前回は、ビタミンDが「制御性T細胞」を活性化させて免疫が過剰になるのを防ぐとともに、カテリシジンやディフェンシンといった細菌感染症のリスクを下げたり、ウイルスの生存率や複製速度を下げたりする「抗菌ペプチド」を増やして「自然免疫」を高めてくれるというお話をしました。
今回もビタミンDが「免疫システム」を整えてくれるというお話の続きになります。
「レニン-アンジオテンシン系」を調節する「ACE2」を介して新型コロナは感染する
人間の身体を作っている細胞の細胞膜には「ACE2(アンギオテンシン転換酵素)」という酵素があります。
この「ACE2」は、血管収縮やナトリウム代謝などを通して血圧上昇の調整をする「レニン-アンジオテンシン系」の働きをコントロールしています。
実は新型コロナウイルスは、細胞表面上にあるこの「ACE2」を、自身が細胞に接着するための受容体として使っており、細胞表面に接着したウイルスの外膜と細胞膜が融合すると、細胞がウイルスに感染することになります。
つまり新型コロナウイルスは「ACE2」を介して人間に感染するのです。
ちなみに肺の肺胞上皮細胞にも「ACE2」が発現しており、これが新型コロナウイルスが肺炎を起こすことに関連していると考えられています。
また「ACE2」がコントロールしている「レニン-アンジオテンシン系」は、人間の免疫とも密接に関係しています。
しかし新型コロナウイルスが「ACE2」に接着してしまうと、「ACE2」の働きが妨げられるために「レニン-アンジオテンシン系」をうまくコントロールできなくなります。
すると免疫が「暴走」しやすくなり、免疫細胞が正常な組織まで攻撃してしまうようになるのです。
「サイトカインストーム」になると一気に病態が重症化する
本来免疫細胞は、細菌やウイルスなど体内に侵入してきた異物や必要のなくなった自分の細胞を攻撃して排除し、組織の健康状態を保っています。
その際、組織では「炎症」が起こります。
つまり組織から異物を排除するために免疫が働くと「炎症」が起こるのです。
そのため免疫が「暴走」して正常な組織まで攻撃を拡げてしまうと、一気に「炎症」も拡がってしまうことになります。
「炎症」が起きた細胞からは、他の細胞に「炎症」が発生したことと「炎症」を抑えてほしいということを伝えるために「サイトカイン」という物質が分泌され、それが血液中に入ると発熱や倦怠感、頭痛、血液凝固異常といった反応を引き起こして身体全体に異常が起きていることを知らせるのですが、「炎症」が拡大すると当然「サイトカイン」も大量に分泌されることになります。
この身体中に「サイトカイン」が大量に分泌された状態のことを「サイトカインストーム」と呼びます。
「サイトカインストーム」が起こると、「サイトカイン」による発熱や倦怠感、頭痛、血液凝固異常といった反応も過剰になるため、急激に全身状態が悪化したり、血液凝固異常による血栓形成によって心筋梗塞や脳梗塞、肺梗塞などを引き起こしかねません。
つまり「サイトカインストーム」が起こると、病態が一気に重症化しやすいということです。
しかも注意しなくてはならないのは、「サイトカインストーム」は比較的短時間のうちに起こりやすいということなのです。
ビタミンDが「サイトカインストーム」を低減させる!?
実は新型コロナウイルス感染症の重症化には「サイトカインストーム」が大きく関わっていると考えられています。
したがって、病態の重症化を防ぐにはいかに免疫の「暴走」を防いで「サイトカインストーム」を起こさせないようにするかが大事になります。
今回お話ししてきたように、本来であれば免疫を調節する「レニン-アンジオテンシン系」は「ACE2」がうまくコントロールしているのですが、新型コロナウイルスが結びついて「ACE2]がうまく働けなくなってしまうと、免疫が「暴走」しやすくなるので「サイトカインストーム」も起こりやすくなります。
そのため新型コロナウイルスに感染しても「レニン-アンジオテンシン系」による免疫を調整する働きを保つことができれば「サイトカインストーム」の予防に繋がるのですが、ここで活躍を期待できるのがビタミンDなのです。
実はビタミンDには「ACE2」の代わりに「レニン-アンジオテンシン系」を調節して「サイトカインストーム」を低減させる可能性があるということが分かってきたからです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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