前回まで、ビタミンDが新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐ可能性があることを示す4つの論文の内容をご紹介しました。
実はこれらの論文の他にも、ビタミンDが新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐ可能性があることを示す最新論文が各国から次々に発表されています。
今後機会があればそれらについてもご紹介いたしますが、いずれにしてもビタミンDが新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐ可能性がますます高まってきたと言えます。
そこで今回からは、ビタミンDがどのようにしてそのような効果を発揮すると考えられているのかについてお話ししていこうと思います。
人間の「免疫システム」は「自然免疫」と「獲得免疫」からなる
それではまず、ビタミンDがどのように人間の「免疫システム」に働きかけているのかについてお話しする前に、いま一度「免疫システム」がどのような仕組みになっているのかについて整理してみます。
「免疫システム」は私たちの身体を病原体などのあらゆる異物から守ってくれています。
この「免疫システム」は「自然免疫」と「獲得免疫」の2段構えになっており、それぞれがうまく連携して機能しています。
まず「自然免疫」は、体内に侵入したあらゆる異物に対して速やかに働きます。
免疫の第一部隊として好中球やマクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞といった「自然免疫」を担う免疫細胞たちが病原体を自分の体の中に取り込み、細胞内の酵素などによって病原体を分解・消化して排除するのです。
こういった第一部隊による働きが「自然免疫」と呼ばれ、特定のウイルスなどの病原体に対してだけではなく、体内に入ってきた異物全体に対して働いてくれます。
また同時に第一部隊の「樹状細胞」が、リンパ節に移動して病原体の性質を第二部隊の「ヘルパーT細胞」に伝えます(これを「抗原提示」と言います)。
この「ヘルパーT細胞」は第二部隊のいわば司令塔として働いているのですが、伝えられた病原体の情報をB細胞に教えて「抗体」の産生を促したり、キラーT細胞に作用して感染してしまった細胞をアポトーシス(自殺)に追い込んだりしています。
そして2度目に同じ病原体が侵入してきた時には、第二部隊であるB細胞やT細胞の一部がその病原体の情報を記憶(免疫記憶)しており、迅速かつ効率的に病原体を排除できるようにしているのです。
こういった第二部隊であるリンパ球たちの働きが「獲得免疫」と呼ばれています。
ビタミンDは「免疫システム」を適切に整えてくれる
ビタミンDにはこの「免疫システム」を正常に機能させる効果があるとされています。
まずビタミンDは「自然免疫」を担う好中球やマクロファージ、ナチュラルキラー細胞を強化すると同時に、「獲得免疫」を担うT細胞やB細胞などに対しては、免疫反応が過剰になりすぎないよう抑制的に働き(これは「免疫寛容」と言われます)、「免疫システム」の活性と抑制の両方に影響を及ぼすことで「免疫」の制御に役立っているというのです。
そもそもビタミンDがこのような働きをできるのは、免疫を担う細胞にビタミンDを受け取る「受容体」があるからだそうです。
この「受容体」は細胞膜に存在しており、外界の情報を細胞内に伝えるという重要な役割を果たしているのですが、細胞自身が特定の物質に対する「受容体」の量を増減させて、外界からの情報の受け取りをコントロールしているというのです。
そして「免疫システム」を担う好中球やマクロファージ、樹状細胞、活性化したT細胞を含む数種類の免疫細胞には、ビタミンDを受け取る「ビタミンD受容体(VDR)」が存在していることが分かっています。
ビタミンDは、この「ビタミンD受容体」を通じて免疫細胞たちのいわば「スイッチ」を入れて活性化させるとともに、炎症時に「サイトカイン」が産出されすぎないように抑制したり、「制御性T細胞(Treg)」を誘導して免疫反応が過剰になりすぎないように働いているというのです。
実はこれが「免疫システム」が適切に働くためには非常に重要なことなのです。
というのも本来は自分の身体の組織を守ってくれるのが免疫反応ですが、それが過剰になりすぎると今度は正常な組織まで攻撃するようになってしまうからです。
新型コロナウイルス感染症では、比較的短時間に症状が重症化してしまう症例が数多く報告されています。
実はその要因の1つに、この免疫過剰による急激な炎症の拡大(これは「サイトカインストーム」と呼ばれます)があるのではないかと言われています。
そのためビタミンDが免疫反応が過剰になるのを抑えているのであれば、当然新型コロナウイルス感染症の重症化も防いでいるのではないかと考えられているのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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