人間は社会の中でこそ人間らしく生きられる
新型コロナウイルス感染症の対応で、1~2か月デイサービスがお休みになっていたり、通うのを控えていた患者さんが多くいらっしゃいます。
その結果、動作能力が低下してしまったり、認知症の症状が進行してボーっとすることが多くなったという方が少なくありません。
やはり認知症の方にとって、いかに家の中に引こもっていることが良くないことであり、身体を動かしたり色々な人と交わることが症状を安定させるためには大切なのか、ということを改めて認識させられました。
以前もお話しした通り、認知症の方を家に引きこもらさせて刺激のない生活を送らせたり、一人にして構わないでいると、坂を転げ落ちるように認知症が進行していってしまいます。
そもそも人間というのは、他人との交わりを通して初めて人間らしく生きられる社会的動物であり、社会性を保つことが脳の活動を促すことにつながり、認知症を進行させないためには不可欠だからでしょう。
ただ誰かと会話するだけでも脳は活性化するのです。
相手の言葉を理解しつつ、口調や表情、態度などからも伝いたいニュアンスを察し、自分の言いたいことを言葉を選んで相手に伝えるなどして気持ちを通わせるというのは、何気ないことのようですが、実は高次の脳活動が要求されるとても高度な人間的活動なのでしょう。
会話する相手が1人だけでなく、複数人にいるのであれば、それはなおさらだと思います。
しかし誰かと会話するのは良いことですが、会話する相手が妻や子供など身内でいつも決まった人だというのは考えものです。
一緒に同じような生活をしていると会話の内容もワンパターンになりやすく、脳への刺激も少なくなってしまうからです。
ただ会話をすればいいという訳ではないのです。
それが本人ができないことや間違いを指摘して批判したり、怒ることです。
また症状の程度にもよりますが、本人の理解が難しいのに、理屈を説明して納得させようとするのも避けるべきです。
「お父さん!違うでしょ!」
「そんな訳ないじゃない!」
「これは〇〇だから〇〇でしょ!」
「何でこんなことも分からないの!」
相手が長年一緒に暮らしてきた身内であれば、歯がゆくなってついついこんなことを言ってしまうのも分かります。
ただこれが認知症を進行させてしまうのです。
感情の波立ちが認知症を進行させる
認知症の人が自分の間違いを指摘されたり、はっきり否定されたり、怒られたりしたら、一体どのように感じるでしょうか。
ただでさえ分からないことやできないことが増えてきて不安なのに、そのことを指摘されてはっきり否定されたり、怒られたりしたら、ますます不安になってしまうでしょう。
それに対して本人が自分を守るために「うるさい!」「分かってる!」などと感情的になってしまうのも分かります。
しかし認知症の人に対して、不安や怒りといった負の気持ちを増強させて感情を波立たせるようなことは決してやってはいけません。
不安のために、いわばギリギリの状態で何とか自分を保っているかもしれない認知症の人にとっては、そういった感情の波立ちが大きなストレスとなり、身体的にも精神的にもバランスを崩して、もの忘れはもちろん様々な精神症状を引き出したり、進行させることになるからです。
このような不適切なやりとりをしていると、いくら症状に合った薬を使ったとしても、なかなか思うような効果は得られません。
そればかりか坂道を転げ落ちるようにして、症状はどんどん悪化していってしまいます。
言葉は悪いかもしれませんが、このような不適切なケアをすることは「認知症がもっと悪くなれ」と階段の上から本人の背中を蹴とばしているようなものだと言えます。
それだけ普段の生活で何気なく行っているかもしれない会話や言葉掛けというのは大事なのです。
しかし、実際には家族や介護スタッフの不適切なケアにより、認知症の症状が増強してしまい、結果的に周りが困ってしまうという症例が後を絶ちません。
そのため、適切なケアさえできれば認知症の症状も落ち着くというような症例が、実は多く存在してるのではないかとも思われるのです。
では、どのような会話や言葉掛けが好ましいのでしょうか。
それについては、次回お話しいたします。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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