認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(2)

前回は、認知症を進行させないためにはデイサービスなどを利用しながら日常的に他人と接したり、会話する機会を持つことが大事だけれども、会話の中で本人の間違いを指摘して否定したり、怒ったり、理解が難しいのに理屈を説明して納得させようとしたりするのはやめた方が良いというお話をしました。

認知症の人はストレスに弱く、不安や怒りといった負の気持ちを増強させたり、感情を波立たせるようなやりとりを続けていると、どんどん病状が進行していってしまうからですが、それにも関わらず実際の臨床ではこのような症例が後を絶たない、ということもお伝えしました。

今回はその続きになります。

 

好ましいケアのキーワードは「穏やか」

認知症を進行させないような好ましいケアとは、何といっても認知症の人が「穏やか」に過ごせるようにすることです。

前回お話ししたように、認知症の人は不安のためにいわばギリギリの状態で何とか自分を保っているという面があり、ちょっとしたストレスでも心身のバランスを崩しやすいのです。

また、そもそも認知症疾患に移行しやすい自閉症スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動症ADHD)傾向の強い人は、もともと色々なことに対して過敏でストレスに弱いという傾向があります。

とりわけパーキンソン病レビー小体型認知症といったパーキンソン病関連疾患では、ストレスに弱い人が非常に多いという印象があります。

したがって認知症の人をケアするうえでは、普段からできるだけ本人がストレスを感じないような声掛けや対応などを工夫する必要があります。

本人にとって馴染みの環境で、馴染みの人たちの中で、毎日安心して「穏やか」に暮らすことができれば、認知症の症状が急激に進行していってしまうようなことはまずありません。

つまり、いかに本人が「穏やか」に過ごせるようにできるかが大事なのです。

 

否定せずに笑顔でまずは受け入れる

適切な認知症ケアにおいては、認知症の人がおかしなことを言ったとしても「そうですね」と、まずは否定せずに受け入れる態度が必要になります。

相槌を打つのが難しいような場合は聞き流してスルーしても構いません。

また、どうしても本人がしつこく言い寄ってきたり、いわゆるスイッチが入って落ち着かなくなっていたり、大声をあげて怒っているような場合には、スッとその場を離れるのも良いでしょう。

しばらくすると、あれだけ本人が執着したり興奮していたのにも関わらず、さっきのことなどはすっかり忘れてケロッとしていたりします。

決して本人と同じ土俵で言い合ったり、感情をぶつけ合ったりしてはいけません。

そうすると、まさしく火に油を注いでしまうことになるからです。

そして可能であれば、何かにつけて笑顔で「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えたり、「大変だったでしょう」と本人の気持ちに寄り添いつつねぎらったりすることも大切です。

他人から大事に思われていることを実感できると、本人はとても安心して「穏やか」な気持ちになるからです。

 

頑張るのは本人ではなく周りにいる人

こちらが「困った!どうしよう?」というようなことがあっても、決して本人には不安な表情は見せないことが大切です。

認知症の人は敏感にそのような表情を察知しますし、不安な感情ほど相手に伝わりやすいものはないからです。

とはいっても「こっちはこんなに大変なのに、本人だけいい気持ちにさせる対応なんて無理!」「私に今までこんなに大変な思いをさせてきて、そんな都合のいい話なんてない!」「そんなのイヤ!」「絶対できない!」という家族もいらっしゃいます。

もちろんそれまでの家族の歴史や家族関係が、その後の本人のケアの質に影響を与えてしまうことはあるでしょう。

ただ認知症の人に負の感情をぶつけても、症状を悪化させてしまうだけです。

症状が悪化すると、そのしわ寄せは結局一緒に暮らしている家族に戻ってくることになるので、さらに家族の介護負担が増えてしまうことになります。

認知症になると、色々なことを我慢するのが難しくなったりして、いわゆる「わがまま」になってしまうことも多いため、よく「子供返り」しているみたいだと言われます。

そのため適切なケアを目指すうえでは、子供と接する時と同じように、こちらがいわば「大人の対応」をできるかどうかに掛かっているとも言えます。

そもそも本人に「分かってほしい」「こうしてほしい」と願っても、それはまず難しいんだということを理解しなくてはいけません。

認知症の本人に「変化」を求めても、それは無理な注文なのです。

そういった意味では、変わらなければいけないのはむしろ介護をする「周りの人」だと言えるでしょう。

頑張るのは本人ではなく周りにいる人なのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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