認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

当院で実践する新型コロナウィルス感染予防策について

前回まで「『てんかん』から『認知症』を診る」と題して、認知症てんかん、そして、発達障害との関連についてお話ししてきました。

今回は、一旦このテーマからは離れて、今世界中を騒がせている新型コロナウイルスに対する感染予防について、当院で実践していることなども含めてお話ししたいと思います。

 

感染予防が最重要

メディアでは新型コロナウイルスの感染者が増え続けていることが連日大きく報じられています。

確かに1日当たりの感染者数も増えてきているので心配になります。

ただ日本で行われている様々な対策や医療の力が一定の効果をあげているのも事実です。

先進7か国における人口100万人当たりの新型コロナウイルスによる死亡者数(4月4日9:26現在)を挙げてみますと、イタリア243人、フランス100人、イギリス53人、アメリカ22人、カナダ6人、日本0.5人、ロシア0.3人となっており、日本はロシアと並んで圧倒的に少ないからです。

また今のところ日本で感染爆発が起きていないのは、言われたことやルールをきちんと守ったり、清潔好きであるという日本人の気質や、義務化されている日本株BCG予防接種などの恩恵によるものではないかとも言われていますが、いずれにしろ新型コロナウイルス感染に対する治療を含めた全体像がはっきりするまでは、まずは個々人が感染しないように予防策をしっかり講じていくことが最重要になります。

そこで、まずは個々人に求められる基本的な感染予防策について確認していこうと思います。

 

基本的な感染予防策は非常に有効

手洗い、うがい、マスクを着用するなどの基本的な感染予防策が最も大切なことであるということは、言うまでもありません。

これは新型コロナウイルスに関わらず、他の感染症予防についても非常に有効です。

今年は、新型コロナウイルスに対する感染予防に日本人全体が取り組んでいることによって、今のところ例年に比べると、感染症による死亡者数が全体的には大きく減少していることからも明らかだと思います。

感染力が強いといわれている新型コロナウイルスについても、これらの基本的な感染予防策をしっかり実践できれば、感染を防げるのではないかと考えられます。

その効果を明らかにしているのが自衛隊でしょう。

自衛隊はこれまで、集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の船内対応やチャーター便帰国者の一時宿泊施設への物資搬送など、保菌者との濃厚接触が避けられない現場で任務を遂行してきましたが、今のところ感染者は非常に少なく限定的です。

特に医師や政府職員、検疫官の感染が相次いだクルーズ船の任務では、2700人のもの自衛隊員が対応にあたりましたが、1人の感染者も出さずに任務を完了させています。

確かにウィルスの感染リスクが高い現場では、手袋を二重にたり、防護服との隙間が生じないようにつなぎ目を粘着テープでふさいだり、靴カバー、目にはゴーグル防護服を着用したりとフル装備で任務にあたっています。

ただ自衛隊が行っているのはそんな場面での特殊な対策が主流というわけではなく、その多くは一般の人がやっているような基本対策が中心であり、それらが徹底して実践されていることだというのです。

自衛隊感染症対策の強みは、基本を突き詰めて徹底して行うということに尽きるのだと思います。

 

「手洗い」と「マスクの着け方」について

ただ感染対策の基本とはいっても、実はそれを正しく行うのは難しいものです。

「手洗い」については、石鹸をつけてただ手のひらだけを洗えば良いというわけではありません。

医療従事者向けに手洗いとアルコールによる手指消毒の正しいやり方について一般に公開しているポスターがありますので、是非参考にしてみてください。

  「衛生的な手洗い方法

  「正しい手指消毒方法

「爪」や「手の甲」、「親指」、「手首」も忘れずに洗うことがポイントになります。

 

「マスクの着け方」についても注意点がありますので、以下のポスターを参考にしてみてください。

  「正しいマスクの着け方

口と鼻をマスクとできるだけ密着させてすき間を作らないことがポイントになります。

個人的にはマスクと顔の間にガーゼなどをはさむと密着度が上がるとともに、皮膚のあたりも柔らかくなるので気に入っています。

また、本来は使うたびにマスクもガーゼも取り換えなければなりませんが、使い捨てマスクが品薄の現状においては、ガーゼだけ取り換えれば使い捨てのマスクであっても数回は使えると思うので、ベストではありませんがベターなのではないかと思っています。

ちなみにガーゼは洗濯すれば、再利用も可能です。

 

当院では漢方薬を積極的に活用

上記の基本的な感染予防策に加えて、当院で独自に実践していることがあります。

それが感染予防的に漢方薬を内服するということです。

当院では認知症治療のために積極的に漢方薬を使用しています。

認知症治療のためには、様々な症状に対応するために抗認知症薬はもちろん抗精神病薬を使わざるを得ません。

ただそれらには無視できない副作用があります。

ましてや認知症患者さんのほとんどが高齢者であるため、副作用が出やすいのです。

さらには認知症患者さんの多くに「薬剤科敏性」があり、定められた常用量では効きすぎてしまうため、かえって副作用の方が大きく出て、他の症状を引き出してしまったり、出現している症状を悪化させかねいのです。

そのため抗認知症薬や抗精神病薬などのいわゆる西洋薬は、ごく少量から開始して経過を見ながら投薬量を微調整していくことがほとんどなのですが、漢方薬には比較的副作用を心配しないで使えるものが多いので、当院では漢方薬を使う頻度が多くなっています。

そのため当院では漢方薬にお世話になる機会が多いのですが、漢方薬には実に様々な種類と効用があることに驚かされます。

 

インフルエンザにも効く「麻黄湯

風邪や肩こり、神経痛などに効果がある「葛根湯」などはとても有名なのでご存じの方も多いと思います。

また、風邪の中でも頭痛や高熱、全身の関節痛、咽頭痛などを伴うものに効果がある「麻黄湯」という漢方薬があります。

この「麻黄湯」は比較的即効性があり、のどが痛い時には麻黄湯を口に含んでうがいしながら内服するとすぐに痛みがなくなるので、個人的には以前からお世話になることが多い薬でした。

実はこの「麻黄湯」には毎年流行するインフルエンザにも有効であるとされており、日本ではインフルエンザの保険適応薬になっています。

この「麻黄湯」にはインフルエンザの予防効果があることも知られており、当院ではインフルエンザやその疑いのある患者さんの対応をした時には、以前からスタッフが内服するようにしていました。

ちなみに3~4年前からこの対応をするようになってから、今のところ当院のスタッフでインフルエンザの感染者は出ていません。

また昨年私の子供が2人、別々の時期にインフルエンザに感染したのですが、その他の家族全員が毎日予防的に「麻黄湯」を1包ずつ内服していたところ、結局誰にもうつりませんでした。

我が家は構造的に家族がみんな同じ空間で過ごさねばならず、夜も川の字で寝るなど、どうしても濃厚接触状態になってしまうため、さすがに他の家族への感染を覚悟していたのですが、2回とも大丈夫だったので、個人的には「麻黄湯」の効果ではないかと思っています。

インフルエンザに対する漢方薬の効果については、順天堂大学の内藤俊夫先生による講座のまとめがありますので、是非ご参照ください。

感冒・インフルエンザと漢方

この内藤先生の報告によれば、「麻黄湯」は感冒(原因のウイルスがはっきりせず、いわゆる風邪とされているもの)やインフルエンザの急性期に効果的であるとされています。

また、病期や体質によっていくつかの漢方薬を使い分けることも勧められています。

 

重症化を引き起こす「サイトカインストーム」も漢方薬で予防できる!?

新型コロナウイルスによる肺炎の急激な悪化は、いわゆる「サイトカインストーム」が原因ではないかとされています。

肺炎には「細菌性」のものと「ウイルス性」のものがあります。

「細菌性」の肺炎では、肺の中に入り込んだ細菌と身体を守る白血球が戦い、その結果生じる浸出液によって「肺胞」が満たされて息苦しくなります。

一方、新型コロナウイルスなどによる「ウイルス性」の肺炎では、「細菌性」のタイプもありますが、ウイルスを排除するために自分の身体を守る免疫システムが過剰に働きすぎて起こるとされています。

本来は空気の入る「肺胞」と「肺胞」を区切っている「間質」を通って酸素が血管内に取り込まれたり、二酸化炭素が血管外に排出されたりしているのですが、免疫システムが過剰に働くことで自分の身体の一部である「間質」や「血管」も傷つけてしまうのです。

すると「間質」に炎症が起こるため、酸素と二酸化炭素の交換がうまくいかなくなって息苦しくなる「間質性肺炎」が生じるのです。

この免疫過剰によって起こる炎症が「サイトカインストーム」と呼ばれています。

今までの調査によると、新型コロナウイルス肺炎で死亡した方の「間質」や「血管」からはウイルスが検出されなかったということから、ウイルスによる肺の直接的な傷害というよりも「サイトカインストーム」の要素が強いのだろうと言われています。

つまり新型コロナウイルス感染による肺炎の重症化を防ぐには、いかにこの「サイトカインストーム」を防ぐことができるかがカギになるのです。

先ほどの内藤先生の報告によると、漢方薬では「補中益気湯」と「葛根湯」に「サイトカインストーム」を抑制する効果があるとされています。

 

新型コロナウイルスの感染予防と重症化予防を期待できる漢方薬は?

さらに先月の3月19日、金沢大学附属病院の小川恵子先生が新型コロナウイルス感染症に対する漢方治療についての特別寄稿を公開されています。

COVIDー19感染症に対する漢方治療の考え方

これには新型コロナウイルス感染症に対する漢方治療として、予防、軽症例、重症例などに分けて日本にある既存の漢方薬を使ったものを紹介されています。

ここでも感染予防と無症状感染者に対する治療として、先ほども「サイトカインストーム」の抑制効果があるものとして挙げた「補中益気湯」に加えて「十全大補湯」が紹介されています。

また感染初期の治療として「麻黄湯」や「麻黄附子細辛湯」「葛根湯」が日本人の体質には合っており、肺炎予防が期待できるのではないかとされています。

中国の研究で新型コロナウイルス感染症に効果があることが分かったとされている「清肺排毒湯」についても紹介されており、この漢方薬そのものは日本の製剤にはないけれども、既存の製剤である「麻杏甘石湯」と「胃苓湯」と「小柴胡湯加桔梗石膏」の3つを同時に内服することで代用できるとしています。

 

最後に

今回、ご紹介した報告は2つとも非常に参考になるものだと思います。

当院では今回の騒動が始まった時から、通勤前もしくは診療前にスタッフ全員で「麻黄湯」を内服するようにしています。

インフルエンザウイルス同様に新型コロナウイルスに対しても感染予防の効果があるのではないかと考えてのことでしたが、その考えを後押しするような報告がなされていることを知り、少し心強くなりました。

ただ今回ご紹介した漢方治療については、小川先生が述べている通りエビデンスが確立されていません。

また漢方薬にも副作用がありますので、くれぐれも自己判断のみで実行することがないよう、必ず事前に信頼できる医師とよく相談するなどしてください。

 

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

にほんブログ村 介護ブログ 認知症へ
にほんブログ村

↑↑ 応援クリックお願いいたします

f:id:kotobukireha:20190702092414j:plain