認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「てんかん」から「認知症」を診る(5)~「認知症」と「てんかん」~

今回からまた「『てんかん』から『認知症』を診る」のお話に戻ります。

前回は認知症」と「発達障害」の治療においては、高率に合併するとともに治療が最優先されるべき「睡眠障害」の中には、「てんかん性」のものが少なからず存在しており、その場合は抗てんかん薬が非常に有効であるというお話をしました。

今回はその続きになります。

 

認知症」に合併しやすい「便秘」も「てんかん」を誘発する!?

認知症を伴う神経変性疾患で合併しやすい症状としては、前回お話しした「睡眠障害」と並んで「便秘」があります。

睡眠障害」も「便秘」も認知症の症状を悪化させたり、新たな症状を引き出しかねないものなので、いずれも認知症の治療では最優先されています。

特に「便秘」で2日も3日も便通が滞ると「意識の変容」や「パーキンソン症状」などが悪化しやすく、ボーっとしたり、動作が鈍くなったりします。

そのため当院では「2日出なかったらイエローカード、3日出なかったらレッドカード」と言っているほどです。

「意識の変容」で覚醒度が下がると、思考や認知が鈍くなることで妄想や幻覚、もの忘れなどの症状が前景化しやすくなりますし、「パーキンソン症状」が悪化して動作が鈍くなると、転倒して骨折しやすくなったり、飲み込みが悪くなって誤嚥性肺炎などを起こしやすくなります。

認知症」と「便秘」の関連については過去の記事もご参照ください。

便秘になるとボーっとなって認知症症状が悪化する(前)便秘になるとボーっとなって認知症症状が悪化する(後)

 

では、なぜ「便秘」になると認知症の症状が悪化するのでしょうか?

これも過去の記事「『便秘』が認知症を悪化させる!?」でお話しした通り、「便秘」になって腸内細菌がうまく活動できない状態になると、人間にとって大切なドーパミンセロトニンなどの「ホルモン」や「短鎖脂肪酸」などが十分に生成されにくくなって身体的・精神的活動がスムースにいかなくなるとともに、腸内が「悪玉菌」優位の状態になると、腸内細菌が作り出す物質が脳の炎症を引き起こす可能性がある、ということも要因として考えられます。

ただ「便秘」が「てんかん」を誘発する可能性があり、それが要因の一つになっているのではないかとも考えられるのです。

というのも実は、「便秘」は「てんかん発作」を起こす誘因になったり、自閉症児ではこだわりや常動行動を増やし意欲を低下させるなど、発達の障害にもなると言われていたり、「便秘」や食べ過ぎ、睡眠不足などの生活習慣の乱れによっても「てんかん発作」が生じやすくなると言われているからです。

そのため「てんかん」がある方に対しては、発作を予防するために、便通はもちろん食事や睡眠習慣を整えて規則正しい生活を送ることが大事だと指導されているほどです。

いずれにしても「便秘」が「てんかん」を誘発するのは間違いないようです。

その原因はまだはっきり分かっていませんが、「便秘」によって腸内環境が乱れたり、腹圧が上がったりするなどの要因が重なることで、「てんかん発作」が起こりやすくなったり、発作までには至らなくても「てんかん性異常放電」が誘発される可能性が十分に考えられます。

そしてやはり「てんかん性異常放電」が様々な認知症症状を引き起こしたり、増悪させるベースになっているとも考えられるのです。

 

体温の上昇も「てんかん」を誘発する

子どもが風邪などの急な発熱でけいれん発作を起こすことがよくあります。

この発作は「熱性けいれん」と呼ばれており、子どもの脳は発達段階で未成熟なために熱に弱いからだとされています。

そのため一般的に生後6か月から5歳頃までの発熱時(通常は38度以上)に起こりやすく、成長に伴って6歳前後になるとほとんど起こさなくなり経過は良好とされています。

「熱性けいれん」は熱の上がり初めに出現することが多く、突然意識がなくなって、白目を向いたり、身体を反らせて硬直したりしますが、逆に全身の力が抜けたり、ボーッとして意識がなくなるだけの場合もあるそうです。

この「熱性けいれん」は「てんかん発作」と非常によく似ていますが、一般的には別の病態だとされています。

ただ「てんかん発作」の中にも発熱がきっかけになる場合があり、さらにけいれん時の脳波が両方とも似ているため、どちらか判断がつきにくい場合もあるそうです。

実は子供の「てんかん発作」は体温上昇と関わっており、発熱時はもちろんですが体温が上がるような入浴時にも注意を喚起されているほどです。

いずれにしろ未成熟な脳神経は熱に弱く、熱によって「てんかん性異常放電」が誘発されやすいということなのでしょう。

これを聞いて連想するのはパーキンソン病関連疾患の方は暑さに弱いということです。

発熱時はもちろん気温が高くなったりすると、途端にパーキンソン症状が増悪して動けなくなったり、ボーっしたりして、とにかく体調が悪くなってしまう方が多いのです。

体温が上昇すると脱水になりやすいということもあるでしょう。

ただ未成熟な脳神経は熱に弱いと言われており、変性して障害された脳神経も同じように熱に弱く、体温が高くなると「てんかん性異常放電」が誘発されやすくなる、ということも原因の一つとして考えられるのかもしれません。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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