認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「意識の変容」と「高齢者てんかん」の類似性(2)~「認知症」と「てんかん」~

前回は「高齢者てんかん」についてご紹介するとともに、「意識の変容」の特徴についても再度お話ししました。

そして「高齢者てんかん」と「意識の変容」は似ているというだけでなく、一部の病態は「同一」のものではないかというお話をしましたが、今回はその続きになります。

 

「意識の変容」と「高齢者てんかん」の類似点

前回からの内容を踏まえ、「意識の変容」と「高齢者てんかん」の類似点についてまとめてみます。

・前兆を伴うことが少なく突然起こる

・静かに始まって、いつの間にか終わっており、周りの人から気付かれにくい

・本人にも症状の自覚がないことが多い

・症状は数分から数十時間と様々である

・はっきりしている時とボーっとしている時が入れ替わり、それらが混在している

・症状が起こっている最中は、覚醒度が落ちて、思考も動作も止まったり緩慢になったりする

・ボーっとしている時は動作が鈍くなったり、ふらつきが大きくなったりするなど動作能力も変動する

・ボーっとしている時はその間の記憶や受け答えがはっきりせず、「もの忘れ」として表現されることが多い

・ボーっとしている時は筋が通らないことを話したりする(妄想など)

・パチンとスイッチが入ったように急に怒り出すことがあるが、しばらくするとケロッとしていることがある

前回お話しした内容を確認しながら、ざっと両者の類似点を羅列してみましたが、それでもこれだけあります。

認知症の症状は「意識の変容」をベースにしたものが多いので、「高齢者てんかん」との類似点を認知症症状全体にまで拡げるとまだまだ挙げられますが、それらについては今後お話ししていくことにします。

 

「高齢者てんかん」は側頭葉の部分てんかん

「高齢者てんかん」は大脳の一部から発作が始まる「部分てんかん」であり、「側頭葉の部分てんかん」だと言われています。

ではここで、「てんかん」が起こる脳の部位によって、それぞれどんな症状を起こしやすいのかご紹介していきます。

まず「高齢者てんかん」に多い「側頭葉てんかん」ですが、これは最も発症しやすい「てんかん」の部位だと言われています。

側頭葉は記憶や言語、相貌認知、感覚、情動などの中枢であるため、発作前に記憶や情動、聴覚や味覚などに異常が出ることが多いとされています。

フラッシュバックのように昔の記憶が急に蘇ったり、幻聴が聞こえたり、様々な自律神経症状が出ることもあるようです。

また成人に多いとされています。

以下に、その他の部位で起こる「てんかん」の特徴について挙げていきます。

前頭葉てんかん」:不意に意識を失って痙攣や転倒を伴うような激しい発作が起こりやすいとされています。

頭頂葉てんかん」:寒さ・暑さや痛み・しびれ、物の大きさが実際と異なって見えるといった異常感覚が出たりするなど、体性感覚や空間感覚に異常が起こりやすいとされています。

これは頭頂葉には様々な感覚情報をつかさどる「連合野」という中枢があるためです。

後頭葉てんかん」:後頭葉には視覚の中枢があるため、視野の一部が欠けたり、幻視が見えることがあるようです。

 

このように「てんかん」は起こる部位によって、生じる症状も実に様々です。

そしてこれらの症状は、どれも認知症の症状として知られているものばかりだと言えます。

したがって「高齢者てんかん」は「意識の変容」をはじめとする認知症の症状とオーバーラップしていると言えますし、やはりその一部は「同一」の病態ではないかとも思われるのです。

そのことを示唆するような研究報告がありましたので、次にそれをご紹介します。

 

通常の脳波検査では検出できない「てんかん」がある

最先端研究の報告に特化したイギリスの国際生物医学ジャーナル誌「Nature Medicin」において2017年に掲載された症例研究があります。

その研究では、てんかん発作歴のない2例のアルツハイマー病患者に対して、通常の頭皮脳波の測定を行うとともに、卵円孔を介して頭蓋内に電極を入れて留置し、側頭葉の脳波を測定した結果を報告しています。

すると驚くべきことに、頭皮からは検出できない「てんかん性放電」が頭蓋内電極から非常に多く検出されたというのです。

1番目の症例では、頭皮脳波測定において「てんかん性放電」が左側頭葉から覚醒中に約2回/時間、睡眠中に約40〜70回/時間、右側頭葉から睡眠中に5回未満/時間認められたのに対し、側頭葉近傍に留置された頭蓋内電極からは、覚醒時に約400回/時間、睡眠時に最大850回/時間も検出され、そのうち85%が左側頭葉から発生していたそうです。

そのため、この症例では頭蓋内電極から検出された「てんかん性放電」の95%以上が頭皮脳波測定では検出されなかったということです。

2番目の症例では、頭皮脳波測定において「てんかん性放電」が右頭側部領域および左側頭部領域、両前頭部領域にて多巣性の「てんかん性放電」が覚醒中には約2回/時間、睡眠中には約12回/時間認められたのに対し、頭蓋内電極からは覚醒時に最大16回/時間、睡眠時に最大190回/時間も検出され、右側頭葉で最も頻回だったそうです。

そのため1番目の症例と同じく、頭蓋内電極から検出された「てんかん性放電」の95%以上が頭皮脳波測定では検出されなかったということです。

これら2例の症例研究より、まず頭皮脳波測定では検出されない「てんかん性放電」が実際には頻発している可能性が示唆されました。

さらにアルツハイマー病の初期段階では、頭皮脳波測定で大きな異常がない場合でも、臨床的には無症状の「てんかん性放電」が睡眠中に優勢に発生しており、記憶の統合に重要役割を果たしている睡眠中に「てんかん性放電」が頻発することによって重大な認知障害を引き起こす可能性があることも指摘しています。

 

この報告はとても示唆に富んでいると思われます。

なぜなら認知症の方では、頭皮脳波測定では検出できない「てんかん性放電」が頻発している可能性があることを示しているからです。

さらに、これらの「てんかん性放電」は明らかな症状は出さなくても、記憶を初めとする認知障害を引き起こす可能性があるとしており、「意識の変容」はもちろん妄想や幻覚、易怒性、レム睡眠行動障害をはじめとする睡眠障害、ムズムズ脚症候群、しびれや神経痛といった認知症に多く合併する症状などとの関連性も強く疑われるからです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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