時とはっきりしている時の波がある

・テレビを見ているようで見ていない様子など、うつろな時とそうでない時が入れ替わる

・疲れている時などは除き、日中ボーッとすることがある 

・1つのことに集中できなくなった 

・新聞を読んでいても頭に入ってこないことがある 

・日中ウトウトしがちで、眠くなる

・意識を失うようなことがある

・本人に自覚がないことがほとんどである(眠くなると表現する方が多い)

「意識の変容」の典型的な例としては、高齢の方がボーッと一点を見つめて固まっていたり、みんなと会話している時に話しかけても何の反応もなくなって「ねぇねぇ、どうしたの?もしもし?」などと肩を叩くとハッと我に返ったりするなどが挙げられます。

ひどい場合には完全に意識を失ってしまって救急車で病院に搬送され、検査を受けても何の問題もなく「一過性脳虚血発作(TIA)」などと診断されるケースも少なくありません。

高齢者の方が座ってテレビを観ている時、ボーっとしてテレビを観ているのか観ていないのか分からなくなって、いつの間にかうつらうつらしていたりしますが、これも「意識の変容」で覚醒度が下がって起きている可能性があります。

大切な点は「意識の変容」があると「意識がはっきりしている時とそうでない時が入れ替わる」ということです。

この「入れ替わり」は数秒単位から分単位、時間単位、日単位で起こることが多いですが、中には週単位、長いものだと月単位で起こる方もいて、様々なスパンで起こります。

認知症外来の診察中に問診をしている時に、患者さんの反応が不意になくなり、身体の動きも止まってしまうことがあります。

身体をポンポンと叩いたり「○○さん!」などと声掛けをすると元に戻るのですが、そんな時は「意識の変容があって覚醒度が下がっていたのだな」と分かります。

ひどい場合には1度の診察で何度も「覚醒度が落ちたり戻ったり」することがあります。

本人との会話中や同席者とお話ししている最中に、不意にカクッと頭を垂れて閉眼してしまうこともありますが、これも「意識の変容」の症状だと言えます。

さらに意識が戻った時に覚醒度が落ちていたことについて本人に確認すると、「眠くなる」と表現する方が非常に多く、「意識の変容」について自覚がないことがほとんどなのです。

 

「意識の変容」に付随する他の認知症症状

「意識の変容」によって覚醒度が落ちると、それに付随して他の認知症症状も出やすくなります。

例えば覚醒度が落ちている時に何かをしたり、言われたとしても、本人は覚えていないということが起こり、それが「もの忘れ」として表現されたりします。

また、覚醒度が落ちていると正常な認知や判断がしにくくなるので、変なことを言い出したり(妄想)、怒りやすくなったり(易怒性、スイッチが入って目が据わる)、物を人と見間違えたり(錯視)ないはずの物や人が見えたり(幻視)聞こえたり(幻聴)感じたり(実体意識性)といったことも起こりやすくなるため、潜在的にあった他の認知症症状を引き出してしまったり、増強してしまうことになりかねません。

 

いかがでしたでしょうか。

このように「高齢者てんかん」と「意識の変容」の症状はとても似ています。

久保田医師が「高齢者てんかん認知症と間違えられやすい」とお話しされるのも、とても納得がいきます。

ただ「高齢者てんかん」と「意識の変容」は似ているというだけでなく、一部の病態は「同一」のものではないかとも考えられるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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