認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「てんかん」から「認知症」を診る(4)~「認知症」と「てんかん」~

前回は「てんかん」がある方の性格的特徴と「認知症」に移行しやすい「発達障害」傾向の方の類似性から、両者の合併率の高さや病態の同一性についてお話ししました。

今回は「認知症」はもちろん「発達障害」に合併しやすい「睡眠障害」と「てんかん」の関連性についてお話しします。

 

睡眠障害」の中には「てんかん」が原因のものもある

認知症を伴う神経変性疾患の多くにおいて、レム睡眠行動障害やムズムズ脚症候群、睡眠時無呼吸症候群、夢見・寝言・イビキなどに伴う睡眠効率の低下といった「睡眠障害」が合併しやすく、そのような「睡眠障害」が発症の前駆症状であったり、病状を進行させる要因になっているので、認知症の治療においては「睡眠障害」の治療が最優先される、ということは以前からお話ししている通りです。( 記事一覧:認知症と「睡眠」

また同じように、認知症に移行しやすい「発達障害」においても「睡眠障害」が合併しやすく、十分な睡眠がとれないと、様々な症状が出現したり、増強しやすいことが知られています。

このように「認知症」にとっても「発達障害」にとっても合併しやすく、治療においても最優先しなければならない「睡眠障害」ですが、実は「てんかん」が原因で起こることがあるのです。

 

てんかん」患者に合併しやすい「睡眠障害

では、そもそも「てんかん」がある方は「睡眠障害」を合併しやすいのでしょうか?

ボストン大学てんかん患者152例(平均年齢:46歳)に対して行った睡眠状態に関する調査(Journal of clinical sleep medicine誌オンライン版2013年2月1日号)によれば、

てんかん患者の半数以上(55%)は不眠症であった。また、70%以上の患者は睡眠の質が低下していた。

不眠症や睡眠の質の低下は、抗てんかん薬の数や抑うつスコアと有意な相関が認められた。

不眠症や睡眠の質の低下は、QOL(生活の質・生きがい)低下の有意な予測因子であった(共変量にて調整)。

・これらの結果から、てんかん患者では、不眠症や睡眠の質の低下を有しており、QOLに悪影響を与えることが示唆された。

とされています。

一般成人における「睡眠障害」の合併率が約20%なので、「てんかん」がある方はやはり「睡眠障害」を合併しやすいと言えます。

 

てんかん性異常放電」は睡眠時に起こりやすい

このように「てんかん」と「睡眠障害」には密接な関係があるのですが、実は「てんかん性異常放電」は睡眠時に出現しやすいという特徴があります。

この「てんかん性異常放電」が睡眠中に生じると、睡眠効率が低下し、不眠や日中の眠気の原因になるとともに、さらなる「てんかん発作」や「てんかん性異常放電」を生じさせる誘因になるとされており、いわば「てんかん」が「てんかん」を呼び、さらに「睡眠障害」を悪化させてしまうという悪循環に陥ってしまう可能性があるとも言われています。

 

また、「てんかん発作」や「てんかん性異常放電」が起こりやすい「睡眠段階(睡眠状態の指標として、睡眠ポリグラムの脳波、眼球運動、筋電図などにみられる種々の特徴から睡眠を5段階に分けたものであり、数が大きくなるほど眠りが深い段階を示す)」としては睡眠初期の睡眠段階1~2での発生頻度が高いことが報告されています。

ちなみに睡眠段階1は、寝入りばなで、呼びかければ直ぐに目覚めることができる状態ですが、睡眠途中にも出現することがあります。

いわばウトウトしたまどろみ状態であり、浅い眠りの段階で「寝ている」という実感はあまりなく、出現率は総睡眠時間の4~5%程度とされています。

睡眠段階2は、軽い寝息をたてる中等度の睡眠状態。睡眠段階の中では出現量が最も多く、出現率は45~55%とされています。

 

以前の記事「『意識の変容』と『高齢者てんかん』の類似性(2)~『認知症』と『てんかん』~」でご紹介した研究報告でも、「てんかん性異常放電」は日中よりも圧倒的に睡眠中に多く発生していることが報告されています。

この報告では、てんかん発作歴のない2例のアルツハイマー病初期の患者に対して、通常の頭皮脳波の測定を行うとともに、卵円孔を介して頭蓋内に電極を入れて留置し、側頭葉の脳波を測定しているのですが、2例ともに頭蓋内から検出された「てんかん性異常放電」の95%以上が頭皮からは検出されなかったそうです。

つまりこの結果から、例え通常の頭皮脳波測定で「てんかん性異常放電」が検出されなかったとしても、実際には頭蓋内で「てんかん性異常放電」が頻発している可能性があることが分かりました。

そして、この頭蓋内電極による測定では「てんかん性異常放電」が、日中に比べて睡眠時の方が2~12倍も多く出現していたことから、アルツハイマー病初期の患者においては頭皮脳波測定で大きな異常がない場合でも「てんかん性異常放電」が日中よりも睡眠時優勢に頻発している可能性がある、ということが分かったのです。

これらのことから「てんかん性異常放電」は睡眠時に発生しやすく、それが様々な「睡眠障害」を生じさせる原因の1つになっている、ということは間違いなさそうです。

 

発達障害」に合併しやすい「睡眠障害」と「てんかん」の関連性

今回の冒頭でもお話しした通り、「認知症」に移行しやすい「発達障害」においても「睡眠障害」が合併しやすいことが知られていますが、実際に「発達障害」における「睡眠障害」の合併率と、「睡眠障害」のベースになりうる「てんかん性異常放電」の合併率はどのくらいあるのでしょうか?

前回も引用した国立精神・神経医療研究センター病院の中川栄二先生による220例の患者(2~28歳)に対する調査報告によれば、自閉症スペクトラム症(ASD)と注意欠陥多動性障害ADHD)を合わせた発達障害での「睡眠障害」の「合併率」は34%だったそうです。

また、入眠時に前頭部優位の高振幅鋭波や徐波、高振幅律動性速波などの「異常脳波」は、ASDで55%、ADHDで64%だったとのことです。

つまり「発達障害」の6割前後の方に「異常脳波」が認められたということです。

これは通常の頭皮脳波検査による結果なので、先ほどの頭蓋内検査を用いれば、合併率はもっと高くなる可能性があります。

ちなみに、報告ではこれらの入眠時の前頭葉優位の「異常脳波」が高頻度に見られることが、「発達障害」における前頭葉の抑制系機能の未熟性や機能低下を反映しているのではないかとしています。

 

てんかん薬による「睡眠障害」の治療の可能性

また、てんかんの既往がない脳波異常を認めるASDでは入眠時に抗てんかん薬を使用することで睡眠障害や生活の質の改善が72%で認められたこと、てんかんがあるASDでは抗てんかん薬と抗精神病薬との併用により睡眠障害や生活の質の改善が75.5%で認められたこと、てんかんが既往のない脳波異常を認めるADHDでは入眠時に抗てんかん薬を併用することで睡眠障害や生活の質の改善が70.5%で認められたこと、てんかんがあるADHDでは抗てんかん薬と抗精神病薬との併用により睡眠障害や生活の質の改善が73%で認められたことが報告されています。

つまり「異常脳波」を伴う「睡眠障害」の7割以上で抗てんかん薬が有効であったということです。

実は「てんかん発作」はもちろん「てんかん発作」に至らない「てんかん性異常放電」ともに、抗てんかん薬でコントロール(抑制)しやすいことが知られています。

そのため「発達障害」で睡眠時に「脳波異常」を伴う場合は、抗てんかん薬の併用治療によって「脳波異常」の改善とともに「睡眠障害」の緩和が期待できるとしています。

したがって「認知症」と「発達障害」では「睡眠障害」が合併しやすく、「認知症」と「発達障害」を治療する上では「睡眠障害」の治療を最優先させなくてはなりませんが、「睡眠障害」の中には「てんかん性」のものが少なからず存在しており、その場合は抗てんかん薬が非常に有効であるということになります。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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