前回は、ビタミンDは人間の「免疫システム」を活性化させるとともに、免疫反応が過剰になりすぎないように調節(=「免疫寛容」)する役割も果たしているということをお伝えしました。
そして、もし免疫が過剰になると身体の正常な組織まで攻撃対象にして炎症を拡大させてしまうことになりかねず、新型コロナウイルス感染症が急激に重症化してしまう要因の1つに、この免疫過剰による急激な炎症の拡大(=「サイトカインストーム」)があることが分かっているため、ビタミンDが「制御性T細胞(Treg)」を介して免疫反応を抑制することで新型コロナウイルス感染症の重症化を防いでくれるのではないかというお話をしました。
今回は、この免疫反応を抑制するキーマンともいえる「制御性T細胞」のお話から始めようと思います。
ビタミンDは「制御性T細胞」を活性化してくれる
人間の「免疫システム」は私たちの身体を多種多様な病原体から守ってくれています。
病原体には細菌やウイルス、寄生虫など非常に多くの種類があり、それらを攻撃して排除するために「免疫システム」は「炎症」を伴う適切な免疫反応を起こします。
その司令塔としての役割を果たしているのが「ヘルパーT細胞」であり、身体に侵入した病原体の種類に応じ、自らを3種類ある「エフェクターT細胞」のいずれかに分化(機能を果たせるように成熟)させて適切な「炎症」を起こします。
そして対象の病原体を排除するのに最適な免疫反応を誘導しているのです。
ただ免疫反応は、正常な自分の細胞組織や食べ物といった無害の物質に反応することなく、さらに病原体の排除が済んだらすみやかに終了させなくてはいけません。
そこで活躍するのが「制御性T細胞」になります。
「制御性T細胞」は「炎症」を起こす「エフェクターT細胞」を抑制することで、免疫反応を適切に制御する(=「免疫寛容」に働く)のです。
実際に「制御性T細胞」に異常があると、本来は無害なはずの食物や花粉、そして自分の身体を構成するタンパク質にまで免疫反応が起こってしまい、食物アレルギーや花粉症、喘息といったアレルギー性疾患だったり、慢性関節リウマチや多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、乾癬、バセドウ病、橋本病、重症筋無力症といった自己免疫疾患を引き起こしかねないそうです。
したがって、人間の「免疫システム」が正常に機能するために「制御性T細胞」の働きは不可欠なものだと言えますが、実はこの「制御性T細胞」を活性化してくれるのがビタミンDだというのです。
ビタミンDは「抗菌ペプチド」を増やして「自然免疫」を高める
さらにビタミンDは、体内に侵入してきたウイルスなどの病原体やいわゆるバイ菌と戦ってくれる強力な「抗菌ペプチド(Antimicrobial Peptides:AMPs)」の産生を誘発するとも言われています。
実際、カテリシジンやディフェンシンといった「抗菌ペプチド」は、細菌感染症のリスクを下げたり、ウイルスの生存率や複製速度を下げたりする働きをしているそうです。
このような働きをする「抗菌ペプチド」ですが、これは「自然免疫」には欠かせない働きをするペプチドの総称であり、タンパク質の最小単位であるアミノ酸が約10から数十個連なって形成されています。
そして人間を含めた哺乳類や植物、昆虫などのあらゆる多細胞生物に備わっている物質であり、細菌やウイルス、原虫などから身体を守ってくれているそうです。
ちなみに人間では、外部と接触するような皮膚や口腔、消化器、泌尿器といったあらゆる部位で「抗菌ペプチド」が産生されており、菌の増殖を抑制しながら生体と菌との共生関係を保っているとも言われています。
実際に「抗菌ペプチド」の減少や欠如が様々な疾患の発症と関係する事例も数多く報告されており、それらの疾患の治療において「抗菌ペプチド」が利用できないかどうか、現在研究されているということです。
さらに、抗生物質が菌のDNA合成やタンパク質の生成を阻害するのに対し、「抗菌ペプチド」は菌の細胞膜を直接攻撃することで殺菌作用を発揮するため、抗生物質のように耐性菌を次々に生み出すようなことが少なく、その有用性が治療分野において注目されているそうです。
そして、このような人間の免疫にとって非常に心強い「抗菌ペプチド」を増やしてくれるのがビタミンDだというのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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